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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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バーニング(2)

 先ほどあまり矢面には立たせたくないと心情を描写したばかりであったが、この状況ではそんな甘っちょろい理想論など語ってられなくなったリンドは、指揮官として部隊を守るべくあるべき判断を下す。

「全機左に空いた穴に突っ込め!!殿は俺とフォボルヴ!」

〈えっ!あっ!〉

 突然名を呼ばれたフォボルヴは混乱してその場で足踏みしてしまい敵への反撃が遅れてしまい、今なお集中砲火を浴びて必死のリンドに怒声を浴びる。

「フォボルヴ責務を果たせ!!二秒斉射したら下がれ!」

〈はいいいっ!〉

 涙の混じった声でそう返答した彼は、左翼方面へと急速に転換する味方を背にリンドと共にその場に残り、ガトリングシステムを起動する。半重装型であるため通常の重装型の半分以下の火力しか持たないものの、それでも一基でもガトリングシステムを搭載しているのは大きい。

 一斉射用の起動スイッチを跳ね上げると、折りたたまれていたガトリングが可動し銃口を肩越しに正面に向け、ロケットポッドの蓋が展開、マニピュレータで保持している自動的に機関砲と突撃銃も正面に向けられたことで、一斉射の準備が完了する。あとは操縦桿のトリガーボタンを押すだけだ。

 一斉射の経験は訓練で一度だけ、しかもシミュレータでのことであったため実際の迫力は味わったことは無い。それを今彼は、土壇場のこの状況で実際に味わうこととなる。

「撃てーっ!」

 懇願にも似たリンドの叫びに、フォボルヴは思い切りトリガーを引いた。

 重装型の約半分の火力とは言え、嵐が吹き荒れることには変わりなく周辺に立ち込める黒煙が吹き飛ばされ、右翼側から接近していた敵戦車とALの内半数がもろに銃弾を浴びて鉄塊へと姿を変える。激しい爆発や倒れるALに巻き込まれ潰された装甲車もいたほどだ。僅か三秒ほどの出来事だがこれだけでフォボルヴは五十人ほどの敵兵を殺しその1.5倍もの負傷者を叩きだす。

 そんなことをつゆも知らないフォボルヴは、反撃によって右肩のアーマー基部を失ってロケットポッドともども喪失しつつも、リンドの指示の下移動する皆に追従を始める。

「後ろを向かせ続けろ前は向くな!」

〈はい!〉

 上半身の反転機能を使ってリンドは正面を、フォボルヴは右翼の方に上半身だけを向けた状態で転進し敵の砲火を逃れようと試みる。

「援護を!依然としてうわっ!敵の戦力強大!全滅してしまう!」

 司令部に増援を要請するリンドの視界の端で、カトマ一等兵の機体の右足が地雷で破壊され、前のめりに倒れこんだ。カトマは立ち上がろうと腕を地面に着いたところ不幸にもその場所にも地雷が設置されていたために右手も下腕の先あたりからが完全に破壊されてしまった。

〈カトマ!〉

 すぐ後ろを行っていたクウレヴが立ち止まって彼の機を立たせようと立ち止まると、そこに敵は当然火力を集中させる。

〈馬鹿野郎止まるんじゃねえ!〉

 ビテールンはクウレヴを行かせ自分が戻って助けようとしたが敵の砲火が激しく阻まれる。

 敵のALがバズーカを撃ち、カトマは先の丘陵地帯で中破していた盾を掲げてはいたものの、そんな半端な状態になった盾では、バズーカのような巨大な成形炸薬弾を完全に防ぎきることは出来るはずもなかった。左腕の肘から先が破壊されただけでなく、爆風で頭部が焼かれメインカメラが完全に死んでしまった。

 すぐにサブカメラの映像に切り替えられたため視界を失わずには済んだものの、著しい索敵能力の減衰は免れられない。

〈立てるか?〉

〈クソ、クソォ……無理だ歩けない〉

〈脱出だ!〉

〈分かった……〉 

 初陣で、敵ALの一機も撃墜出来ないままに機体を捨てることになった彼の悔しさは計り知れない、しかし命あっての物種だ、生きていれば戦果を得るチャンスはいくらでも回ってくる。シェーゲンツァートが降伏しない限りは……

