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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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上り戦・下り戦(2)

 戦いの火蓋は突如として飛んできた大型迫撃砲弾によって切って落とされた。

 撤退中の同盟軍はこの丘陵地帯には、地形の特異性から敵はここではなくここを抜けた先に陣地の構築をしている恐れがあると踏んでいたのだが、そうではなかった。この一、二カ月のうちに連合軍はこの地に数カ所小規模陣地を構築していたらしく、丘陵によって見えないことをいいことに迫撃砲弾を撃ち込んできたのだ。

〈クソッ!〉

「各機展開しろ!幅広に地形に合わせてW陣形をとれ!」

〈了解です!〉

〈ハッ!〉

 偵察機すら飛んでいなかったため意表を突かれ彼らはてんてこ舞いであり、リンドもどこから敵が攻撃をしてきているのかわからない状態ながらもAIのまだ大雑把な定まり切れていない予測をもとに部隊を展開させる。そうこうしている内に早速まばらな情報を分析した司令部から敵の攻撃についての予測が伝えられる。

〈こちら司令部、砲撃は南西及び東南東からと思われる。自走迫撃砲と予測〉

「了解!道理で迫撃砲にしちゃ威力がデカい!」

 それに距離も持ち運び式の距離とは思えぬほど敵の姿が見えなかった。

 敵からの迫撃砲弾の雨に苦しめられる彼らに、更に砲撃まで加わって何十人もの兵士達が吹き飛ばされ、バーノウィッツ小隊の五番機が頭部に重砲の直撃を受け大破、上半身が腹辺りまで消し飛ばされた姿を見て彼らは重砲の威力に震え上がった。

〈なんで重砲なんかがこんなとこにあんだ!〉

 ビテールンの叫びももっともで、重砲なんてもの敵地の内陸部にそう簡単に持ち込めるわけがない。だとするとこの砲撃は重砲ではないのだろうか。そう考えを巡らせている矢先、ゼラ伍長がその正体を一瞬だが垣間見た。

〈こちらゼラ!なんか見えました!映像を!〉

 ゼラはカメラの捉えた映像を部隊と続けて司令部に送る。届いたのは三秒ほどの映像であったが、稜線の向こう、僅か一秒ほどに過ぎないが大型の長砲身を備えたALのようなものが映っていた。

「でかした!」

〈こちら司令部、こいつはハシューミカ製の四脚重ALダウボア(※1)だ。トロいが安定性と装甲が厚い!側面からの攻撃を行え〉

「了解。聞いたなお前たち、四脚ALだとよ!俺も見るのは初めてだけどALなら壊せないはずはない行くぞ!」

〈ハイッ!〉

 四脚ALは数自体は多くは無く、また機種も少ないためフーフラーファ曹長以外は実戦で目にするのは初めてであった。それは四脚ゆえのコスト、重量、余計に必要な脚部部品、そして進撃速度についていけないため必然的に防衛兵器となる点であった。勿論良い点も多々ありまず四脚が生み出す安定性と二脚よりも大きいペイロード、その分重装甲に出来る、二脚ALの持てない大型重火器を持つことが出来るなどと言った点であった。

 まさか敵地侵攻に持ってくるとは思っていなかったが、倒せない敵ではない。

「ビテールン、カトマが西側の川の跡を利用して回り込め、フーフラーファとフォボルヴっは東側に二百八十m程いったところまで進んで陽動!残りはここで敵を迎え撃つ!バーノウィッツ小隊も西に回ってくれ」

 リンドの指示通り、部隊は三方向に分かれまたバーノウィッツ小隊の残り四機もリンドの指示を了承しビテールンとカトマを援護すべく丘陵地帯の西側へと回り込んだ。その間、リンド達残った者で敵の注意を惹きつけ続けなければならない。

