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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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海を奪還せよ(2)

 ALのような自分の目が全身に届かない巨大兵器で死角がそれほど多いのは非常に危険極まりない。曹長の機体自体は戦闘継続可能であるようだが、まともに周囲の見えない機体に頼ることも出来ない。

 かといってここで止まるわけにも引き返すわけにもいかず、リンドは頭を抱えてしまう。

「クソ……俺のももうきついぞ……皆ボロボロじゃあないか……」

 その時一通のメールが届く、送り主はラッベラン小隊一番機。翻訳をかけて開封すると第一小隊が戦闘継続可能かを問う内容が記してあった。

「……ここは頼るしか……ないか」

 リンドはここである考えに至る。それは同盟軍盟主でもあるシェーゲンツァート帝国の一員であるという自負と、彼らより未だ数で勝ることに背くような行為であると彼は悩んだが、背に腹は代えられない。

 下唇を噛みながら彼は素早く返答と一つの提案という名の請願を載せて。すると二十秒ほど後に了承の旨が返ってきたため彼は全身の力が抜けたように椅子に倒れこんだ。

 彼が送ったのは、「戦闘継続可能、されど全機損傷甚大にて貴小隊に此の部隊の中心を務めてもらいたい」という内容であった。

 それぞれの部隊の状況は彼らも理解していたためか、彼らは快く受け入れてくれたようですぐに左翼側に展開していた彼ら三機が中心まで来てくれた。

 ラッベラン小隊のALはどれも皆当然著しく損傷を受けてはいたものの、それでも第一小隊と比べれば戦闘継続可能な程度のものであり、安心すると同時に何故自分達ばかりがこうも火力を集中されなければならないのかという不満も抱いていた。

 揺れるコックピットの中で、リンドはしきりに自機の足の状態に気を配る。随分弾薬も装甲も失われたとはいえ、それでも尚中装型のレーアルツァスと比べればまだ重量に置いて勝っており重装型の名は伊達ではないと改めて思い知らされる。

 甲高い金属音が鳴るたびにリンドはシートの上で小さく跳びあがってはすぐさま機体状況を確認、フレームにヒビなどが入っていないことを確認すると安堵するということを繰り返していた。

 だが、これからもしばらく戦闘が続くというのにこの状況でいつまで持つのだろうか。基地内では援軍の艦隊がこちらに向かってきているという噂が飛び交っているのをリンドも耳にしたことはある。だが、あくまでそれは噂であり、確かな情報筋から聞いたというわけでもなければ上が話しているのを耳にしたというわけでもなく、大方戦況に絶望している兵士達の幻聴だろうと一部のまだ冷静でいられている者たちは判断する。

 だが、そんな彼らとてそうなってくれたらどれだけいいかと思っているということを忘れてはいけない。

 リンドも、フーフラーファも、新兵たちも、そしてラッベラン小隊他この基地の兵士達が皆一様に外からの援軍を待ち続けていた。

 だが、全くの援軍がないというわけではない、何せここは同盟軍所属のバウデックス・ナー王国、内陸にはまだ王国麾下の軍隊やそのほか基地に駐留している同盟軍もいるのだ。彼らも数少ないながらも基地への増援を送り込んでいる努力をしている。だが同盟軍も全体的に長引く戦争と劣勢に立たされいくつもの同盟軍所属の国が降伏しているために物資や兵力が不足しているため、一発逆転できるだけのまとまった兵力を送り込むことが難しいという現状だ。

「ああ、モーターが一個死んでる」

 リンドはモニタが表示した信号を拡大し、右脚を動かすモーターの一つが遂に機能停止したという報せを見てため息をついたところで敵航空機がこちらに尻を向けていたのでリンドはその場に停止すると対空砲を一発撃つ。直撃はならなかったが至近距離での爆発によって敵機は右翼に被弾、薄い黒煙を吐きながらふらついた軌道で海へと戻っていき、やがて墜落したのをカメラがとらえた。

