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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
251/382

バーニング

「こちら第一小隊、配置につきました」

〈了解。これより十分間の砲撃を行う。終わり次第突撃せよ〉

「了解」

 第一小隊達は指定された攻撃開始予定地点に待機していた。その位置は敵にもわかっているだろうが、司令部の予想が正しければ敵はまだ部隊を展開しきれていないはずで、そこをまず砲撃型ALで攻撃、混乱したところを彼らが突撃して蹴散らす手筈になっていた。

 十分間しか砲撃が出来ないのは、既に自走砲部隊は燃料が尽きてしまい前方を進んでいた車両は少し前に最後の一両が放棄されたばかりであった。戦車も同様であり彼らの来た道を辿れば転々と戦車や重いロケット運搬車などが放棄されており、第一小隊に随伴する第十二機甲小隊が唯一残された軽戦車小隊となっていた。ちなみに燃料運搬トラックも随伴していたがそれらは皆兵士を乗せたトラック専用として始めから設定されていた。これほどの距離はALのような半永久動力をもっていなければ無補給ではついてこれない。

「最大望遠でなんとか見えるぞ」

〈ほんとだ〉

 ALのカメラを最大までズームさせると、敵部隊が展開している様子が見えた。展開中の前線部隊は空挺戦車、装甲車、歩兵が中心となっているものの、少数だがAWの姿も見える。しかしやがてさらに向こう側からALの上半身が近づいて来るのが見え、楽な戦闘にはならないことを悟る。

 どうやってこの短期間で回り込ませたのかわからないほどに敵は大部隊、しかし本当にギリギリで移動してきたのかまだ塹壕を掘っている最中で、戦車用の壕もなくむき出しであった。待ち伏せであるのにそういった身を潜め隠す場所がないのは致命的である。

 そうこうしている内に後方から立て続けに砲撃音が鳴り、敵部隊に向かって榴弾が降り注いだ。観測データは彼等が送っているため始めから正確な照準で、一番初めに着弾した砲弾が歩兵が二十名ほどで塹壕を掘っているところに直撃してしまったほどで、彼等の命は一片たりとも残らなかった。

 まだ準備中であったところに突然次々と降り注ぐ砲弾、敵は慌てふためき射点を特定することもままならず、為されるがまま一方的に吹き飛ばされていった。

〈このままいけば全部済むんじゃ……〉

〈そんなわけないだろ〉

 そんな言葉が飛ぶほどに敵はまとまりもなく反撃もなく伏せて怯えているだけであったが、無理もない。以前にも言及したが今回駆り出されている敵部隊の多くは経験の浅い若い兵士ばかりで彼らを纏められる経験豊富な兵士が絶対的に欠けていた。

 砲撃開始から六分、リンドは深く息を吸いそして吐くと通信回線を開く。

「各機、これより攻撃を開始する。俺が先頭だ前に出るなよ!」

〈了解!〉

〈ハイ〉

 森からAL達が現れる、しかし未だ砲撃の最中であるため全く反撃もないままに彼らは突撃し最前線まで五百mという近距離まで近づくとリンド機以外はその場にしゃがみ投影面積を減らし、その上で出来た自機の影を利用して味方のA兵器や歩兵、車両を守る。戦場の花であり数多の名誉と栄光を受け取る代償として課せられた目立つ兵器の義務、それが味方の守護と敵の目を引きつけ弾除けとなることだ。

 その最たるものがリンドの乗っているような重AL、その戦場の全ての敵の銃口を向けられるが代わりに持てる銃口の全てを敵に向ける。

 全門開放、ロケットポッド展開、機関砲冷却システム最大出力、ガトリングシステム空転開始及び冷却システム最大出力、轟音。

 正直言ってリンドにとって拍子抜けな一斉射であった、いつもなら敵弾を一身に受け絶え間ない金属音と攻撃で削れ、剥がれゆく装甲に恐怖しながらこわばる指で一斉射のトリガーを引いた。しかし今回は敵の反撃は殆どないと言っても過言ではなく、ただ一方的に、一方的に敵をなぎ倒した。

 前回の防衛戦時は対空砲を積んでいたために今回のガトリングシステムを用いた一斉射を見るのは皆初めてで、フーフラーファは何度か一斉射自体は目撃していたもののこれほどの至近距離で見た経験は一度もなかった。そのため、経験豊富なベテラン兵である彼ですら、その迫力には言葉を失ってしまった。

