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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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深層域のハンター(2)

 アージェスの水中用レーダーには十機きっかり同盟軍識別のALが映っており、それらが皆自分の方へと近づいて来るのがわかる。どうか気づいていないでくれと祈りつつ耳を澄ましていると、収音機が僅かなスクリューを複数拾った。それらはどんどん大きくなってきており、音の識別から敵はエンジンをぶん回して最大戦闘速度でまっしぐららしい。

 司令部から聞かされた話が確かであれば今戦っている敵艦隊はシェーゲンツァートの主力艦隊、つまりこの星で一、二を争う強さであろう。それを相手取ってここからたった一機で敵を殲滅乃至撃退するのは最早神の所業とすらいえよう。

 彼の所属する艦隊も連合軍の中ではトップクラスと言っても過言ではないという自負はあったがかといって最強かと聞かれると頷くことは出来ない。主力艦隊の一翼と言えども第一艦隊ではないのだから。 

 ほどなくして敵編隊からいくつものスクリュー音が分離、先行していくのを聞き取った彼はそれがALから放たれた小型魚雷の群れであることに気づき、信号を送る。音声を送れない今、使えたのはコド信号という非常に古い無線で、記録によれば六百年前にカンデルムという今は無き街で一人の男によって生み出された世界で最初の無線信号なのだという。今はもうマニアくらいにしか使われていないのだが、これならば機体をアイドリングにした状態でも艦隊と連絡を取れる。

 地球のモールス信号と似たような形式の無感情な信号で敵の魚雷が迫っているという内容などを送ると、魚雷が頭上を通り抜けていく音に耳をそばだてながら敵部隊が通過するのを待つ。時折海流の乱れたらしい不規則で大きな低い音がそれらをかき消してしまうが、そんな雑音の中でも重要な音を聞き取れる訓練を水中用AL乗りは積んでいるため、完全に音を失ってしまうことは無い。

 聴音機とレーダーが互いの得た情報をうまく組み合わせることで自機と敵機との相対的な位置関係を弧を描いたレーダー画面にほぼ正確に表示してくれる、そのおかげで彼はようやく敵機が自機の真上を通り抜けていったことを確認し、最後の一機が通過すると同時に機体を起動、ゆっくりと可能な限り余計な雑音を鳴らさぬようにスクリューを回し始めた。

 識別システムが表示したのはバレラスト及びケプレという名前の機体で、バレラストはシェーゲンツァートではエントレールと呼ばれる水中専用のALであり、ケプレはリリという水陸両用のALである。

 バレラストは水中での運用に特化しているため上陸などは出来ないが代わりに頭部から上半身にかけては重装甲で背中には対水面上用の兵装、機体正面には水中用の兵装を内蔵した武器庫のような機体である。

 ケプレは汎用性を得た代わりに一年程先に開発されたバレラストよりも水中での運動性が劣る。だがそれでも水陸両用ALでは一線級の性能を有している。

 幸いまだ気づかれてはいないようだがそれも時間の問題だろう。ナスーチェスは操縦桿のアームをしっかりと握りしめると、敵編隊の最後尾へと迫る。

 まだ深海に位置するため敵機の姿は五十mにまで接近してすらはっきりとは確認できず、それでいて敵の乱した海流を後ろから可能な限り静粛に追いかけ追いつかねばならない。その苦労は察するに余りあるが、それをやってのけるのがベテランのエースパイロットの技量である。

 通常の敵であれば、この方法で確実に反撃も受けずにまず一機をやれていた。だが、流石はシェーゲンツァート主力艦隊所属といったところだろうか、右腕を伸ばしあともう少しというところで目の前のケプレが振り返ったのだ。

(気づいてる!)

 まさか自分は敵の気づいていないふりにまんまと乗ってしまったのかとショックを受けるナスーチェスであったが、そうではなかった。敵は攻撃を受ける直前にようやく真後ろに迫る機体があることに気づきすんでのところで振り返ったのである。その証拠に、振り向いて一秒後に敵機の腕がアージェスへと向けられたがそれを伸ばしていた右腕で下に押し除けるとそのまま右腕のアームで敵の胸部を掴み有り余るパワーで握りつぶした。

 ゴウン、とフレームと装甲が圧壊する音がコックピットにも届く。完全に潰されたわけではないが一気に機内に海水が飛び込んできたケプレはそのまま海底に向かって沈んでいった。

「次だ」

 既に残りの敵機も背後からの刺客には気づいており魚雷がアージェスに向けて発射された、がそれよりもわずかな差でアージェスのほうが先に魚雷を発射していたのだ。アージェスの魚雷発射管は上半身にあり、首回りの四本のハッチから小型魚雷が発射される。交差する魚雷、二発は外れてしまったが一発はケプレの股関節に命中、もう一発は別のケプレの右腕に命中し前者は緊急用の浮上システムを起動、海面に向かって浮上し始めた。

 対して同盟軍側の放った魚雷は計十発、ナスーチェスはアージェスの脚部と胴部のスクリューを最大出力で回して後退するとさらに浮上をかける。魚雷は近接信管方式が一般的、ならば銃弾のように紙一重で躱すなど不可能であるため、そうして思い切り大きな機動をして全力で逃げなければいけないのである。

 逃げていくアージェスをケプレとバレラストの内三機が追撃にかかり、残った五機が予定通り艦隊の攻撃を行う。追撃してくる三機のいずれもエース級のパイロット達、いくらナスーチェスがエースとていっぺんの油断も出来ない大敵だ。それを心得ているのが彼の強みの一つである。

 彼は上昇の途中で胴のスクリューの出力を絞る、これによって脚部とのバランスが取れなくなり機体は思い切り足が蹴り上げられてしまうが、これをうまく制御することで水中でバク宙のような後方宙返りをやってのける。

 敵は全力で追いかけてきているため突然の方向転換に対応が遅れてしまい、バレラスト一機がアージェスの大きな爪に右腕を肩からもがれ、更に反対の手で腹部を握りつぶされてしまう。そのバレラストも緊急浮上システムが起動したが、浮上用のバルーンが戦闘によって破損してしまったらしい。ふくらみを見せたかと思うとすぐに水圧によって潰され浮上しかけた機体は重力に足を引かれ、最初の犠牲者のように真っ暗な海底へと引きづりこまれていった。それとほぼ同時に最初の機体が水圧によって圧壊していく音を聴音機が拾ったが、誰もそんなことを気にしている余裕などない。

 既に三機が撃墜され一機が中破している同盟軍だが、彼らとてやられっぱなしというわけではない。バレラストは一発の魚雷を発射するが、形状が通常魚雷と異なっている。その魚雷が発射された直後アージェスのレーダーが全て狂ってしまった。

「パラライズトーピード、面倒なものを!」

 ナスーチェスは舌打ちするともう一度敵からの距離を取り始める、攻撃用の魚雷ではなくレーダーやソナーを狂わせるための特殊弾頭を装備した魚雷によって敵との位置が把握できなくなったため、魚雷の効果範囲外に出ようと画策したのだ。だが、思いのほかその半径は大きくちょっとくらい移動しただけでは抜け出せそうになかった。

 その隙にも残りの二機の敵機は彼を挟撃しにかかっており、バレラストは両腕の大きなグラップルアームを、ケプレはガントレットを展開し両側から粉砕しようという腹づもりらしい。

「マズイ!クソ!」

 ナスーチェスはノイズの中に僅かに映る光点を頼りに機体を大きくロールさせた。そのタイミングは間一髪、グラップルアームの凶悪な爪とガントレットの刃先がアージェスの装甲の表面を十センチばかり抉り取る。

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