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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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斜陽の自由(2)

 ビテールン伍長はそうおどけて見せると、マガジンを交換しチェーンガンでダックインしている敵戦闘車を粉砕、別の車両から受けた攻撃はチェーンガンの正面に備え付けられている分厚く上部が婉曲下シールドで受け止めそのまますぐにその敵を破壊する。

〈思いのほか弱くないっすかね〉

 彼のいう通り、確かに規模に対して敵はそこまで練度が高いようには思えなかったリンドやフーフラーファ曹長は彼の言葉に同意する。ところどころに精度のいい射撃を仕掛けてくる者もいたが、平均的に見てどことなく敵の射撃精度や動きには敵ながら頼りなさげというか、いまいちなものが多く見られていた。

「数はいるけど……数ばかりな気がする。曹長これどういうことでしょうか」

〈恐らく敵もこちらと同じでしょう。若い奴らなんですよ〉

「ああ……」

 シェーゲンツァートでも去年から軍学校の繰り上げ卒業が行われ始めリンドよりも若い年齢で配属される年少兵が見られ始め、今では新たに配属される兵士の過半数が十七にすら満たない学徒であった。その現状にリンド達既存の兵士は憂いていたが、どうやら敵ももしかすると同じ境遇らしい。生憎と敵兵は姿を見る前に彼らが木端微塵にしてしまうため顔を見ることが出来ないので、本当に敵が学徒兵ばかりなのかは確かめられないが、いずれにせよ敵とはいえ子供を殺るのは少しばかりはばかられた。

 が、かといってトリガーを押す指を止めるわけではない、相手が子供でも銃があれば簡単に彼らを殺すことが出来るのだ、ガキ風情に易々と殺されてなるものか、と。

 第一小隊他先頭を務める部隊の活躍によって行列は思いのほかスムーズに前進できており、道も敵が使うことを考えていたのか荒されていないため整地や迂回をする必要は無く、共に先行していた工兵隊も特にこれと言った出番もなく気楽そうではあった。

 しかし、中腹以降はやはりそうもいかない。体勢を立て直した敵が脱出している彼らを狙って攻撃を加えるようになり、それを守るために兵士達が散っていく。また、前の方の部隊が踏み荒らしていった地面がぬかるみ凹凸だらけになったことで後続の部隊の歩みが制限され中には早々にスタックしてしまう車両も現れ、それを脱出させるために兵士達は砲火に身を晒しつつ泥まみれになりながら車両を押した。ALといったA兵器群が時折手を貸していたものの、彼らのメインの任務は味方の撤退援護であるため、基本的に彼らのことは自分たちでしりぬぐいをしてもらう必要がある。

 とはいえ彼らがさっさと進んでくれなければ護衛も先に進めないというジレンマを抱えており、悩んだ末に部隊を二つに分け大半が戦闘、残りの少数が作業支援を行い、スタックした車両の押し出し、荒れた部分をALが踏みつけて踏み均す、水たまりがあれば周りの地面ごと押しのけて代わりに横から土砂を掬って同様に踏み固めるといったようなこともした。皮肉なことだがこれが本来の人型汎用作業兵器としての姿を見せつける機会となっていた。

 最後尾はまだ基地の中におり、遮蔽物に身を隠し重戦車や重砲が撃ち乱れる音で耳を痛くしながら耐え忍んでいる。そもそもまだ撤退は始まったばかりで、全軍が基地を出るまで数日かかる見込みとなっている。何せ十二万もいるのだ、数時間程度で全員が移動できるわけもなく全く足りない機甲兵器の護衛に身を任せ敗走の兵士達は涙の旅路を踏み続けた。

 




 その日の晩、丘陵地帯の手前にある密度の薄くALを隠すのには難しいが人や装甲車程度ならなんとか隠せる森の中で先頭を行く兵士達は眠りに就く。リンド達ALは中装型は森の奥に寝かせ、重装型や砲撃型は重火器が邪魔するため寝かせられないので、両脚を延ばした状態で腰を下ろした姿勢をとったうえで更に機体上部を草や枝葉で隠すことで出来る限り機体を見えないようにし休んだ。