 空気が吹き飛び、周囲の草や花は千切れ死ぬ。だが銃口の先にいたモノは何であれ消え去り人っ子一人無事で済むわけもなく、右から左へと薙ぎ払った結果三個旅団程度の戦力が消失。それは重装型の桁外れの火力もあるが、敵部隊がまだ散開しておらず戦力が斑に固まっていたのが原因であった。

〈すっげ……〉

 フォボルヴ二等兵は、自分が学ぶべき後姿に見とれ放心した様子でそう呟く。

 現在展開中の敵部隊の内半数近くが数秒の内に消滅したことで敵は壊滅状態に陥り最早戦闘継続は不可能となっていた、にもかかわらず敵は生き残った指揮官が体勢を立て直し再編しようとしているのを見て、リンド達は呆れてしまう。このままでは文字通り全滅しかねないというのに、ならば降伏するのが筋だろうに……と。

 が、彼らも考えなしにそうしていたのではない、前進し始めたリンド達を突然砲撃が襲ったのだ。

「うわああーーっ!!」

 次々と降り注ぐ砲弾の雨、最初味方による誤射かと思ったが音が違う、それだけではない密度も数機のALによって行われるような散発的な砲撃ではなかった。これは確実に自走砲部隊による曲射、しかもそれなりの数の。

 車両が吹き飛び、足元のA兵器たちは装甲を破られ砕け散っていく。部隊が丁度前進し敵陣に食い込み始めたところで砲撃を始めたようで、恐らく敵を弱い反撃で自然に誘い込み目標が入り込んだところで潜めていた火力を投射する戦法だろう、しかしこれは敵軍は多くの犠牲を出したはずでこれでは縦深防御とはいいがたい。

〈クソッ!正面は捨て駒じゃねえだろ人間かよ!!!うおっ!!〉

 ビテールンの叫びも当然だった。

「後退!後退!第一小隊待ち伏せを受けた!罠だ!!」

〈ザザ…ら司令……現じょ……報告…よ!〉

 部隊は少しずつ後退を試みるが砲撃が二発、立て続けにゼラ伍長の機体に直撃、一発目で右ひざを撃ち抜かれバランスを崩し倒れるところで胸部に直撃、増加装甲ごとコックピットブロックが撃ち抜かれ通信は途絶した。おまけにゼラ機が倒れた際下にいたAA一機と歩兵三名を道ずれにしてしまう惨事も発生してしまう。

 そこに更に最前線より少し後ろの防御線に控えていた、一斉射の影響を受けなかった敵部隊が砲撃に加わり始める。

〈駄目です下がれません!!〉

 フーフラーファは部隊後方左右からどこからともなく現れた四輛の戦車を示す。

「どこからっ!」

 恐らくエンジンを切って熱を感知させず、非常に上手い偽装をかけていたのだろう。バーノウィッツ小隊の内一機が左からAPFSDSで撃ち抜かれ爆発、バーノウィッツ小隊一番機が敵討ちで一輛撃破したが一番機は頭部を中破させられる。

「下がれない!もう一度やるしか!」

 リンドは再度一斉射をするべくシステムを起動させるが冷却が済んでおらずガトリングの砲身からはまだ蒸気が上がっているような状態で、もしこれを無視して無理やり使用すれば砲身が焼き付き使用不能となってしまう。だが、ここで使わねば全滅である。

 どうせもうすぐ目的地、使えなくなったとしても大して変わりない。そう思い切りリンドはガトリングを回した。

「くたばれええーっ!!」

 地面が沈み込み、重レーアは力を振り絞ってもう一度ガトリングを撃ち乱れ、無差別に敵を吹き飛ばす。六本の砲身は全て赤く焼け爛れまず右のガトリングが機能停止、続けて左のガトリングの内一本の砲身が溶けて歪み、そこに銃弾が飛び込んで爆発、その左隣の砲身がそれを受けて歪み使用不可になる。残った四本もあっという間に焼き付き完全に使用不能となった。

 しかし、その甲斐あってか敵の防御線の左翼一角に大きな穴が生じ、また機甲小隊が左翼側の敵を撃破してくれたおかげで彼らはそちらへの移動が可能になる。

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