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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第二章 舞い降りる機動要塞
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左腕に賭けろ

 12月3日、午後2時。クラーム平原での両軍の戦火が再び大きく交えられる中、ようやく応急修理の完了したリンドのアルグヴァルが戦線に復帰した。コックピットに収まったリンドは、機器のチェックを行う。かなりの損傷を受けていたアルグヴァルは、重装型パックはもとよりパージした増加装甲の殆どを再装備することができずほぼ中装型のままの装備である。その上右腕取り外されており、左腕も肘から先がルスフェイラのものと交換、左足は丸ごとである。頭部は基部ごと破壊されていたため、それも無く視界は機体各所のサブカメラで得るしかなかったのであった。だが頭部を失った弊害はそれだけではない。こうしたロボット兵器には重要な火器管制装置や照準装置及び通信装置といった重要な電子装備が頭部に詰め込まれていることが多く、アルグヴァルも例にもれず多くの重要機器を頭部に押し込んでいた。そのためリンドは照準を、火器自体に備え付けられているスコープから有線で繋いでの照準をとる必要があった。こうすればそこそこの照準能力を得られるが、たった一本のワイヤーがなんらかの拍子に切れてしまえば目くら撃ち同然となってしまうのだ。それほどに頭部というものは重要でただカメラが詰め込まれているというわけではないのだ。

 機体状況を確認したリンドはため息をつくと、ゆっくりと機体を起こした。見るも無残だったアルグヴァルは、整備の尽力によってある程度のていをなしてはいたが、各所の装甲の損傷や装甲版の外された箇所、そして取り換えられた装甲の色のつぎはぎ具合からまったくもって万全とは言えない状態であることは火を見るよりも明らかであった。

 今、アルグヴァルが使える装備は左手に握っているSLW/R-101 100㎜高速ライフルである。携行しやすいように軽量化されたこのライフルは一応スペック上はALが片手でも狙撃可能ではあるが、精密射撃を行うなら両手での保持が必須である。しかし今のリンドにはできないため、少しでも反動を抑えるために左腕に溶接とワイヤーで固定がされていた。そのため今のアルグヴァルは汎用兵器でありながら非汎用兵器となり下がっている有様であった。

「オーセス伍長、只今復帰いたしました。隊長、申し訳ありません」

と、申し訳なさそうに通信機の向こうに報告した。

〈ああ、わかった。おっと……お前はA2ポイントで狙撃を行え。ちっ、野郎またウォーカーか!〉

 絶えず発砲音や爆発音が通信機を通してこちらに伝わってくる。現在キリルムたちは三機で右翼で歩兵部隊らと共に攻勢をかけている。本来なら遊撃部隊たる第4小隊は敵中に突っ込んで、流動的な攻撃を仕掛けるはずだが、リンドとスライの2機ものALが欠けた現状、それは危険極まりないためやむを得ずそうして他部隊と共に行動していたのだった。

「ハッ……」

 ペダルをゆっくりと踏み込んでALを進める。整備士たちがどうにかしてくれてはいたものの、ごまかし程度の修理ではやはりいけないようで、いつもよりも振動吸収が弱く少し振動が大きかった。

 しかしそれでもこれは自分が招いた結果なのだと反省し、黙って機を進めた。足元に注意しつつ歩く中、彼は同時にあの白いALについて考えていた。

 あれから結局第二次攻撃隊はこなかった。当然白いALも。見たことのないALは他のALとは動きが一線を画していた。それは単に機体性能の差とかではないのだろう。きっと、恐らくあのパイロットの技量によるものだ。どんな歴戦の猛者が使っているのはわからない、彼の胸中は二度と出会いたくないという恐怖心と同時に、もう一度会いまみえたいという欲望がせめぎあっていた。次に戦って生き残る自信は正直なところない。今自分が勝っているのは何一つとしてないだろう。ましてやこの状態では。

 物思いに耽っていた彼は、予定地点に到着したことを示す電子音で我に返った。ここは森の一番外れ、これから向こう側はしばらくずっと木々のない平地が続き、その上では敵味方が攻防を繰り広げていた。リンドは機体をしゃがませ、姿勢を落としライフルを構えた。狙撃は専門外だが、やるしかない。彼は一度周囲を見回し周囲に敵がいないことを確認すると、照準器を上から引き下ろした。シェーゲンツァートのALはこのように精密射撃の際は頭上にあるスコープを下ろして直接のぞき込む。

「クソッ、よく見えない……」

 狙撃用のアビオニクスは標準装備の簡易的なものしか組み込まれていない。眼を皿のようにして敵に照準を合わせる。できるだけ、誤射の確立が減るように狙うのは味方と接近していない少し後方の敵だ。右腕は操縦桿を握る必要はない、左腕に全神経を集中させ、細かな修正をかけていく。本来ならこのような微細な修正も管制システムが行うことである。その上腕にライフルを固定しているのだから細かな修正がしにくいことこの上ない。

「よし、まずはあれを……」

 リンドが最初に狙いを付けたのがこちらに側面を晒して前進している重戦車であった。こちらには誰も気が付いていない。距離は1300m、人間なら驚異的な距離でも、ALのサイズならそれほどではない。よく狙いを定め、リンドはトリガーを引いた。

 

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