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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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撃ちてし止まむ

 交戦中の彼らを救うために近隣の部隊が援護に駆け付けてはいたものの、それらを阻むように後から上陸してきた三機が両翼に展開し援軍を寄せ付けない。

 ビテールン機がタックルをかまして敵機を海に叩き戻してやろうと助走をつけて体当たりをしたが、重量さが大きかったために敵機はよろめいただけで特にこれといった損傷がなく、それどころかタックルしたビテールン機の左肩が付け根のシャフトからへし折れ辛うじてつながっているだけのデッドウェイトへとなり果ててしまう。

〈クソッたれ!!〉

 コックピット内で悪態をつきつつスラスターで素早く後退し敵のアーム攻撃を躱し、大きく機体が動いたことで漏れ出ているオイル等が飛び散って辺りを汚す。

 彼は失念していたがそもそも空挺用のALであるレーアルツァスは通常のALよりも軽く作られているため陸戦用ALの平均的な重量をはるかに上回る水陸両用機に体当たりを仕掛けること自体が愚策だった。

 決死の戦いの中でそのようなことをかまっていられる余裕もないため仕方がなかったが、それでも今しがたの自滅攻撃によって左腕を失ったも同然の彼の機体は著しく戦闘能力が低下してしまう。敵味方両陣営共に損傷を増していったが、同盟軍側のほうが損傷激しく劣勢に立たされているまま撃破されるALや死にゆく兵士が増えていく。このままではここにこのままさらに楔を打ち込まれてしまいかねない。

 そう危惧しているところに地球で言う泣きっ面に蜂ともいうべき事態が差し迫る。

〈副隊長!海からもっと来ました!〉

〈何!〉

 フーフラーファ曹長は海の方へとカメラを回すとさらに三機の水陸両用機が迫っているのが見えた。頭部付近を水上に出しているが、その見た目からして今上陸している敵機とは違う型のALで、そちらの方には彼は見覚えがあった。

〈ルエーテ!(※1)〉

 ルエーテとは連合軍の用いている水陸両用機の一種で、携行武器を持っていることと脚部が大きなクローへと変形することが特徴のALであった。ルエーテとは過去に二度戦った経験のあるフーフラーファ曹長は弱点を知っているためそれを部下に伝えたいところだが生憎そのような余裕はなく、またもし伝えられたとしても肝心の部下たちがそれを聞き理解して実践する余裕がないだろう。戦力的にもきっと。

 このままでは本当に全滅するぞ、全身に脂汗を感じていた彼はそのほんの一瞬であったが気が逸れた隙に敵機が真横に迫っていることに反応するのに遅れてしまった。

 急いで銃撃しようとするもライフルを叩き落とされてしまい壁に叩きつけられる。叩きつけられたハンガーの鉄骨などが機体に食いついてうまく身動きが取れず、横にいた五番機は砲身が焼け付いて撃つことが出来ない。

 やられる、そう直感したその時だった。突如目の前の敵機が立て続けに十発もの砲撃を受けその場に倒れこんだのだ。何事かと砲撃の飛んできた方向に目を向けるとそこにいたのは四門の対空砲の砲口から煙をたなびかせているリンドの一番機の姿があった。

 リンド機は胸部に直撃を受けていたものの持ち前の悪運のお陰か増加装甲と若干直撃コースから外れていたことで、頭部も破壊されてはいたものの気を失う程度に住んでいたのだ。目覚めて見れば周りは死屍累々、ぼんやりとする頭だが機体を起こした先には今まさに敵機に肉薄されている二番機の姿を認め、対空砲を展開し味方に当たる危険性を理解しつつも引き金を引いたのだ。

 さしもの重装甲を誇る機体でもこの距離と側面では対空砲の直撃を十発も食らえばひとたまりもなかったらしく、爆炎を上げて燃えさかる屍を晒していた。

〈ご、ご無事で!?〉

 完全に死んだと思われるほどの派手な被弾状況であったため生きている可能性は低いと思っていたのにも関わらず、リンド機は立ち上がりながら手近にいた敵機をさらにゼロ距離での対空砲の発射で撃破する様を見て、リンドがその歳で一個小隊を率いることになった理由をわからされる。

