守りたいから(3)
リンド達第一小隊はラッベラン小隊と連携し、海岸線に向かうことにした。前進しつつ敵の前線を押し返し奪われた場所を奪還するためだ。
第一小隊を中心と右翼側に、ラッベラン小隊を左翼側に配置し互い違いに二列になって面で制圧していく方針だ。その中心にはもちろん最大火力であるリンドが位置しており、敵を発見次第撃破できそうであれば近いものが、難しそうと判断すれば両翼から中心に追い込んで重レーアの火力で力押ししてすりつぶすという策であった。
慎重に合同部隊は進み始める。恐ろしい重量を持った金属の塊がコンクリートを踏み砕き、関節から飛び散ったオイルが地を濡らす。リンドはランサーロケットの残弾が残り一発であることを確認すると、いつでも腰の突撃銃を取れるように銃がまだあるかを確認し、マウントされていることを確かめるとホッとする。
〈敵機接近距離千二百、高度九百。数……五、六、いや増えてる!!〉
声の震えているムートル兵長の報告通り、海からやってくる敵航空機の数は目視でさっと数えられる許容量を超えており、少なくとも二十はくだらない点が対空レーダーの画面に表示されていた。
「各機身を隠せ!対空戦闘用意!」
リンドの指示が下るや否や、それぞれがまだ聳え立っている瓦礫に可能な限り身を隠すと、対空機銃を起動させ、手に持っている火器も空へと向ける。
「三番機、外を警戒しろ」
〈ハッ〉
リンドも対空砲の仰角を取りランサーロケットをその場に置くと片膝をついて一丁の突撃銃を両手でしっかりと構える。通常は二丁持ちだがこういう精密射撃が必要な場合はこのように膝をついて機体の安定感を高め、両手でしっかりと銃を構えるようにする。
モニタの倍率を上げ火器管制システムのパラメータを対空寄りに切り替え、スコープを引き出して覗き込む。四連装対空砲は残ったのは二基のみで、おととい補給を受けたが残弾も合計でニ十発しか残っていないという有様であった。
「ふう……」
恐らく敵は現在の高度から大量の対地ロケット弾をばらまいて来るだろう。その前に撃ち落してやれば味方の被害も最小限で済むためリンドはよく狙いを定めコンピュータの予測した位置に砲弾を次々と撃ち込んだ。
それを予測してか、敵機も一機が撃墜されるとほぼ同時に勢いよく高度を下げてまっすぐ彼らの方へと向かい爆弾槽を開くと小型ロケット弾を次々と乱れ撃ってくる。空から無数のロケット弾の暴風雨に晒されながらも地上のAL達は勇敢に対空迎撃で対抗したが、空と地とでは空の方に分があった。その上数においても敵方が勝るとくれば。
〈ぐうっわあああ!!〉
〈ギャッ!〉
次々と合同部隊は被弾し爆炎の中に飲み込まれる。敵の狙いは正確で、リンド機も左腕を破壊され脚部の追加装甲を両脚とも剥がされ、ビテールン伍長も右脚の膝を破壊され昨日まで兵舎だった六階建ての建物の瓦礫によりかかるようにうつぶせに倒れこんでしまう。
他の機体もあちこちに被弾を受けたが、ラッベラン小隊は死者はなく第一小隊は八番機のジャード一等兵の機体が燃えさかる炎に飲まれ動かずにいた。コックピットの真下に直撃弾を受けた八番機は、上半身と下半身が分離し地上で傾いて炎の中で泣いていた。
放射能漏れを告げる放射能測定器が九十シーベルトを叩きだしておりどうやら八番機の融合炉が破壊されたことで放射能漏れを起こしたようだが、以前言及したようにこの星の人間は放射能が全く効かない作りをしているため、彼らはそれに対しては慌てることもなくただ仲間の死を悼む暇もなく反復して襲い来る敵機への対応に意識が割かれていた。
〈クッソオオ!!〉