 かといって惹きつけすぎると今度は敵の砲撃が足元にいる味方に当たってしまうため部隊を動かさねばならなかった。

「部隊を移動させる、各機ついて来い」

〈了解であります〉

 リンドはここで敢えて機体の上半身の胸から上を正面に向けた状態で稜線から飛び出させ部下たちを稜線から絶対に出ないように厳命し自分はそのまま進み続ける。これによって敵の攻撃がリンド機に集中するようになり、重装型としての本分を果たしていることになると同時に部下や護衛対象を守ることにもつながるというまさに一石二鳥と言うべき捨て身の戦法であった。

 とはいえ、流石の重装型と言えど先ほどの重砲の威力を見るに直撃を受けたらひとたまりもないだろう。そのため彼は敵機が直射出来ないことを祈りつつ、装甲が絶え間なく銃弾を弾き続ける音を聞き続けていた。

「くたばれ」

 そう呟いてリンドは引き金を引き機関砲を0.5秒間のみ発射、撃破は出来なかったものの敵戦闘装甲車一両に本格的な修理が必要なほどの深刻なダメージを与えた。百mほど移動し本隊から距離を取ると部下たちも稜線から頭と腕を出して攻撃を再開する。

 レーアルツァスの頭部は正面が傾斜装甲を採用しておりまた軽量化と被弾の確率を落とすために他のALよりも小型化してあるため、稜線から飛び出した程度の小さな面積では中々当たるものではない。

 ALの足を斜面に引っ掛けて前傾姿勢をとり、そこでコックピット上側にあるツマミを弄って次にコンソールをポンポンッとリズミカルに叩く、そして操縦桿を握って中指部分のトリガーを押すとALは油圧によって彼の中指の匙加減に従って姿勢を維持したまま脚部を縮ませて機体の高さを調整した。適度な高さになったのを確認すると小指のトリガーを二回素早く引いて調整モードを終了、そのまま操縦桿は通常の操作モードに戻りリンドは攻撃に戻る。

 この姿勢ではガトリングシステムが一番使いやすいのだがこんなところで使ってしまうのはもったいない、そのため彼は肩の増加装甲の更に上に取りつけてある右のロケットポッドの蓋を開くと敵が土嚢を積み上げて陣地を構築した野砲陣地に向かって発射した。距離にして千二百、ロケット弾を発射するには若干短い距離ではあったが機関砲はこの姿勢では取り回しが利かないためこうするほかない。

 三発の小型ロケットは順々に左から中央、中央寄りの右へと発射され一瞬で着弾、爆発と共に土嚢や野砲の残骸が空へと舞いあげられる。

「よし……」

 そうしている間にも、部下たちも被弾はしつつも敵を少しずつ撃破しており彼らの成長を感じ感動していた。

 




 ビテールンとカトマはバーノウィッツ小隊の四機と共にリンドに指示された通りの道を通って迂回しつつ敵四脚ALの側面へと回り込もうとしていた。

 バーノウィッツ小隊のALはジジェメッツ帝国製のアレッツァであるが、元々がシェーゲンツァートの最初の量産型ALサイオスを元にして彼らの武器や環境に合わせてあちこちを再設計されたもので、見た目は太ももや背部など面影ののこっている部分はあるがサイオスとはだいぶん異なる姿へと変貌しており、直線で殆ど構成されているシェーゲンツァート製ALよりもかなり曲面を用いた装甲へと変えられている。

 バーノウィッツ小隊にはそれぞれ指揮官型、通常仕様、補給型がおり通常仕様が一機先ほどの重砲の直撃によって失われていたが、士気はまだ高いままであった。

「おい馬鹿高い高い!下がれ!」

〈あっすみません!〉

 ビテールンは斜面を無意識の内に登りつつあったカトマを叱り飛ばし下るように言いつける。今で指揮を執ったことはないが、こんなのを何人も見なければいけない部隊長という役職に対し彼はこの短時間で同情の念を抱いていた。

(俺より年下の癖してほんとよく頑張るぜアイツは……)

 水を一口飲むと、レーダーを確認しつつ進んでいく。目標はレーダーにうっすらと映っているがつまり向こうにもビテールン達のことが見えているということにもつながる。

※1 ダウボア:ジジェメッツ語でタンスイオオアカガニを表す。この星の蟹は凡そ四本から六本足。本来の名前はヴァノ。

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