 機体はスタンバイモードにしてあるが、人感センサーはアクティブにしたままであるためもし人が近づいてきたときはアラームが鳴りすぐに目を覚ませる。リンドはシート下の寝床の中でくたびれた写真を見つめていた。

 写っているのは海沿いのカフェテリアで撮った彼とセレーンのツーショット写真、ヨレたり角がかけたりしているが、実はこれは五枚目で今までのは捕虜になった時や機体を失った時に回収できずに紛失してしまったものだ。その度にどうにか現像してこうして持ち歩いているが、これもまたなくしてしまうのだろうかと目を伏せる。

 彼は上体を起こして水を飲むと、目を閉じる。明日もまた数十キロ進まねばならないから。



 彼の眠りは三時間ちょっとで妨げられる、何故なら敵が夜襲を仕掛けてきたからだ。

 よくもまあ相手も烏合の衆も同然だというのに難しい夜戦など仕掛けてくるものだとフーフラーファ曹長は欠伸をかきながら膝立ちさせるとツマミを捻って機体のサーモセンサの感度を強にする。敵はAAを中心とした歩兵戦力で、十分脅威となる数だがALならば一方的に撃破することも容易い。

 確実に敵も暗視ゴーグルなどで彼らの姿が見えているはずだが、そこにフラッシュバンを一、二発撃ち込んでやれば途端に敵は明るいのに視力を失う。だが、そうすれば木立の外に自分たちがそこにいると主張するようなものであるためこの状況下では使えず、またALの携行火器では派手すぎる。そのため対人機銃のみで対処する必要があった。

「ふああーああお……全く!全機起きてるな!」

 リンドの呼びかけに八人全員が眠そうに声を上げる。見張りをしていたビテールンとカトマ以外は眠りを妨げられたこともあり非常に不愉快そうで、この怒りを原因の敵にぶつけるという執念が感じ取れた。

「機銃のみで可能な限り対処しろよ、銃は最終手段な!」

〈ウス!〉

〈了解〉

〈了解でありますぅ……〉

 リンドはまた出てきた欠伸を噛み殺しながら機銃の内三基を起動させ一基をマニュアル操作で自分のコントロール下に置くと、右の操縦桿に割り当て操作する。これによって同期している間はALの右腕は全く使えなくなるものの自分の判断で機銃を操作することが出来る。彼が動かしているのはコックピットの直下正面にあるメイン対人機銃だ。

 サーモカメラが取得した映像をメインモニタの映す映像と合成し本来の視認性を失わずに動いているものをうっすらと表示する技術のお陰で前部が青だの黄色だの赤だの視界にやかましい映像に染まらずに済んでいるのはありがたい。

 彼は三mはあろうかという大岩の影に蠢く味方の識別ではないAA三機、更に兵士四名を確認すると

「見え見えだぞゴミども」

 睡眠を妨げた罪は重い、そう言わんばかりに彼は操縦桿のトリガーを押す。ブゥン、と短く立て続けに三度機銃がそこに向かって撃たれたかと思うと七人の敵はその場に倒れこんで二度と動かなくなった。今の機銃の音で眠っていたジジェメッツ軍の兵士達も完全に眠気が冷めたようで暗視ゴーグルを恐怖にぎょろついた眼で覗き込んで闇より迫りくる刺客に怯えているようであった。

 味方が接近前にやられたことで敵もなりふり構っていられなくなったのか爆発が起きジジェメッツ軍兵士数名が死傷した。夜の帳は完全に打ち払われ、曳光弾とマズルフラッシュの光跡が闇になれた網膜に焼き付き、ALのサーモカメラも反応が悪くなったため同期をさっさと停止してしまった。

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