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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第八章 錆び付く鉄鋼
291/376

U(2)

「深度500へ」

「深度500!」

 艦長はカルゼンリの最大可潜深度650へ向けて現在の深度200から一気に潜航し逃げるつもりだ。旧式のアファースのカタログ可潜深度は390であるためそれが全く届かない深度まで潜れば、追撃は出来ない。地上や空であれば110mの差など目と鼻の先と言えるが水中ではその僅かな差が圧力を変えてくる。おまけにその深度ではまず陽の光届かぬ真っ暗な世界であるため、それだけ離れてしまえば目視も出来ない。また、アファース搭載の魚雷もそこまでは届かず改良型の魚雷でもまず届く前に圧壊する。

 このあたりは深度10000m級の海溝が広がっているため、まず海底に激突する心配はないため勢いよく潜航することが出来るが、何らかの原因で浮上できず深度が下がっていけばまず助からないということの証明でもあった。

 星の胃袋とも呼ばれるこのザートリナス海溝に差し掛かったカルゼンリは、海溝の壁に沿って潜り続けていく。深度計が300を指したころ、聴音手が魚雷のスクリュー音を捉えた。

「六時方向より魚雷六接近!」

「面舵40、デコイ発射用意」

「おーもかーじ四十ぅー!!デコイ発射よおーい!!」

 急速な旋回に船体は軋み不気味で乗組員たちが聞きたくない音が船内に大きく轟く。まるで船が圧力に耐えかね泣いているように聞こえることから、この星の潜水艦乗組員達からは船の泣き声だとか潜水艦の悲鳴だとかはたまた海の唸り声、などと呼ばれ恐れられていた。潜水艦は水上艦艇と比べ潜航中に沈めばまず助からない、いや洋上にて浮上中でだって出入口がはしごで繋がった一カ所しかないため、よほどの猶予がない限り乗組員の大半と共に沈んでしまう。

 しかしこの嫌な音を聞いてでも回避しなければ魚雷の直撃によって本当に沈んでしまうため仕方のないことだった。

 このままなら魚雷は回避できる、総員そう思っていたが艦長以下数名はふと気づいたことがあった。

「魚雷6……足りない」

 オースノーツの水中AL小隊の編成は四、マニャルパであれば魚雷を一斉全門発射すれば魚雷は八発になるはずだ、しかし発射されたのは六発つまり一機別に行動をしているということになる。

「聴音手一機足りない」

「ハ」

 聴音手も聴神経を研ぎ澄ませて僅かな音にも耳をそばだてて息を止める。自分の呼吸の音が邪魔だった、それどころか心臓の音すら邪魔に感じるほどだった。

「……直上!」

 それを聞いた途端艦長たちは耳を疑った、何故どうやって一機だけが直上に接近するまで近づけたのか、どうやって追いついたのか。まるで理解が出来なかったがとにかく今は更なる潜航が必要だった。

「急速潜航!!艦首下げろぉ!!」

「急速潜航ーぉ!!艦首下げろーっ!!」

 艦首のタンクに一気に海水が流れ込み逆に艦尾からはタンクがブローされ海水が海に解き放たれる。艦首と艦尾から生じた大量の気泡が直上にて構えていたナルバリーダー機のレーダーとソナーを狂わせるが位置はわかっている。三機のアファースが放った囮の魚雷がカルゼンリが何分も前にいたところを通過し海溝の側壁に激突して爆発した。

 真下にはとんでもない角度でまるで沈むような勢いで潜航していく敵潜水艦、アファースの可潜深度ギリギリであるためナルバリーダーはメーンタンクに注水し機首を下に向けるとスクリューを最大出力にする。戦略的な機動力ではALは船には敵わない、だが戦術的機動ではALが上回る。

 艦内では非常識なまでに傾斜したために色々なものが艦首に向かって流れ落ち、キッチンでは主計科のコックたちが食材に塗れ一人が飛んできた包丁で肩を切られ白い制服を血で染める。

