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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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後戻り(2)

 かく言うビテールン伍長も二つ前にいた小隊で、部隊内で一番仲の良かった重装型乗りの同胞を失っていた。いい奴だった、彼は思い出す。

(あれが死んじまったのもあの人の好さのせいだ……重装乗りだって引くときゃ引かなきゃなんねえんだよ馬鹿が……まったく)

 ビテールンはセレーンにムートル兵長のことを任せると、五番機に乗り込んで立ち上がらせる。

「おーい伍長!どこ行く気だ!」

 地上に降りていたフーフラーファ曹長が五番機が動き出したのに気づいて足元に駆け寄ってきたので、彼はスピーカーに切り替えてリンドを探しに行くと伝えた。

「隊長を探しに行きます!」

「危険だ!いくら隊長でもありゃあ」

〈大丈夫!あまり奥までは行きません!危なくなったら戻りますから!〉

 そう言って彼は手ぶらで再び海に向かって進もうとする。武器はもうない。

 そんな彼を見かねた別の部隊のシェーゲンツァート陸軍ALが彼が横を通りかかった際に呼び止めて自分の持っていた突撃銃を手渡した。

〈持っていけ。どうせもう三十発程度しか入ってないんだ〉

「だが……」

〈いい、持っていけよ。どうせそれにも弾ぁ入ってねえんだろ〉

 とルスフェイラのパイロットは五番機のキャノン砲を指さす。確かに彼の言う通り、砲撃型を砲撃型たらしめるキャノンにはもう一発も弾は残っちゃいなかった。彼は同胞の思いやりをありがたく頂戴すると、短砲身仕様というあまり見ないタイプの突撃銃に少し驚きつつも彼はペダルを踏みこんだ。その時、九番機から無線が入る。

〈伍長!自分もついていきます!〉

 その申し出を彼は断った。

〈お前は補給型だろ、弾がないっつったって本来は戦闘用じゃないんだ。待ってな〉

 でもしかしと食い下がる彼を上官命令としてとどめておくと彼は地上レーダーを強める。さらに対人センサー、識別センサーも感を上げて万全の状態にしておいた。これでリンドを見つけやすくなったはずだ。あとは、まだわずかに残っている敵上陸戦力に注意しつつ進めばいい。

 上陸した敵戦力は既にほとんどが駆逐されたはずだが、この見る影もない基地の残骸の中に潜んでいても気づきようがない。もし影からロケット弾でも撃ち込まれればなすすべなくやられてしまいかねないからだ。

「よし……来てくれ……ん!」

 センサーに感があった。彼の位置から八十m、二時方向に三つの反応、識別タグは……味方!

 もしこれがリンドのものだとすると、彼は味方と合流することが出来たということになる。そうであることを祈りつつ彼はそこまで進んで地上を見下ろすとそこにいたのは陸軍の戦闘服を着た兵士達だった。

 落胆しつつも彼を見上げている三人にスピーカーで話しかける。

「俺の来た方角百mほどに味方が集まってる!そこに行け!」

「わかった助かる!」

 礼を述べると彼らは一人に肩を貸して後方へと歩いていった。型の所属章を見るにどうやら主計科らしいが、何をしていればこんな遅くまで前線に取り残されるのだろうかと小首を捻る。彼は遠くで聞こえた艦砲射撃の砲声で現実に引き戻されると、そんなことより、と地上に目を凝らす。

(しまった……あいつらに隊長見てないか聞きゃあ良かったぜ)

 左腕が義手の若いALパイロットなどそうそういるわけがない、見れば一発で分かるだろう。とはいえ、もう彼らも向こうへと向かっている。こんなまだ銃弾の飛び交っている中を立ち止まらせるには申し訳ない。それに彼らも負傷者を抱えているとくればなおのことだ。

 しかしそろそろ見つけないとやばいだろうと思っていると、すぐ近くで小銃の連続した発砲音が聞こえたためそちらに向かう。すると一人の味方兵士が戦車の残骸に身を隠して数名の敵兵と戦っているではないか。互いの距離はおよそ百m、このままでは彼は多勢に無勢でやられてしまうだろうがALならばその状況を楽々覆せる。

