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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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バーニング(3)

「どうするどうする……どうすれば出来る……」

 どうにかして救いたいがさりとてALといえど万能兵器ではない、他の兵器で出来ることが出来ない場合だってあるし、不得手とすることだってある。例えばその一つが今ゼラ機の残骸とカトマ機の残骸の影に取り残された十余名の兵士達の救出である。彼らは反撃一つできずに敵の十字砲火に晒され装甲の裏側に身を寄せあって爆風や鉛弾から身を守ろうと怯えているが、ALは兵員輸送車ではないため彼らを纏めて運ぶことが出来ないのだ。

 それでもこの星の人類が生み出した科学の申し子、汎用装甲人型兵器アームド・ローダーならばそれなりのアプローチ方法があるはずだ。しかしそれが思いつかない、通常ならば自分が出て行って敵弾を受けつつも装甲で無理矢理押し通しどうにかするはずだ、しかし今の彼の機体はあちらこちらの増加装甲が剥がされ本来の薄い装甲が露出し、おまけに右腕は失われ左腕はトルクの大半が失われホールド機能も恐らく意味をなさないため、彼の機体ではそのゴリ押しは出来そうもない。

 かといって隊の他の機体は皆中装型で盾も皆中~大破して作業している間耐えられそうもなかった。

〈クソ!空軍は何やってんだ!〉

 ムートル兵長の叫びももっともだ。目的地であるカカポラック基地はジジェメッツでも大きい方に入る支援がこれっぽっちも見当たらない。空軍基地でそれなりの規模の航空部隊が駐留しているはず、だというのに基地の近くに接近してなお味方による航空支援がこれっぽっちも見当たらない。

 だが当然それにも訳はあった。今回の強襲空挺降下のために同盟軍は周辺の空軍戦力をありったけ投入し完全に奪われた制空権を無理矢理一時的に確保したのだが、その際カカポラック基地の戦闘機部隊は壊滅状態に陥ったのだ。そのため、制空権もないまま爆撃機を飛ばすことが出来ず彼らに航空支援を行うことが出来ずにいた。

(いや待て……)

 そうだ、と彼はフォボルヴ機の方を振り返る。全員が中装型でないのは先ほど自分で命令したからわかっていたことではないか。リンドはフォボルヴにこう命令した。

「フォボルヴ、機体を交換する」

〈はっ?〉

「交換するんだ、俺のと」

〈それは、どういう意味でありますか……?〉

 彼の疑問は当然であろう、何故自分の機体と隊長の機体を交換する必要があるのか、それで何をするのか理解できなかった彼は、非常に困惑した表情を浮かべていた。

「もう一つ聞くがウインチ……ワイヤーは生きてるか?」

〈しょ、少々お待ちを……ハイ、二基とも〉

 リンドはそれを聞いて満足げに頷くと彼の機体の方へと進んだ。

〈隊長、一体何をする気です〉

 フーフラーファは稜線から反撃しつつ、バックモニタに映る背後を通り過ぎていくボロボロの彼の機体を目で追う。

「俺がお前の機体で今からゼラ機とカトマ機から動けない味方を助けに行く。俺のはもうワイヤーが全滅したからな」

 そう説明する彼の言う通り、リンド機に配されている両脇腹とリアスカート中央上部に取り付けられているワイヤーを巻いたウインチは全て戦闘によって破壊されており内二基は基部ごともぎ取られている。

 ここは隊長として自分が率先していかねばならないと考えたリンドは部下に自分の機と一時的に交換するように指示したのだ。

〈隊長なら自分が〉

「曹長は皆を守ってください。伍長も」

〈……わかりました〉

 心を見透かされていたビテールンは、開いた口を了承の言葉でもって閉じる。

「こっちに」

 そう言ってフォボルヴを呼び寄せたが、彼はそれを拒否する。

〈できません〉

 一瞬聞き間違いかと思ったがそんなわけはない、彼の言葉を聞いた全員が己の耳を疑っていた。

「どうしてだ」

 そう問いただしたリンドは思わぬ返答を聞くことになる。

〈自分が、自分がやります!〉

「は?お前何を」

 何故わざわざ死の危険を冒す志願をする必要があるのか彼には理解できなかった。可能な限り新兵を生かして返してやりたい、既に二度目の出撃であった三人を失った現状で初陣の彼等三人が生きているのが奇跡的であるから、あともう少しで空軍基地にたどり着けるということもありこんなところでこれ以上部下を死なせたくはない。

