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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第二章 舞い降りる機動要塞
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月海原の鮫(3)

〈おい伍長、何やってんだ!〉

 唐突に通信機から隊長の怒鳴り声が飛んできた。キリルムは自身のアルグヴァルのコックピットに上半身だけ突っ込んで通信機でリンドに呼びかけていたのだ。彼のALは別の輸送船に積んである。

「ハイ!少しでも対潜の助けになればと!」

〈それは海軍に任せりゃいいだろうが!海軍に!〉

 キリルムが言うことは当然なのだが、居てもたってもいられなかったのである。沈められればアルグヴァルごと海中に没し、運が悪ければ魚たちの養分となってしまうかもしれない。

 重ヴァルのモニターが九時方向、二千m付近で海面のうねりを確認した。海中で爆発が起きたようだ。深度は不明であるが、あれが敵潜のものならば敵は既に急速潜航をしているはずである程度の深い場所での爆発なのだろう。確認はできないが恐らく間もなく海面に重油や水に浮くものが浮いてくるはずだ。

「流石だ……」

 パリオーサのALのあっという間の仕事に素直に感心していたリンドだったが、安堵はすぐに恐怖に変わった。それは下の方を大声で叫びながら乗組員が通り過ぎたことで知ったのであった。

「九時方向、魚雷せっきいいん!!」

「まだいた!?いや、さっきの奴の!」

 恐らく同じ方角に複数の潜水艦は配備しないだろう。だとすると先ほど沈んだ敵潜が、最後っ屁に放った魚雷の可能性が非常に高かった。海中から魚雷をヨッターが追跡しているが、いかんせん魚雷のほうが速度が速く、見る見るうちに引き離されていった。

 左翼に位置する艦艇が海面に向かって射撃を行うが、快速で進む小さな目標には当たらない。砲では連射力が足りず、機銃では威力が足りず水中に突入したとたんに一気に威力が減衰し、魚雷にダメージを与えられない。

 それでも一本、爆発音とともに巨大な水柱を上げて破壊された。が、残り三本がまだ艦隊を狙っていた。一本が射撃によって進路を変えられ、頭を下に向けられて海の底へと潜っていったが残り二本の内、一本が一番外周にいた六水戦のリッチルの舷側に命中、装甲を食い破って中で大爆発を起こし、リッチルの艦首は断末魔の叫びが如き悲鳴を上げて避けてしまった。それでもまだどうにかリッチルは沈まずにいるが、艦体は傾いており艦隊からの落伍は必至であろう。

 そして最後の一本、それはモニター越しにリンドの肉眼でも確認できる距離にまで接近していた。そう、リンドの乗るビキネム号のどてっぱらへの直撃コースであった。このままいけば恐らく丁度重ヴァルが積んである辺りに命中するだろう。リンドは半ば無意識の内に管制装置に魚雷までの距離の計算を行わせていた。

「やってくれるよ!」

 対地機銃と突撃銃を魚雷目がけて手前から奥に向かって一斉射した。無数の弾丸が海面を叩き、魚雷に迫る。ほぼ正面、斜めからならともかく向き合った状態なら外すことはない。が、突貫での計算であったためなのかは不明だが、誤差が出たらしい。海面ごと抉るように放たれた弾丸は、魚雷の少し手前で爆発、持ち上げられた魚雷は勢い余って海上に飛び出した。そしてその魚雷の向かった先とは……

「おえええ!?」

 リンドの目に映ったのは魚雷の真ん丸な弾頭であった。思わずのけぞったリンドの動きに同調してアルグヴァルも多少のけぞった。そしてつい反射で魚雷に手を伸ばし、あろうことかつかんでしまったのだ。

「………!!?」

 自分でも自分のやったことが理解できなかった。アルグヴァルの右手にはスクリューを空転させ続けているグレーの細長い魚雷が握られている。それを眼にした乗組員たちも口をポカンと開けてその光景を見上げていた。これは時間にしてほんの一瞬のことであったが、とても長く感じられてたリンドを我に返らせたのはキリルムの怒鳴り声であった。

〈馬鹿野郎!!早く捨てろや!!〉

「あっ!ハイ!」

 のけぞったままの重ヴァルは、その姿勢のまま右腕だけ後ろに回し、魚雷を海面に向かって垂直に落とした。魚雷は角度を浅くそのまま海中へと進んでいった。

「…………」

 何だったのだろうか、勢い余って海中に飛び出した魚雷の話は聞いたことがあったが、そのままキャッチされた魚雷の話など聞いたことがない。恐らく古今東西、未来にもこんな事例はあるまい。リンドは眉間に皺を寄せながら右手をじっと見つめた。

〈お前、何したんだ?〉

 珍しく困惑した様子のキリルムの問いに彼自身もうまく答えることができなかった。だがこれほどに不思議な体験をしたのは面白い話のタネになったに違いない。今度国に帰還したときに家族に話してやろうと、彼は微笑んだ。

(セレーンにも話してやろうかな)

 故郷で待つ美しい女性の顔が頭をよぎった。

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