ロケット弾を撃ち尽くした敵機は、まだ反撃に転じられていない合同部隊に追撃をかけるべく機銃をもって接近戦を挑んできた。フーフラーファ曹長機とムートル兵長機が三機から機銃掃射を立て続けに受け、フーフラーファの予備弾倉が破壊されサイドスカートがもぎ取られ、ムートルの機体は頭部メインカメラが撃ち抜かれてしまい、サブカメラで補正をかけるもののやはり著しくその鮮明さは落ちてしまう。
リンドも彼らに加勢してやりたいが、彼も彼で重装型であるため率先して排除すべき脅威とみなされてしまい、六、七機の敵機からかわるがわる掃射を受けていたためどうにも手出しできずにいる。
コックピット内は火花が飛び散り警報が鳴りやまず、絶え間ない振動に彼らは揺らされ続けていた。
一瞬の攻撃の隙間をついて反撃しようと銃を上げると今度は死角から別の機体が銃撃を浴びせるため、二進も三進も行かない。
このままでは中装型仕様のレーアルツァスは撃破されてしまう、そんな時彼らを救ったのが被害が少なく済んでいたラッベラン小隊であった。彼らは三機で一機を狙う作戦を取り、四度フーフラーファたちを攻撃しに反転しようとして面積の広い上面を晒した最後尾の一機を捉え一斉に銃撃を浴びせる。
その攻撃で一機が撃墜され、続いて反転し終えた先頭の機体も距離が近いにもかかわらず僚機がやられたことに気を取られその間にラッベラン小隊との距離が縮まってしまっていた。
そこにディザイティモの両肩の上面に設置された対空機銃が火を吹き仕留める。燃える残骸が降り注ぎ装甲に跳ね返るのも気にせず残った一機を追い返すと、執拗な攻撃からようやく解放されたフーフラーファとムートルとともに残りの十数機を迎撃に移る。
が、敵機も残弾が尽きてきたのかそれとも一気に五機ほどが撃墜されたことで引き時と考えたか本格的に反撃する前に海へと戻っていってしまったためそれ以上の攻撃は出来なかった。
「クソ……やられた」
リンドはようやく機銃の豪雨から解放されたことで、膝をついてた機体を立ちあがらせることが出来た。
〈隊長、大丈夫ですか〉
「いえ、かなり……酷い……あー、ですね、うん」
機体の状態を示す表示には数えるのも面倒な程にコーションサインやエラー表示が出ており、そのモニタを覆い隠したくなってしまうほどだ。吹き飛ばされた左腕の他、対空機銃は全滅、対地機銃も残り一基のみでレーザートーチのアームは中ほどから千切られてしまい、右手の指もうまく動かない。おまけに先ほどの爆撃で損傷を受けた足だ。
やられたのは増加装甲と本体の装甲の一部だが、それらをいっぺんにむしり取られるような爆風を浴びたことで脚部の損傷が酷く歩行に支障があった。
〈うわっ隊長、足のフレーム見えてませんか〉
ルーダバール上等兵の指摘に驚いたが自機からは良く見えないため、その画像データを送ってもらうと確かに両脚とも足首近くでフレームが露出していた。
これはかなりの問題である、中装型であれば重量をフレームだけでも支え切れるが重装型や砲撃型は増加装甲によるモノコック構造も兼ねており、倍以上に増加した重量を支えるにはフレームだけでは全く足りていない。
が、それでも即座にフレームが悲鳴を上げていないのは弾薬の多くを撃ち尽くし増加装甲もある程度失ったことでその超重量が幾分か緩和されているためだろうか。
「各機損害状況を知らせろ。ジャード一等兵は……はあ……」
リンドはジャード機をモニタに捉えその状態では彼は生きていないことを察し深くため息をついた。
もう第一小隊は一番、二番、三番、五番、九番機のみとなってしまった。四番のマーレイ上等兵と十番のゼラ上等兵とが生きているだけマシだが、それでも初陣でのこの損耗フィルーエーアー海軍基地攻略作戦を嫌でも彼に思い起こさせる。




