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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第二章 舞い降りる機動要塞
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白い鳥

 リンドによって中破し後退を強いられた白いALグライフは東ビゲールス海洋上にあった。まだ母艦まではもうしばらくあったが、幸い僚機に支えられており、また飛行能力自体には問題がないため、牽引を途中で取りやめ自力で飛行して居たため帰還は可能であった。それでもフレームごと破壊され歪んでしまった機体は、再出撃は不可能となってしまっていた。

〈ヴィエイナ様、左翼と右翼の出力バランスが崩れています。第一エンジンの出力を42パーセントまで落とします〉

 グライフに搭載されている試験AI「チューフ」が、二重になったような声で現在の機体の状況を伝え、それを元に適切な機体制御を行う。左翼にある第一エンジンが出力を落とし、傾いていた機体を平行に戻した。ヴィエイナと呼ばれたパイロットは些か不機嫌そうにコンソールに拳を振り下ろすと、ヘルメットのバイザーを上げた。灰色の瞳が、ヘルメットと酸素マスクの隙間から除く。その眼は鋭く、そしてにじんでいた。

「わかっている」

 怒りを込めた、くぐもった声がマスク越しに発される。パイロットは一旦バイザーを閉じるとすぐにまた開き、そして次にヘルメットを脱いでしまった。肩当たりまで伸びたセミショートの美しい金髪が、ヘルメットからさらりと零れ落ちた。飛行中にメットを脱ぐのは軍規に違反するが、誰もわざわざ咎めるものなどいない、そう、この面倒なAIを除いては。

〈ヴィエイナ様、それは軍規第十章第十一項に違反します。装着してください〉

「特務中尉と呼べ!」


 ヴィエイナ・ヴァルソー


 これがこのグライフ五番機のパイロットの名である。代々軍人を輩出してきたヴァルソー家の第三子にして長女であり弱冠二十三歳にしてオースノーツでも有数のトップALパイロットである。女性のパイロットは非常に珍しい。同期にも他にたった一人しかいなかった。この世界で女性はあまり軍人にはならない。なっても後方支援がほとんどである。それがこの星の常識であった。それでも彼女がALパイロットになったのは家系の問題と、そして彼女自身の素質があったためであろう。よく優れた空間認識能力と反射能力、そして耐G能力が他者よりも優れていたためであった。

 幾多の戦闘で戦い抜き戦果を挙げ、そして生還してきた彼女が、あろうことかALの右腕を根元からもがれ、手ひどく損傷を受けたことは軍をそして彼女自身を大きく驚かせていた。彼女は先ほどのALのことを思い出し、更にいらだった。

(あれは……熟練者の動きではない………偶然だろうが、偶然でもグライフの腕を持っていかれたのは事実……しかし!!その程度の奴に!飛べもしない陸戦型に!)

 悔しさのあまり、彼女は再び拳を振り上げ、今度は足を殴った。ヴァルソー家の軍人としてこれほどプライドを傷つけられたのはこれが初めてではない。しかしそれでもその都度見返してきたし、それは皆身内であるオースノーツの人間からであった。しかし敵から屈辱をうけたのはこれが初めてであった。この情けない姿を見た時、奴らは何というだろうか、どれだけ笑うのだろうか。だから女だと……!

〈中尉、感情のコントロールを。リラックスする音楽をかけましょうか。サイドルの第五番はいかかでしょう〉

「いい!」

 AIなりに気を利かせたつもりではあったが、今の彼女には余計なお世話だったようだ。怒りと共に即拒絶されたチューフは不機嫌そうに耳障りな電子音を響かせた後、黙ってしまった。それでも機体の制御はつづけているのは、彼なりの優しさとかではなく単にプログラムがそうさせているからなだけである。

「……ああ、着いてしまったな」

 二段甲板が特徴の空母テテイラとクウォムの甲板がはっきりと見え始めた。グライフの母艦はテテイラである。ALはそれぞれ着艦すべき空母への進路をとると散開し始めた。

〈中尉殿〉

 僚機のシーマー曹長のシュリーフェンが、着艦を介助しようと近寄ってきたが、ヴィエイナは左手を振っていらないと断る。

〈しかし万が一のことがあります。風も出ています〉

 そう心配する曹長をよそに、彼女は語気を荒げて断った。

「この程度で着艦に失敗するようなら私は自爆でもしている!」

 情けをかけられるのは嫌いだった。彼女は誘導灯に従い、こまめに器用にペダルとアームを操り機体の微調整をする。チューフはエンジン出力の調整と四枚の翼の制御を行っている。

「オーラーイ!オーラーイ!」

 甲板作業員の指示に従って、グライフはゆっくりとAL用の上段甲板に着艦し、そのまま跪いた。左腕で器用にバランスを取ると、コックピットハッチを開けた。胸部がスライドし、外から猛烈な潮風が中に吹き込んで来る。

「うっ」

思わず目を瞑り手で顔を庇う。

〈ナイスフライトでした〉

 コックピット横から伸びたクレーンから垂れている昇降用ワイヤーに手をかけ、そのままゆっくりと艦上に降りた。機体には既に消防車と試験員たちが群がって損傷個所の確認と火災の可能性の有無を調べていた。そんな彼ら、試験員たちを彼女は横目でにらみつけるとすぐさま作戦室へと急いだ。

(まったく、私は何をしているんだ!試験機をあんなにしてしまうなんて!ああもう!!)

 壁に拳を叩きつけ、足音高く艦内を急いでいる彼女に声をかける者はいなかった。

(どんな奴かは知らないが、必ず殺す!)

 憎しみが今再び、生まれる。

テテイラ:タイロン級空母二番艦 全長:344m 全幅:80m 満載排水量:122,980t 艦載機:航空機40機 AL24機 乗員:5500名 1983年就役の空母。二段になっている飛行甲板が特徴的で上段をAL、下段を航空機が使用する。非常に巨大でオースノーツ海軍の主力空母でもある。

一番艦:タイロン 二:テテイラ 三:クウォム 四:アガ(沈没) 五:マリノス 

 現在後継艦が建造中である。


ヴィエイナ・ヴァルソー:23歳 身長:170㎝ 体重:66㎏ 海軍特務中尉 オースノーツ内陸部、工業都市バイオンの名門の軍人家系に生まれる。幼いころに母を亡くしており父と兄と共に暮らしていた。

巨大国家オースノーツですら珍しいウェーブのALパイロット。巧みな操縦技術はアクロバティックで冷酷。

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