 それに、先ほどまで度胸のなさを見せていたフォボルヴが何故急にそんなことを言いだしたのか全くもって理解できなかったが、彼には彼なりの思いがあった。

〈隊長はその、自分を囮にしても僕たちを逃がしてくれました。だから自分もその恩に報いたいんです〉

「……お前主人公か何かなのか?呆れる……」

 馬鹿なことを言ってないで代われ、そう切り捨てようとコックピットハッチ開閉スイッチに手をかけたところで側面から飛んできた砲弾が胸部に命中、跳弾し衝撃でコックピットが揺れたことで彼はふとその手を止めた。

(キリルム中尉もボルトラロール少尉も……同じことを)

 彼は今まで自分が非常に無茶なことをしてきたことを思い出す。そうだ、きっと隊長たちも同じように考えてた、だけどそれでも信頼してくれていた……のかもしれない。

 息を深く吸い込んだ彼は、一転しフォボルヴに行くように指示する。

「曹長、盾を貸してやってください」

〈いいんですか〉

「いいんです。フォボルヴ、俺たちが援護する。落ち着いてまずゼラ機まで向かえ」

〈ありがとうございます〉

 フォボルヴは礼を述べると一旦引っ込んだフーフラーファ曹長から半壊した盾を受け取り稜線の切れ目に立った。敵の砲撃は少し弱まっている、そこにリンド機は稜線に機関砲を置いて支えにすると乱射を始めた。

「行けーっ!今だーっ!!」

〈ハイッ!〉

 上ずり気味の返事と共にフォボルヴはペダルを踏み込むと、機体を思い切り走らせ始める。隠れた敵が突然姿を現したので若干のラグはあったが敵の攻撃は彼の機体に集中する。盾がガンガンと絶え間ない音を立てて歪み穴を穿たれていくが、どうにか堪えつつ彼は進む。

〈いいか!ゼラ機の横に立ったらハーケンを撃ちこめ!〉

 ぬかるみに百ガトンを優に超す重量のために脚が取られ沈むが、それはAIが自動的に接地圧の調整を絶えずしてくれるため、なんとかまっすぐ歩くことを維持できている。

 やがて、今なお炎上し続けているゼラ機にたどり着いた彼は少し離れたところに立つと、ワイヤーの先に超強力な電磁石の付いたマグネットのハーケンを撃ち込み、両脇腹のワイヤーは見事にゼラ機に接続、彼は右手で残骸に取りついている味方に離れるように指示すると、ゆっくりと後退を始める。

 ワイヤーの射出機能が正面に限定されている都合、今彼の機体は敵正面を向くことが出来ず、左側面を晒すほかない。盾ももう限界を迎えておりいつダメになり切るかも不明だった。

 慎重にかつゆっくりと味方たちのいる方へと残骸を引っ張っていく様子から始めは機体に残された仲間に一縷の望みをかけて回収しようとしているのかと考えていた兵士達も、自分たちを守るために牽引しているのだと知り、その速度に合わせて巻き込まれないように注意しつつ彼らも移動を始めた。

〈はあっ、はあっはあっ……〉

 鼓動は早鐘を打ち呼吸はまるでエンジンのように絶え間ない。グローブの中はぬめり今にも手がすっぽ抜けるのではないかという錯覚に襲われる。

 百二十秒後、フォボルヴ機はカトマ機と交差した。そこでいったん止まるとカトマ機の影に隠れていた味方歩兵が合流するのを待ちもう一度牽引を始める。

〈うわっ!〉

 盾が遂に吹き飛び、左腕も損傷を受けリンド機のようにトルクが失われだらんと力なく垂れさがる。油圧シリンダが折れたのだろう、肘関節から大量の焦げ茶色をした粘度の高い液体が滴り落ちて地面を汚していく。

〈あと少しだ!頑張れ!〉

〈そうだーっ!あと少し!あと少しだぜ!〉

〈ムートル北北西!AW!〉

 ムートル兵長が慌てて指示された方角から接近する、大型ロケットを装備したAWを吹き飛ばしている最中、遂にフォボルヴ機は到着し十八名の味方兵士を救助することに成功した。

「やったなフォボルヴ」

 リンドの安心した様子の言葉に、フォボルヴは全身の力が抜けた状態で力なく、ハイ、としかいうことが出来なかった。それほどにこの数分の間に彼の神経はすり減ってしまっていた。しかし、心は非常に満ち足りていたという。

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