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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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斜陽の自由

 穴だらけの基地滑走路、主要部分寄りに輸送ヘリが続々と着陸し始める。ヘリからは搭乗していた空挺隊員たちがぞろぞろと降り、他にも搭載されていた物資が下ろされ、代わりに基地内部からトラックに載せられて運ばれてきた重傷者たちが載せられ所狭しと並べられるとヘリは離陸、後方のまだ安全な基地に向かって雲の中へと消えていった。

 輸送機は着陸できるような状態の滑走路がないため、開いた後部ハッチから次々と物資と人員を投下し始め、まず先にAPCと戦車を載せたパレットが、続いて医療物資と武器弾薬に食糧、最後に人間が降下してきた。

 奇跡的にも輸送機は二機が撃墜されただけで済んでおり、この包囲網の中をそれだけの損害で済んでいるのは幸運にもほどがあると言えると基地司令は友軍の飛行能力と作戦を高く評価していた。

 シェーゲンツァートの空挺用APCであるマルゼルプツァは六輪の大きなタイヤを持つ軽量高速の高機動装甲輸送車で、パレットから出てきたそれら四輛はすぐに基地中心部へと向かい軽傷者を載せるといつでも出発できるように備え、同じく六輪のジジェメッツ軍空挺戦闘車オートは快速であることを生かしそれらの護衛につく。

 基地を捨てて全員が脱出の準備を終えるまでの間、リンド達空挺AL部隊及び基地にいたジジェメッツ軍戦車、ALは敵を寄せ付けぬように迎撃を続けている。これから彼らが進むのは基地の南東にあるドバス丘陵地帯である。そこを抜けると今度は東のアインパル山脈内にあるドーペ・アマ・カポポラック空軍基地へと向かう。カポポラック基地が彼らのゴールとなっている。

 その道のりは道なりに千二百二十キロという長い長い道程で、何割がそこまでたどり着けるかはわからない。事故、襲撃、病、負傷……そう言ったものが彼らを待ち構えているのだ。

 そんなことをするくらいなら何故ちまちまと輸送機で運ばないのかと思うかもしれないが、彼らにはそんなことを悠長にやっている暇は与えられていない。何せ既にポーライツィミニー大陸西部は殆どが連合軍の支配下となりつつあり、中心よりにあるジジェメッツも南と西から連合軍の侵攻を受けており今よりも更に多数の増援が迫りつつある。そのため彼らは早急にこの基地を捨てて移動しなければならなかったのである。

 既に基地の人員はあらかじめここに救援部隊が来ることはわかっていたため身支度は出来ておりあとは移動を開始するだけであったため、一時間以内には動きだせるとのことであり、リンド達はその間基地守備隊に防衛を任せ休息と会議を行う。

「自分の隊がここで、ええ、左翼前方を行きます。ただ我が隊の殆どがこれが初陣か二度目の出撃でありますので支援は必須であります」

〈了解した、こちらのバーノウィッツ隊(AL)とAPC第四〇四小隊を随伴させよう〉

「助かります」

 リンド達第一小隊はこの撤退劇の左翼前面を受け持つこととなったが、九機の戦力かつ経験の浅い兵士が大半であることからジジェメッツのAL一個小隊四機と装甲車四両を付けてもらえることになった。装甲車には全部で四十名の歩兵が同乗しているため対人も安心である。

 やがて一行が出発する時が来た。それに呼応して海上の空母より飛び立った爆撃機隊計ニ十六機が彼らの露払いのために基地南西部に展開している敵や射程距離のある砲兵隊を先んじて潰して回っており、その爆炎が空高く舞い上がるのを彼らは眺めていた。

〈なんて大きい……〉

〈B8かな〉

〈いや、あれはきっとC18だな〉

 などと部隊員達は落とされた強力な爆弾の種類を予想しあっていたが、リンドはそんなことに興じず如何に友軍を守りつつ部下を生き残らせるか考えるのに苦心していた。マーレイは残念であったがそれでも部隊再編の前回からこの時まで五人が生き残り続けたのだから、今回加わった三人を含め可能な限り生かし続けてやりたいのだ。勿論自分も生き残るつもりであるが。