〈ヒューッお見事〉

「まぐれだよ」

 などと言葉を交わしながら敵を制圧しつつ、やがて彼らは波止場のすぐ目の前まで進むことに成功していた。




「敵揚陸艇確認、数……二十五。内揚陸中十八。敵AL八、車両二十……今のうちにやっとかねえとエラいことになるぜ」

 リンドはキンキンと装甲に当たる銃弾の跳弾音を気にも留めずに岸にたむろっている敵の陸戦兵力を数えていた。

 彼らと岸からの距離はおよそ二百六十m、目と鼻の先でALなんてレーダーにはっきり映るような巨大な物体がその距離で隠れられるわけもなく、ただ敵もまだ上陸後の部隊編成が整っていないようで、すぐにはAL複数機を相手取りたくないらしく、こうして歩兵を向かわせているというような状況らしい。おまけにシェーゲンツァートの重装型がいるとなれば動きも慎重になるだろう。

 ちなみに敵兵士が狙っているのは頭部のカメラであったが、そう言った小銃や歩兵用機関銃での狙撃を考慮して大体のALにはカメラ防御用のシールドが備えられており、リンドも超強化アクリルのシールドを下ろしてカメラを守っていた。

(無駄なことをする……虫共が)

 リンドはちょっかいをかけてくる不快な“害虫”を蹴散らしたかったが、残り少ない弾丸の消費を抑えるためにトリガーを引かずに堪える。

〈敵が多いですね、やはり〉

「ええ、こういう時ガトリングだったらやりやすかったんですがね」

 そうぼやきながら彼は頭上を見上げるが、ないものねだりをしても仕方がない。それにあれはあまりに威力が大きすぎて味方陣地で使うのはデメリットの方が大きすぎたので、対空砲を使うのは必然であった。

 メールが一通、ラッベラン一番機より届く。それは先ほどからやり取りしている作戦内容の相談が記載されているもので、急いで組みたてられたものだが現状で取れる最善の策と思われるものが構築されようとしていた。

「……よし、これしかないだろう」

 リンドは了承の旨を送ると部下たちに直接作戦内容を伝える。

「各機聞け、ヒトナナヒトマル時より作戦を決行する。陣形は俺を中心に幅広いA陣形をラッベラン小隊と共に組む。配置は今送った通り、俺がいつも通り……ああ重装型の運用セオリー通りにいくが、俺に敵の火力が集中しているところを左右から時間差で叩け。優先すべきはAL。いいな!」

〈ハイ!〉

〈了解であります!〉

「よしそれじゃあ、さっさと飯済ましとけ!次いつ食う暇あるかわかんないぞ!」

 そう言ってしめるとリンドもシート横のボックスから銀色の厚いパックを取り出すと開封する。中から出てきたのはバンデラというシェーゲンツァートで古来より食されている保存食を軍用にしたもので、全粒粉で焼いたパンだが非常に硬く焼きしめられており、簡単には噛み砕けない。

 それを手で割って細かくしたものを口の中に放り込むと水筒の中の水でふやかしながら食べる。時間がかかる代物だが、保存性は確かで、これも見れば製造年は三年前となっており、なんでそんな古いものがあったのかとリンドは口を膨らませたまま眉間に皺を寄せたが、味に問題はないため見なかったこととした。

 あともう一つ、肉のペーストを食べたかったのだがバンデラをボックスに押し込んでいたところで時間が来てしまった。

「はー……手料理が食いてえ……よし」

 リンドはペダルをゆっくりと踏み込む。それに呼応して第一小隊、そしてラッベラン小隊のALは動き出した。数十~百ガトン超えを誇る超重量の鋼鉄の機体が崩れた鉄筋コンクリートの残骸を踏み砕く、ちょっかいを出していた兵士達は急いで退避しながら上陸地点に築かれた前線司令部へ無線を飛ばそうと試みるものの、それよりも先にALの腕が彼らを押しつぶし瓦礫と一緒くたに変えてしまう。

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