空の神兵(2)
「降下後W陣形!」
降下しながらリンドは全機に指示を出すとパラシュートが開いたことで減速したのを利用し地上に照準を向け両手に持った重機関砲を撃ちおろす。大型の徹甲榴弾を次々と撃ちだし鉄と爆薬の雨が地上で炸裂
、生身だろうがALだろうが関係なしに粉砕していく。更に対人機銃も用いて派手な立ち回りをするのは当然、自分より上に降下中の部下たちを守るためである。
彼の目論見通り対空砲火はリンド機に向けられ重装甲はそれらことごとくを弾き返す、が機体はよくともパラシュートはそうもいかない。あっという間に穴だらけになった一番機のパラシュートは空気抵抗を失い一番機は地上に向かって加速し始めた。
速度超過の警報が鳴り響くが、彼にはまだ助かる算段がある。彼は高速降下をした際のボルトラロール機を思い出しなが脚部減速用補助スラスターを絶妙なタイミングと方向で吹かすと、地面を抉り取ってスライドしながら勢いよく着地、すぐさまパラシュートとスラスターをパージすると目についた対空火力を破壊し始める。
今回はとにかくありったけの火力を用いて短時間のうちに敵を蹴散らし、さらに継続して次の基地まで味方を護衛しなければならない。そのため通常の規定よりも現場判断で装備と弾薬を大幅に増量して搭載しているため、ちょっとやそっとじゃ弾切れを起こさない。
とはいえ考えなしに馬鹿みたいに弾をばら撒こうものならあっという間になくなりかねないため、そのあたりは火器管制システムの補助を最大限受けながらAIの判断のもと的確に必要なだけの弾を撃つ。
リンド機の右から戦車が四輛ゆっくりと起伏を乗り越えながらやってきたため、リンドは上半身を右回転させて右の機関砲の狙いを定め、撃った。いくら戦車の正面装甲とはいえ、重機関砲の直撃を受けては一発で破壊されてしまう。あっという間に四輛とも蹴散らしたリンドは一発を肩にもらったがそれも増加装甲で受け流したため、無傷と言っても過言ではなかった。
そうしているうちに二機、三機と部下の機体が無事降下完了し、彼らから千mほど西側でも他の隊の空挺部隊が続々と降下完了し始めていたため、そのまま彼は降下してきた者たちとともに降下中の僚機の支援を続ける。そんな中、九番機のルーダバール上等兵の補給型が着陸したときであった、
〈うわあああっ!!〉
マーレイ上等兵の叫び声が無線越しにノイズと共に耳に入る。彼の声の後ろではけたたましいアラートと爆発、金属が破砕する音が。すぐさまリンドは補助カメラを降下中の四番機に向けると彼の機体は炎に包まれながら地上に落ちていき、右脚を失った彼の機体はまるで隕石が落着したかのような大きな衝撃と共に地表に落着、巻き上げられた土煙が二百mは周囲へと広がる。
「畜生が!」
あれでは助かるわけもない、よしんば中でマーレイが生きていたとしてもあの激突の衝撃では確実に中は潰れた卵と同じ状態のはずだ。
先ほどの四番機以外は全機降下完了し、命令通り彼らはW陣形を組む。中央先頭をリンド機、右翼先頭をフーフラーファ機、左翼先頭をフォボルヴ機が務め四km先の味方基地を目指す。
既に半数が何らかの被弾をしているが戦闘に支障の出るような損害は出ていないため、彼らは進む。
「全機落ち着いていけ、慌てると弾が当たらない」
〈ハイッ!〉
初陣のヒヨッコたちは上ずった声で返事をするが、確実に彼らはまともに戦えはしない。それをベテランのリンド、フーフラーファ、ビテールンがカバーしていかなくてはならないが、三人ではカバーしきれないためムートルらまだ経験の浅い兵たちにも頑張ってもらわねばならないのが心苦しいところではあった。実のところザームメッケナー基地防衛戦の後小さな戦闘を別の場所で二回経験しているため彼らもこれが四戦目になるところではあるが。
リンドはムートル兵長とゼラ伍長に二千九百m先で基地に砲撃を加えている敵戦車部隊を砲撃するように指示すると、彼らが立ち止まって照準を合わせている間、他の機体がボディとシールドで二機に背中を向けてガードに入る。当然彼らには四方八方から攻撃が加えられ装甲板に絶えず金属音が鳴らされ続けるが、焦らないよう二人に伝える。
「慌てるな、俺たちはまだ十分持つ」
〈了解です……〉
二人は狙撃用スコープを引き出して目を凝らし覗き込む、目標の戦車部隊は戦車壕にダックインしており砲塔の後部を照準内に晒していた。
(頼む……)
当たってくれ、とムートルはザームメッケナー基地で自分がこれよりはるかに短い距離で外したことを思い出していた。
二発の榴弾が発射され、放物線を描いて落ちていった砲弾のうちムートルの撃ったものは敵戦車隊に見事に直撃、ゼラの撃ったほうも風に流されたもののすぐ真横に着弾し有効圏内であったために二発の砲弾で四輛を撃破した。残った一両も炎に巻かれハッチから乗組員たちが這い出てくるが、三人目は炎に包まれており仲間が消そうと上着で懸命に叩くもすぐに動かなくなり完全に炎の中に消えてしまった。
それを望遠ではっきりと目にしてしまったゼラは、震え出した手を操縦桿から離しぎゅっと強く握って歯を食いしばった。自分は悪くない、自分は悪くない、そう言い聞かせて。
空では航空支援の高速爆撃機隊が後方の敵を吹き飛ばしてくれているが焼け石に水のようで、広範囲に敵部隊が広がっていることも相まってあまり効果的には見えなかった。しかし、散開しているということは敵の火力もあまり集中していないということでもある。
これをメリットととらえリンドは部隊に全速力で前進をするよう命じる。
九人のパイロット達は脚部への電力供給を増幅させると思い切りペダルを踏み込み友軍基地へ向かって走り始める。西でも第二中隊のAL三十九機が同じく大地を蹴り土くれを飛び散らせながら、秋たけなわの異国の地に六角形の足跡を刻みつけていく。
彼らは足元にいる生身の敵のこと等気にも留めない、蹂躙される人間、野砲、物資、それらは踏み潰され蹴り千切られ地面との間に挟まれてはすりおろされていく。おまけにALは足元を蹂躙しながら戦車程もあろうかという砲弾を次から次へと撃ちだしては周りを粉砕していくのだからさながら突如として地上に舞い降りた台風といったところだろうか。
ビテールンは右翼側に敵のAWが複数いるのをキャッチ、露出コックピットタイプのパルツメツというカルマンガ連邦製AWで、トーチカ破壊用なのか大型ロケットを両側に二発ずつ計四発備えており、それらを一部第一小隊に使用するつもりらしい。そうはさせまいと彼は突撃銃を向けると銃口の下に取りつけてある二連装のロケット弾を一発発射、走行間射撃ながらもAW隊は露出コックピットであったためにパイロット達は上半身や頭を爆風によって吹き飛ばされ、またロケット弾が誘爆し一帯を巻き込んで大きなクレーターを生じさせた。そこにいたはずの百名前後は跡形もなく消え去ってしまったようだ。




