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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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森の巨人(3)

 残った敵機はガルヴォフォールからの反撃を恐れて追撃もせずにさっさと退散してしまったため、とりあえず難は去ったと言えよう。しかしながら、敵の航空攻撃は終わったわけではなく散発的に嫌がらせのような爆撃をしていくだろうが、あるいは戦力を集中させてより本格的に爆撃を仕掛けてくるという恐れもある。

 司令部に問い合わせてみるとこのあたりは制空権を争っている途上らしく、その返答を聞いている最中にもレーダーの端に敵の戦闘機と味方の戦闘機の識別が映り戦闘を繰り広げているらしい様子は見てとれたため、その話は本当なのだろう。

 撤退を再開した行列は、リンドの機を先頭に進むが彼の機は先ほどの友軍のトラップのために携行火器がうまく抱えることが出来ないため、即応が出来ないことから当然フーフラーファ曹長が代わることを進言してきたものの、リンドはこれが重装型の役目だと言ってやはり断る。

「それにこの先は敵部隊もいませんよ、爆撃くらいでしょ」

〈だといいんですがね〉

 シェーゲンツァートに言霊という言葉はないが、もしそういうジンクスに国境どころか宇宙すら関係ないのならばリンドは口を慎むべきであっただろう。

 


 疲れ目をリンドは擦って欠伸をかき、先ほど食べ損ねたレーションを口にする。カレはビスケットであるため落とした拍子に内装にぶつけて砕けており、寝床にはビスケット屑が散ってしまっていたしカレ自体も三つに割れてしまっていた。割れたこと自体は味には関係ないためどうでもいいが寝床が汚れたのは気にくわない。

 この林道はあまり手入れがされていないのだろう、鬱蒼と生い茂る高い樹木の枝葉は道を半ば覆い隠すように伸び、それはALの胸部から頭部にかけてガシガシと辺り続け鬱陶しいものの、それが寧ろ空からの目を警戒し爆撃を恐れている彼等からすれば好都合で、特に生身の兵士や車両からするととても安心できるものらしく、彼らは例え舗装路を外れていたとしても木陰を進んでいたほどだった。

(どうせ真っ先に狙われるのは俺らなんだけどな)

 ALは背の高い分平地だけでなく遮蔽物の多いこういった場所でも狙われやすいのは仕方がない、それがこの兵器の最大の欠点だ。

 リンドは上部のコンパネのスイッチの一つを下げる、すると頭部のカメラを保護するシャッターが最大限閉じ、代わりに機体各所のカメラがモニタに合成した映像を映し出す。先ほどからメインカメラにバッシバッシと枝が当たっていたため、その程度でカメラを覆う防弾のアクリルガラスが傷つくことはないだろうが、細かな傷がついてしまうことを警戒して彼はそうした。

「うーっ」

 凝り固まった体をよじってほぐす、ずっと同じ姿勢で座り続けているのは非常に疲れ若い彼の体でも十歳以上は年上の体のように凝り固まっており、最近現れ始めた肩と腰の痛みにそろそろ一度休暇を欲する。部隊の性質上国外を転々としその上一度降下すると数日は少なくとも戻ることが出来ない、おまけに彼は指揮官で休暇など滅多にとれるものでもなかった。

 しかしそろそろとっておかねば、戦争の流れを見るにもう余暇を取れそうな余裕が同盟軍側になさそうであることは、彼にでもわかった。このような大規模撤退に付随すればなおのことである。

 できることならセレーンと共に取れればよかったのだが、戦時中だからそのような自由は利くわけもなく、仕方なく一人国に戻ることを決めた。

 彼女の長い黒髪が美しい、その何度も手で梳いた髪も軍に入る際に短く切ってしまったがやはり美しいことに変わりはなく、前回逢瀬した時も何度もまるで上質な糸に触れるように梳いたものだった。無理なものは無理、それはわかっているがその無理を通したくなるのが愛だ。

 リンドは正面モニタと右モニタの間に張り付けた小さな写真を見て微笑むと、レーダーの感を調整する。また、このあたりはまだぬかるみが残っていたため機体の接地圧についても調節、なかなかこれが難しいのだが、敵が来ていない今やるしかない。説明書が必要ないのは、時折やったことがあるからで特に以前の敵物資集積基地を叩いた降下作戦の際や、雪中降下進軍の際は何度も弄る羽目になったことで体が覚えていたためだった。

 そうして軽くだが弄った結果、弄る前よりも足を踏み出した時に機体が沈み込む量が僅かだが減ったのを体感したため、意味はあったらしい。レーダーに敵航空機が映るがどうやら後方の列を狙ったようで僅かに端っこにいくつかの赤い光点が表示されたと思ったらすぐに消えたことから、爆撃を終えて帰っていくところらしい。

〈こっちにあれがいるのがわかったからでしょう〉

 フーフラーファ曹長がそう言ったため、皆はガルヴォフォールの方を見てなるほどと頷いた。危険な対空砲がいることは当然敵の生き残りから他の部隊へと伝えられるだろうから、ガルヴォフォールからの対空迎撃を避けるためにいないところを狙ったようだ。ただし、ガルヴォフォールも少数だが量産機、後方にも数機点在するように置かれているため、どこを狙おうと敵機がその恐るべき自走対空ALに遭遇する可能性はあったのだが。

 歩き続ける彼らは途中分かれ道に遭遇すると司令部からの指示を受け左、右へとその都度道を選んで歩みを止めることは無い。木々の隙間を鋼鉄の重たい足音が反響し続け、小鳥たちは飛び立ち地を行く動物たちも一目散に逃げだして、それら敵わぬ文明の力から離れていく。

 しばらく先頭集団には平穏が漂い、その間にリンド達は機体の調整や状態のチェックを済ませていく。リンド、フーフラーファ、ビテールンは慣れた手つきで済ませていき、おかしなところがあればこれまでの経験をもとにした感覚で調節を済ませていくが、ゼラ達ヒヨッコはまだ二、三度しか読んでいないマニュアルをタブレットに表示させて不慣れな様子でスイッチを押したりツマミを捻ったりして調節に苦心していた。

 その中で、リンドは足首あたりに微細だがエラーが起きていることに気づき拡大すると、どうやら泥が足首周辺の隙間に詰まり可動を阻害しているようだ。ぬかるんだ道を歩き続けたのだからそれも当然だろう。全機にそのことを確認すると八機中六機が同様のエラーを出していることが判明したため、この場で止まることは出来ないがかといって微細とはいえ足の問題を放っておくと後々重大な故障を招きかねない。どうしたものかと考えあぐねていると折よく司令部から一時停止するように指示があった。どうやら再び偵察を出すらしい。

「全機がいっぺんにやるとマズイ、一番から五番までが先に手入れ、終わったら残りだいいな」

〈了解〉

 こうして偵察が出ている間リンド達は機体を降りると脚部の装甲の外扉を開ける、するとそこには大きなメンテナンス用のキットが仕込まれておりそこから泥を掻きだす用の棒を外すと、まず右足の上に登り装甲の隙間に棒を突っ込んだ。

 関節には泥がたっぷりと詰まっており、長い草と混じっているために余計に質の悪いものとなっていた。

 泥だらけになりながらそうやって泥を一斉に書きだし始めたパイロットたちのその様子を兵士達は物珍しげに眺め、口々に何かを話し合っていた。

「ホースが欲しいな」

 そうぼやく。水道とホースがあれば勢いで泥を吹き飛ばせるのだが生憎とここにはないため、こうして力仕事をしなければならない。

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