「滅茶苦茶すぎるぞ!」

 誰かが叫ぶがそれだけ危機的状況に陥っているという証拠でもあった、事実、ナルバリーダーの放った魚雷は真上からカルゼンリに接近、紙一重で直撃は免れたものの近接信管によって至近距離で爆発したことで、艦体左舷中央付近の外殻が破損、浸水が始まる。

 ダメコン班が出動し、艦橋内では噴き出す水を止めるために乗組員たちが対応する水道管のバルブを全身を海水でずぶ濡れにしながら締める。その間でも、体に降りかかる海水の冷たさに震えつつも決して持ち場を離れず操船や探知の職務を果たそうとする者もいる。

 彼らは艦長の指示に間髪入れずに従ってバラストの注排水や舵取りを行い、息を合わせて艦を自在に操るが浸水とそれによる傾斜が始まった艦はいつものそれより扱いにくかった。何か舵系統が先ほどの出やられたのか舵が常にわずかだが取舵に切られている状態で、少しずつ左を剥き始めていることに気づくのに十秒ほどかかった。

 そしてその間にも魚雷に遅れてナルバリーダーの機体が艦に近づき爪を伸ばしている。だが、潜水艦とてALに一方的にやられるばかりというわけではない、当然対抗手段は開発されていた。

「AALM四発!三秒間隔撃て!」

「AALM二発三秒間かーく撃てーっ!」

 艦長の指示の後、艦尾付近上部の孔からバスケットボール大の球体が三秒ごとに一個ずつ放出される。海中に投げ出されたそれら球体はすぐに起動すると接近する核融合炉の発する特有のマイクロ波などを探知し内蔵されている小型ウォーターポンプ推進器によって移動、吸い寄せられていく。

「機雷か!」

 レーダーに僅かに映った小さな小さな豆粒のような点、それがレーダーの中心に向かって移動したように見えたため、ナルバリーダーは潜水艦が対AL用機雷を放出したのだと気づき機体を捻り横スラスターを推力全開にして回避運動を取る。魚雷によってカルゼンリが損傷したことに気を良くしたことで注意が散漫になってしまったため、機雷に気づくのが遅れてしまった。

 これまた至近距離で爆発を受けたナルバリーダーのアファースは多重爆発に巻き込まれ大量の気泡が生じアファースの部品が海中に散っていく。

 撃破されたのか、いや、彼はまだ生きていた。咄嗟に庇ったおかげで両腕を破壊されてしまったが機体自体は無事だったようだ、ただしあちらこちらがダメになってしまったおかげで警報は止まらないしコックピット内部まで浸水が始まっているため、後退するしかない。

「ナルバリーダーより各機へ。被弾し戦闘継続できない、各機の指示で追撃しろ」

〈ナルバ2了解〉

〈ナルバ3了解〉

〈ナルバ4了解〉

 追いつきつつあったナルバ小隊各機は命令通り攻撃に入る、それぞれが魚雷を発射すると今度はカルゼンリがデコイ魚雷を発射し魚雷は二発が近接信管によって爆発しスクリューに損傷を与えたが残り四発がデコイに吸われていった。

 魚雷戦ではどうも勝負はつかないようだ、となればALとしてやることはただ一つ、より接近して両手の爪で船殻を破壊し沈める。格闘戦に挑めないリーダー機は指揮を執るため各機に追従し部下三機でカルゼンリを沈めることになる。

 カルゼンリはというと、先ほどまで距離のあった三機が突出していた一機に代わって接近してきたことで敵が格闘戦に持ち込もうとしていることを予測、すぐに魚雷と機雷の準備をさせる。

「反転魚雷を一番から四番まで装填。AALMを合図したら三秒間隔で六発放出」

 すぐに魚雷発射管に反転魚雷が装填される。

「魚雷一番から四番一斉射」

 魚雷が艦首発射口から四発連続して発射されたと思ったら、発射された数秒後に魚雷は艦の進行方向とは逆に推進を始めた。

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