 彼が脱出する間、クウレヴがその場に残ってどうにか機体を守ろうとするが彼の装甲の薄い中装型ではこのままでは撃破されてしまう。そこにリンドが追いついた。

「クウレヴ!俺が代わる!行け!」

〈は、はい!〉

 クウレヴは機体を立たせると、バシバシと被弾しつつも皆が避難している稜線の影へと滑り込む。リンドは敵とカトマ機の間に陣取るとそこに片膝をついてどっしりと構えつつ、カトマ機の投影面積を可能な限り減らしていた。

〈隊長!〉

 通信機がカトマのヘッドセットからの通信を辛うじて拾い、彼が無事に脱出できたことを認めると左手を後ろ手にやって彼を回収、左側面にある狭い脱出用ハッチから機体に入らせた。

「はあ、はあ……ありがとうございます隊長!」

「無事か!行くぞ掴まってろ!」

「ハイ!」

 リンドはカトマの腕が足元に見えた時点でハッチを閉じ、彼が寝床に滑り込んだと同時に返答を待たずに機体を立ちあがらせていた。

 カトマ機の盾になって二分程、しかしこの間にもリンド機は歩兵の携行火器含む二百発以上の弾丸を浴びており、頭部の増加装甲と左膝と右脚の増加装甲を酷く抉られていた。対空対人機関銃もバックパックの一基しかもう残っていない。

 先ほどのリンドの斉射によって原形をとどめないまでに破壊された装甲車であった残骸を踏み潰し、リンド機は走る。今の彼の機体は両ガトリングが破損し使用不能、殆どの機関銃の喪失、ロケットポッドは脚部に残された三発のみ、左腕の腕部機関銃と持ち上げられない機関砲のみである。つまり実質丸腰だった。

 ろくな反撃も出来ないまま走る彼の機体を援護すべく先に逃げられた味方が稜線の影から射撃を行い敵を牽制する。

〈隊長早く!〉

 そこにようやく待ち望んだ援護がやってきた。

〈こちら司令部、ハグラーヴ(※1)四輛とAWを二個小隊向かわせた〉

「よし!」

 リンドは右ガトリングを基部から破壊されつつも機体を何とか稜線に隠すことが出来た、しかしまだ終わりではない。足の遅い歩兵が避難しきれていないのだ。

 一部は戦車にデサントして逃げられたのだが全員が乗れるわけではなく多くは自らの足で移動する必要がある。ALならば一瞬の距離でも人間にはあまりにも遠い。

 そのため歩兵部隊は多くの被害を出し更にいくつかの塊に分断されてしまっていた。

 一つが避難出来た者、二つ目が後方に後退出来た者、三つ目に今移動している者、そして最後に撃破されたバーノウィッツ小隊の機やゼラ機、カトマ機の残骸の影で動けなくなってしまった者たちである。

 とりあえず二と四はどうにかなるだろう、今優先すべきは三の移動中で敵の砲火に晒されている者たちである。近くまで来れた兵士はAAが飛び出して自らを盾にしつつ逃がすということを繰り返しているが、いくらAAといえども小銃弾は防げても榴弾砲や戦車砲は防げず、三人が援護のために死傷してしまった。

〈こちらアンリャブウ小隊、兵士約二十名を保護した〉

「了解ありがたい。引き続き援護を頼むこっちは動けん!」

〈あいよ!〉

 どうやら後方に下がった者たちは増援と合流できたらしく、彼らを任せると自分は残骸から動けない兵士や移動中の者を救うことに考えを専念させる。

※1 ハグラーヴ:キサナデア帝国製の装輪式戦闘車ザダズのことで、特にジジェメッツ帝国での現地改良されたものの呼び名。八輪の大型タイヤと戦車の砲塔を乗せているのが特徴で、主に整地路面上で性能を発揮する。

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