肉薄 鋼鉄の激突(2)
超高温のプラズマの刃がアルグヴァルの右肩に突き立てられた。リンドは目を瞑り歯を食いしばったが、高熱に焼かれたような感覚はない。すぐに目を開けた。すると眩い輝きが右のモニターを埋め尽くし、残りのモニターにノイズを走らせていた。
「なん、だって……」
九死に一生を得ていた、先の戦闘で融着していた増加装甲の一部がパージされずに残っていることは以前述べたが、まさにプラズマヒートブレードが振り下ろされた先がその残っていた装甲の一部だったのだ。白いALのパイロットは咄嗟の判断であったことと、増加装甲が素体の装甲の色とほぼ変わらぬグレーであったことが原因であった。優秀なアルグヴァルの装甲がリンドを救っていた。が、それでもそれはその場しのぎでしかない。防いだといっても見る見るうちに装甲は溶かされ、また通常の素体の装甲部分は熱にやられていく。頭部は完全に死滅しており、サブカメラが起動し視界を確保したが右腕はまったく反応しなくなり、さらに次々とシステムに異常をきたし始めた。彼は左腕を振り上げ、敵の突き出た胸部に思い切りアッパーカットを打ち込んだ。甲高い金属音を響かせた敵は、ブレードを戻すともう一度、今度は貫通させようと腕を振り上げる。白い塗料が金属片と共に剥離し、アルグヴァルの左拳にこびりついている。
今度は振り上げた左手を開き、敵の肩の装甲の隙間に無理やり指をねじ込んで装甲を引き剥がしにかかる。驚いた敵は胸部機銃でアルグヴァルを撃つが、弾が破壊したのは既に使い物にならない頭部であった。
「こんのやろお!!その綺麗な装甲もらってくぞ!」
アルグヴァルのパワーは伊達ではない。同世代機よりも優れた馬力を持つアルグヴァルのパワーは白いALの装甲を引き剥がして余りあり、そのまま右腕の根元ごともぎ取った。腕が地面に落ち、細かな部品が飛び出すと同時に、腕を動かしていた油圧オイルや、流体アクチュエータなどをほとばしらせた。その様子はまるで人間が大量の血や体液を噴き出しているようであった。その返り血を浴びたアルグヴァルはスプラッタ映画の怪物のようであった。だが実際やられているのはアルグヴァルのほうである。無骨な見た目をしているため、そうは見えないだけだった。
この損傷で著しくシステムやエネルギーに支障をきたしたALは、プラズマヒートブレードを維持するだけのエネルギーを供給できなくなり、機体から白煙を噴き出した。
それに驚いたリンドは、その隙をつかれ蹴り飛ばされてしまった。敵は蹴りの勢いを利用して飛び上がる。倒れたリンドは、モニターの向こうに白いALが飛び去って行くのを眺めているほかなかった。ALは二機の味方のALにワイヤーで牽引されながら空の彼方へと飛び去って行った。それと時を同じくして敵航空部隊も一斉に帰投していくのが確認される。爆弾の補給のためだろうか。しかし今は空からの脅威が去ったことに胸をなでおろすしか彼らにはできなかったのであった。この攻撃で大損害を被った同盟軍は、シュクスム攻勢の勢いを弱めざるを得なくなってしまう。
「ああ、助かった……うう……」
敵が去ったことに安堵したリンドは、全身から力が抜けていくのを感じたと同時に、自分が泣いていることに気づいた。これが安堵によるものなのか、恐怖によるものなのか、はたまたあの白いALに勝てなかったせいなのかは、彼にもわからなかった。
「お前は正気か!!!」
味方陣地に戻ったリンドは、キリルムたちに怒鳴りつけられていた。無理もない、新兵が戦場のど真ん中で重装甲を脱ぎ捨てたためだ。重装型乗りはまずその重装甲をぬぐことなどない。それに彼が強制解放した理由の火災は、適切な手順を踏めば消火も可能な規模だったということもある。それをパニックに陥ったリンドはあろうことか強制解放してしまったものだから、キリルムたちに叱責を受けていたのだった。そして解放をしたために重装型としての責務を放置したも同然なのだ。あの作業を行うにはそれなりの規模の整備場が必要となる。当然こんな野営地にはそんな大層なものは無い。これから帰還までリンドは満身創痍の中ヴァルで戦闘を継続する必要があった。
「申し訳ありません!」
彼は指先までまっすぐ伸ばして直立していた。こんなふうに怒鳴られるのは学校以来である。屈強な軍人二人ににらみつけられたヒヨッコは、神経が委縮してしまっていた。それでも精一杯腹から声をだして謝っていた。