(ムートルとゼラにまず戦車をやらせて……)

 この撤退劇ではいかに敵の有効射程距離外から敵を倒すかがキーとなっている。ALならば一発二発食らったところで死にはしないが、生身の人間や装甲車なんてものは一発、たった一発ALの携行火器が当たるだけで木端微塵となり死んでしまうコワレモノなのだから。

 合金の肌、鋼鉄の骨、オイルの血、原子の心臓、ALにはこれがある。人間なんかよりもよっぽど強く、硬く、破壊的なマテリアル。ペダルを踏むと二百ガトンを超える超重量の十五mほどの巨人が重たい体を無理矢理大地の上で足を上げ、地面を踏み鳴らす。圧縮、圧縮、圧縮、踏まれれば戦車すら潰れた虫けらの如くみじめな残骸となり果て、鋼鉄と原子力の支配者は屍を嫌というほどに産み落とす。

〈それでは出発する。第一小隊、バーノウィッツ隊、四〇四小隊、第八中隊、一〇二小隊、先導を頼む〉

 移動型司令部であるトラックから移動の合図が発せられた。それに先駆け、基地所属の戦車隊が閉店在庫処分セールとばかりに敵に砲弾を撃って撃って撃ちまくっており、通常ならばあんなべらぼうな撃ち方をすればあっという間に砲身の使用限界が来るか焼き付いて使えなくなってしまうだろう。しかしあの重戦車達はついていくことが出来ないため殆どの燃料を抜かれここで打ち捨てられることになっていたので、後のことを考える必要は無かった。

 先ほど名を呼ばれた部隊は先頭を務める部隊で、彼らが先行しその後から軽戦車隊やAPCが続き、それから生身の兵士達が進む。第一小隊は先頭かつ敵側に位置する左翼に展開していたため、リンド達はしょっぱな熾烈な妨害に会うかと思っていたのだが、爆撃機隊と戦車隊、それに今なお撃ち方を止めない砲兵隊のお陰で敵前面は総崩れとなっており、大した攻撃も受けずに済んでいた。

 カンカンと時折装甲に跳ね返る銃弾に小気味よさすら覚えつつ、リンド達は進む。その後ろをか弱い虫たちが続き、巨人の庇護下において地を這う。

「今んとこ、問題はないか」

 リンドは機体をゆっくりと動かしつつも上半身を左に九十度回して時折足を止めては目についた敵に三点射を浴びせて仕留める。機体の状態は良好、オイル温度、炉心温度よし、機外十九度は若干肌寒いか。リンドはメットのずれを正して口元を拭うと、セレーンのことを想い、続けて家族のことを思い出す。思えば配備されてからこの二年弱の間、一度も本国で休暇をとったことがなかった。二度戻ったのは負傷や心神喪失による後送であったため、自分の意思でもなければ自由な時間もなかった。

 取らせてもらえなかったわけではない、ただ戦い続け生き残るのに必死で休暇をとること自体を忘れていただけだ。この戦いが終われば一度休暇申請をするのも悪くないかもしれないが、果たして部隊長である自分に休暇をとることが出来るのだろうか、と彼は不意に不安がった。

 トリガーを引いてAAの部隊をミンチにすると、足元の戦車の残骸に潜んで彼を対ALロケットで狙っていた勇敢な兵士を機銃で引き裂き、友軍の無事を確かめまた進む。

(今まで何人殺した?わかんねえ……一万は……やったか?)

「ゼラ、あの木立に榴弾を一発撃ちこめ」

〈ハイッ〉

 ゼラは砲弾を徹甲榴弾から榴弾に切りかえるとリンドの指示した木立に向かってキャノンを発射する。すると爆炎と共に砲らしきものの部品と人間の破片が舞い上げられた。

〈わあ、よくわかりましたね〉

「経験だよ経験」

〈そうそう、おめえらも生き残ればあれくらいわかるようになんのさ〉

〈伍長はわかるんで?〉

〈そりゃな〉

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