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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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夜闇に咲く水上花

 両軍の艦隊は反航戦になることを各々察し北上するシェーゲンツァート軍と南下するオースノーツ艦隊とで撃ち合いながらもほぼ平行に進み始めた。

 反航戦といえども綺麗にまっすぐ列を組んで儀礼的に進むのではなく中心はその形を取りつつも周囲の艦艇はそれぞれ別の動きを取る。艦隊左翼にいる駆逐艦が両艦隊の隙間に突っ込んでいき、砲雷撃戦へともつれ込む。

 駆逐艦は魚雷を発射すると全速で避難しカーブを描きつつ砲撃を行う。フリゲート艦も同様の戦法を取りつつも艦隊からは離れず主力艦の護衛を務め続ける。

 巡洋艦アカトでは、特殊弾の射撃の準備が終わろうとしていた。アカトの主艦橋より二十mほど前側には細長く四角い箱が一基搭載されており、それがCICによって入力された角度を取ると発射の合図と共に空を仰いでいる面が吹き飛び次々と立て続けに六発、大型ロケット弾頭が発射される。ロケットは広がりながら艦隊に降り注ぎ、すぐさま対空機銃が空に向かって伸びて撃墜していくものの二発が戦艦アギサの艦尾右舷舷側と後部構造物群に命中、大爆発を起こし火柱と黒煙が立ちのぼった。新型対艦ロケット弾の威力はすさまじく、艦尾は破壊されこれにより全スクリューが破壊、全推力喪失、艦尾からの浸水で機関室が真っ先に壊滅し全電力すらも喪失してしまう。主砲及び副砲も二発の爆発による振動で旋回装置が破損し機銃のみとなったが、それらも当然オートメーション化されているため停止している。つまり、戦艦でありながらアギサは何もすることが出来ない沈みゆく鉄の塊と化したのだ。

 あっという間に艦尾から沈下し始めたアギサは、三十秒後にはバウが海面から姿を現し、更に二分後に八十度ほどのほぼ垂直に近い状態に海面に屹立するという姿をさらしながらゆっくりと沈んでいった。

 艦からは点のように小さな脱出する乗組員たちがボロボロと零れ落ちていく、だが彼らの上に構造物も落ちていった。せっかく脱出できたというのに彼らは真上から落ちてきた数ガトンの鉄塊によって潰されていく、更にアギサの沈む際に作りだした下降潮流に引き込まれ一緒に海底に沈む者もいた。

 そんなインスタント地獄が映し出されている間も戦いは止まらない。両艦隊には次第に命中弾が増え、傷つく艦も少なくはなくなってきた。オースノーツ艦隊だけでなくシェーゲンツァートからも落伍する艦が出始め、巡洋艦パルトロは機関からスクリューに動力を伝えるシャフトが曲がり、高速回転し続けたことで歪みが広がり遂に破断してしまった。暴れるシャフトは艦を傷つけ動力を喪失、パルトロは何とか操舵のお陰でコントロールを失い味方艦に激突という最悪のパターンは免れたものの、浮き砲台とならざるを得なかった。

 パルトロがそうして奮闘する中、駆逐艦エルトルーザもまた推進装置に損傷を受け舵が取舵に固定されるという状態に陥り、エルトルーザは艦隊前方から敵艦隊に向かって弧を描き始めた。

〈エルトルーザ!進路を修正せよ!こちら(フリゲート艦)ガドデグズ!衝突する!〉

〈舵損傷!舵が利かない!〉

〈クソ!〉

 ガドデグズはすぐに面舵を取り進路と交差するコースを取っているエルトルーザを回避しようとするが、大型の艦船は舵を切ってから実際に利き始めるまでにタイムラグがあり、戦艦クラスともなれば十分そこらでは艦の向きが微動だにしないというほどだ。ガドデグズ艦橋では操舵手の必死の舵取りのお陰で艦が右舷に向き始め、すぐに舵を戻す。そうしなければ今度はガドデグズが右舷側に位置する僚艦に激突してしまう恐れがあるためだった。