 ビテールンはわざと音を大きくたてながら近づくと、敵は建物の影から伸びてきたALの頭部が近づてい来るのに驚いて一目散に退散してしまう。

「ハハハハハ!」

 大笑いしたところで地上を見下ろすと、助けた兵士が手を振っているので拡大してみる。するとそこにいたのは紛れもなくリンドであった。あちこち負傷して半身が血に染まったことで軍服の色が変わっていたため気づかなかったらしい。

「隊長!ビテールンであります!」

 回収するためにしゃがんだところで、機体にカンカンと弾が当たる音が。飛んできた方向にカメラを向けると先ほど追っ払った兵士達が撃ってきているようだ。そのため彼は機体をしゃがませるのではなく寝かせると、背中を敵に向けてリンドを上半身で庇う姿勢を取り、コックピットハッチを開ける。

「隊長!酷く怪我してるじゃないすか!」

 よろめきながら機体に這いあがってくるリンドを手を伸ばして引っ張り上げると、体を固定するように伝え機体を起こす。レーアルツァスが動き出したことで再び敵歩兵は海に向かって走り去っていったが、それをビテールンは突撃銃で吹きとばすと機体を反転させた。

「ご無事で!」

「なんとか……死ぬかと思ったよ」

「皆死んだとばかり思ってましたからね」

「でも来てくれたんだろう。助かったよ。今度奢るぜ」

「ハハハ!約束ですよ」

 短い道すがら、ビテールンは部隊のことを伝える。ムートル兵長は一足先に後退したことで治療が間に合い、ラッベラン一番機も無事パイロットは脱出、それからは誰も欠けずに後退できたのだそうだ。

 それに安心したリンドは、水を一口飲んであることを尋ねようと口を開く。

「なあ、伍長」

 するとビテールンは内容を予測していたように彼が言い終えるよりも先にその答えを口にした。

「彼女なら無事ですよ。ムートルの手当てもしてくれました」

「そうか……よかった……」

 リンドはホッと胸を撫でおろすと、一気に疲れが来たようであっという間に眠りに落ちてしまった。

「やれやれ、寝ちまったよ全く」

 帰投したビテールンは、セレーンの下に彼を下ろしてすぐに手当てをするように伝えると、再びALに乗り込んで歩哨に立つ。

「……敵機がいないな……」

 ふと、空が静かになっていることに気づいた、レーダーにも偵察機らしき機影が一つ二つちらほらと映るのみで、エンジンの爆音も聞こえなければ爆撃の音も聞こえないことから爆弾が切れたので補給のために後退しているのだろうかとばかり思っていたが、実は彼らの知らないところで事態は急変していた。




 ポーライツィミニー大陸南西部、広範囲にわたって発生している霧に包まれたキッシュト洋に複数の島の影が映っていた。否、その影はよく見ると動いており、どんどん北上しているではないか。

 むせかえるほどの濃い霧を突き破って現れたのは、ベトルーザ級駆逐艦三番艦エルトルーザ。最新鋭の駆逐艦であるベトルーザ級はいくつものレーダーやソナーを積んだ対潜性能に優れた艦で、シェーゲンツァート帝国の威信をかけた駆逐艦である。

 さらに続いてヌール級巡洋艦十二番艦アカト、グーバ・ダーバ級駆逐艦十番艦サキ、そしてしばらくして一際大きな艦影が……

 全長三百二十二m、全幅四十三mにも及ぶシェーゲンツァート帝国最強にして最大の戦艦、シェーゲンツァート級戦艦一番艦シェーゲンツァートだ。

 さらに二番艦エメルザス二世他多数の戦闘艦艇と補助艦艇が続く。旗艦シェーゲンツァート艦橋上に翻るのは第一艦隊を示す旗。これはまさに、シェーゲンツァート主力艦隊の最たるものであるシェーゲンツァート帝国海軍第一戦隊であった……

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