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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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森の巨人

 三日後、峠を抜けた彼等は未だ山中にいた。あの危険な断崖絶壁きわどい道の先を道なりに下っていくと、今度は途中から道を外れ木々に囲まれた山道を進んでいかねばならなかった。その理由としては、道なりにそのまま進むとカルトールンという中規模の街に続いてしまい、空軍基地にはつながらないためである。

 山中を行くのはALにとっても好都合であるため、あの泥沼の峠を抜けた喜びも相まって彼らは安心した様子で進んでいく。機体は下半身は泥に塗れ上半身は雨だれの線が何条も引かれており、実に汚らしい。メイン・サブカメラには暖かなウォッシャー液と風圧、それに極めつけはワイパーのお陰で視界の確保は出来ているのは救いか。

 これから第一小隊を先頭に木々の鬱蒼と生い茂る山道に入る。既に偵察の軽装甲車両がひとまずこの先十キロほどの安全を確認しているため、敵が巧妙に擬装して潜んでいない限りは安心して進めそうである。

 とはいえ、十キロなどALにとっては目と鼻の先であるため大した余裕はないのだが。

「第一小隊続け」

〈了解〉

〈了解であります〉

〈ハイ〉

 八機のALはリンド機を先頭にそれぞれ周囲に目を光らせながら進んでいく。リンドも各モニタの隅に通常の映像とは別にサーモカメラの捉えた映像も映しているため、人や兵器が隠れていても見逃さず発見できるはずだ。

 一歩一歩進む度、あちこちがひび割れかけている碌に整備もされていないアスファルトが粉砕される。これでは後続の歩兵たちは歩きにくいだろうが仕方がないと諦めるほかない。

〈こちら司令部。第一小隊気づいたことは無いか〉

「こちら第一小隊一番機、今のところサーモカメラにも映りません」

〈了解した。引き続き先導と警戒を頼む〉

「ハッ」

 対空レーダーには何も映らない、対人レーダーも同じ、この場所では今のところALのような核動力兵器の稼働も確認されていない、このままならばたいしたこともなく進めそうな気もするが問題は天候である。

 つい昨日までは雨が降り続いていたというのに急にカラッとした天気に様変わりし、地面からは照り付ける秋のまだ暑さ残る陽のために、地面が存分にため込んだ水分が蒸発し、機外はうだるような湿気に悩まされていた。

(エアコンがあって助かった)

 リンドはカメラで外の兵士達が鬱陶しそうに顔や首を拭っているのを見てそう思う。ALはAL乗りにとって鋼鉄の棺桶になるが、その代わりに快適さを与え厳しい外的環境から守ってくれる鋼鉄の子宮ともいえるかもしれない。そういったすごしやすさと分厚い金属の鎧に守られる代わりに、戦車を圧倒する火力と装甲をもって味方の盾にならなければならないという持つ者が為すべき義務が生じる。だからこその危険手当やらパイロット手当てなどがもらえるのだから、彼らも文句はあまり言えない。

 小腹の空いたリンドはシート横に引っ掛けていたレーションを取り出し封を開ける。中に入っていたのはカレというシェーゲンツァートのビスケットで、間にはダヌガークリームというとても甘いウグイス色のクリームが挟んである。

 伝統的なお菓子のレーションはやはり日持ちするように作ってあるため本国で買って食べる物と比べるとだいぶ味は落ちる、しかしこのような形でも遠く離れた故郷の味を口にできること自体が、出征してきている兵士にとって士気の維持につながるのだ。

 が、タイミングが悪かった。

 レーションを取るために視線をモニターから外したほんの二、三秒ほどの隙にリンド機の胸部にワイヤーが引っかかり、ピンッと独特の音が鳴ったかと思うと突然攻撃のアラート。

「えっ、何!なんだ!」

 突然の出来事にカレの包みを取り落とし寝床に当たって砕ける音はアラートにかき消された。そしてその一秒後、リンド機の右腕にロケット弾が二発命中し初弾が右腕の下腕を破壊、さらに続けて二発目で二の腕から吹き飛ばされ地面に燃えながら沈む。

〈敵!?〉

〈反応なかったぞ!〉

〈第一小隊どうした!応答せよ!〉

 突然の攻撃に現場は大混乱と化したが、誰もワイヤートラップによるものだと気づいていない。かく言うリンド本人もまるで状況を理解できないまま機体は左側に倒れ、リンドは軽い脳震盪を起こす。

「敵襲ーっ!!」

 地上ではパニックが発生、突如降ってわいた攻撃の位置も敵の数も掴めぬまま右往左往しがむしゃらに森に向かって撃ちまくってしまう。

 しばらくして追撃がないことと、目のいい者が木から垂れ下がる長いワイヤーに気づき、この攻撃がワイヤートラップによるものだと判明したことからあっという間に混乱は静まった。

〈隊長無事ですか〉

「……ええ、なんとか。誰かやられましたか曹長」

〈いいえ、隊長だけですよ幸いに〉

 それならよかった、とリンドは自機の周りに誰もいないことを確認するとゆっくりと機体を立ちあがらせた。右腕を破壊されてしまったことで機関砲を一丁持てなくなったのは痛いことだが、より彼に衝撃を与えたのはその罠がジジェメッツ軍によるものであったことが判明したことだった。

 使われたAL用ロケットランチャーはジジェメッツ軍のメーカーが生産したもので、またワイヤートラップの仕掛け方もジジェメッツでよく使われる組み方であったため、偽装でないことは確からしく、どうやら本土決戦になってから仕掛けられたものらしい。ALの胸部付近に渡されていたため車両が通っても引っかからず、二カ月以上こうして放置され続け遂にリンドがババを引いたようだ。

 このことについてはジジェメッツ軍から謝罪があったため、リンドは許すことにした。

「フォボルヴ、俺の機関砲を持っていけ」

〈了解であります!〉

 フォボルヴ機は半重装型であるためこの重機関砲を片腕でも扱える、また彼がここまでつかっていた突撃銃は弾薬がワンマガジン分しか残っていなかったため丁度良かっただろう。

「機関砲はだいぶぶれるから、射撃時のホールド機能を強めにしとけよ」

〈はっ、はい!〉

 本格的な調整はできないが、こういったちょっとした調整程度なら現場でパイロットが出来るのは便利である。

 リンド機は腕がもがれた以外に影響がほとんどないことを確認すると再び歩き出す。腕から立ちのぼる煙も消火剤の使用で抑えられたため森から昇る黒煙のために位置がばれるということは無いが、いずれにせよレーダーで位置はバレバレであろうから、敵の攻撃の正確性を僅かに欠く程度だろう。

 ワイヤーなどトラップに警戒しつつ進む彼らに今度はしっかりと敵が立ちはだかってくる。

〈九時方向より敵航空機接近距離五万八千数十二〉

「了解。全機散開し対空警戒!敵は十二機だ!」

〈はっ!〉

 八機は距離を取り上空を見上げ対空機銃を起動する。リンド機の対空機銃は降下直後の戦闘で一基が潰されていたが残る二基が残っているためカバーは可能だが、一番ひどいのはビテールン機で彼の機体は対空機銃など一機も残っておらず対地機銃が一基残っているのみであるため彼には手持ちの銃でどうにかしてもらわねばならない。

 今回は対空砲を装備してきた者がいないため第一小隊の対空能力はあまり期待できない、しかしジジェメッツ軍には頼もしい対空の鬼が三機いた。

 ガルヴォフォール、それはALの火器全てを対空砲に置き換えたある意味で頭の悪い兵器である。

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