 エルトルーザの左舷が迫り、艦橋からはエルトルーザの艦橋内に動く人影が見えるほどであったという。

「総員衝撃に備えーっ!」

 副長が叫ぶ、近づく二艦、衝撃、鉄がこすれ合い削れる音。しかし二つの艦は食い合うことなくそのまま走り続けていた。奇跡的にガドデグズの艦首がエルトルーザの左舷艦尾舷側を削り取る程度に済み、衝突箇所が歪んでしまったものの死者は出ず掠めた際の衝撃で機関士が一名ぐらつき軽く負傷したくらいであった。

 ガドデグズは艦隊を維持したまま戦闘に復帰できたものの、エルトルーザは敵艦隊の中心に突っ込む軌道を描きながら進み続け、全速後退をかけることでそれを防ごうとしたものの今からではもう遅い。辺りを見回せば既に夜の帳が降りつつあり、覚悟を決めたのだろうか、エルトルーザは探照灯を全て点灯しより一層果敢な砲撃を始める。

 対空機銃座も手動に切り替えると一番近い敵艦に向け浅い仰角を取って射撃を始め、巡洋艦ナースは至近距離での鉄の豪雨に晒された。薄い装甲表面が穿たれ艦内部では火花と血しぶきが舞いあっという間に左舷構造物内にいた乗組員たちは六割が戦死する。

 そして、今度はエルトルーザの番であった。夜に単艦探照灯を使えばどうなるか、それは火を見るよりも明らかで、何隻もの艦がエルトルーザめがけて発砲し光の玉が光の帯を伸ばす主へと吸い込まれていく。

 レーダーがもぎ取られ、機銃は全てねじ曲がり、艦首主砲は最後の一発を放ってすぐ破壊される。それでもわずかに残った艦尾主砲が砲撃を行っていたが、既に艦橋は大破し指揮を執れるものは無くまた艦尾から沈み始めていたためほどなくして沈黙した。

 推力は既にないため惰性で進み続けていたものの速度は極端に落ち、余計に的として狙いやすくなっていたエルトルーザの味方艦隊側の舷側から生存していた乗組員たちが脱出を図り真っ暗な海面に向かって飛び込んでいく。彼らは味方の方へと泳ごうとするものの、誰かがそれを制止する。彼らの目には砲弾が飛び交い海面にも落着したことで上がる水柱が映っていた、あんなものが至近弾でも浴びれば人体など全く耐えられるわけがないのだ。

 かといってエルトルーザの近くにいてもまだエルトルーザを撃っている砲弾や沈む際の下降潮流に飲み込まれる危険性がある。二進も三進もいかなくなった彼らはエルトルーザから絶妙な距離を保って波間に頭だけを出して浮かび、彼らの顔が、ヘルメットが、燃えさかる自分たちの船の炎に照らされていた。

 戦艦シェーゲンツァートの主砲に敵砲弾が命中するものの、船体同様重装甲を誇る主砲正面装甲は軽々とそれを傾斜装甲をもって弾き、弾は後方へと落ちていく。そしてお返しとばかりに一番砲塔が三門を一斉射し駆逐艦ノバイツィベクは艦中央艦橋基部に三発全てを受けた。が、何故か爆発もなければ炎上もしない。確かに当たったはずだとCIC内では疑問符が乱立していたが、砲弾自体は一発はしっかりと確かに命中していた。

 ならばなぜなにも起きなかったのかと言うと、貫通力が高すぎたために砲弾が起爆することなく艦橋を突き抜けてしまったためであった。一発は貫通、一発は対空機銃を掠め破壊、もう一発は前部主砲のすぐ近くをすり抜けていっていた。

 命中によって運悪くその場にいた乗組員たちに死傷者は出していた、左から右へとあいた巨大な破孔のためにノバイツィベクの艦橋は強度が大幅に低下しこれ以上艦橋に命中弾をもらえば艦橋がへし折れて倒壊する危険性があったため、ノバイツィベクは緩やかなカーブを描きながら艦隊右翼へと移動しつつ攻撃を続ける。

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