「なんとか!」

 とりあえず返事はするものの、状況が状況だけに会話までする余裕は流石に無かった。

 彼は白い鳥と恐れられるオースノーツのエースパイロットと幾度となく渡り合っただけでなくその全てにおいて生き残り、また死亡率の高い空挺AL乗りでも十代で配属されながらも今日まで生き残りその重火力を持って無数の敵機を撃破してきた。それがエースでないわけないのだ、彼はきっとそんなことはないと言って謙遜するだろうが、紛れもなくシェーゲンツァートでも指折りのエースであることに違いない。

 エースの条件とは単に優れた戦闘能力だけでなく、運や生き延び続けることも含まれているのだとフーフラーファ曹長は感じた。

「第一小隊一番機今復帰した!クソッ……上陸を許しちまったのか」

 その声色からは自分がいない間に敵の上陸を許しあまつさえこの無残な状況を晒している味方への失望ではなく、火力の要であり指揮官でもある自分が戦線を離脱していたことによってこのような状況を招いてしまったことへの後悔の色が思われた。

「くたばれド畜生が!」

 まさか先に倒したと思っていた機体が復活してくるなどとは思っておらず、あっけにとられている敵機を、機関砲を一か所に集中して撃つことで正面装甲をぶち破り腹部を破壊した。

 コックピットがあるかはまだ不明であるが、どんな機体でも腹部など胴体部には重要なワタが詰まっているので、とりあえずそこさえぶち抜いておけば問題はないとされている。

〈隊長危ない!〉

 第一小隊の生き残りの誰かが叫ぶ、リンドはアラートの示す方向に機体の上半身だけを向けながら二番対空砲だけを水平に戻し、目の前に両手を伸ばして今まさにつかみかからんとしてきた敵機の頭部をぶち抜いたが、あまりに近距離であったために対空砲も自身の砲撃の威力に巻き込まれ、二番砲塔が花開いてしまった。

 頭部を破壊されてなお敵機はリンドへの攻撃の意志を捨ててはおらず、対処しようにも機関砲の内側の間合いまで入り込まれており、どの攻撃も使えない。そうしているうちに右腕に抱えている機関砲をアームで握りつぶされてしまい、やむを得ず放棄したことで右手が空いた。

「離れろこんのっ!」

 押し返そうとするものの、レーアルツァスの馬力では水陸両用機には歯が立たず、何とか間合いを保っているに過ぎなかった。そして更に今度は左腕を挟まれてしまい、万力のようにどんどん潰され始めてしまう。装甲がひしゃげフレームが歪むレーアルツァスの悲鳴のような音がコックピット内にも伝わってくる。

 このままでは危うい、そう感じたリンドは敵機越しに見えたビテールン機が銃を構えたまま援護すべきか決めあぐねていることに気づきすぐさま銃撃を加えるように叫んだ。

「俺ごと撃って構わない!早く!」

〈しっしかし重装〉

「早くーっ!」

〈分かりましたよクソッ!〉

 いくら重装型の装甲と言えども味方ごと撃つのははばかられたが、目の前で同胞が危機に陥っているのだ、一か八かにかけるほかなかった。

 距離にして百五十mという超至近距離でビテールン伍長はライフルをフルバーストで撃ちまくる。

 通常のALならば千mの距離で正面装甲を撃ち抜けるような高貫徹力を持ったライフル弾はリンド機に組み付いた敵機の背中とリンド機の正面装甲に降り注ぎ、合計三十発が撃ち込まれた。背中を見せていた敵機は命中弾が全て貫通し、正面を向けていたリンド機もロケットポッドや頭部、また対空砲も一門が被弾によって損傷してしまう。だが、敵機という盾の存在もあり本体は増加装甲一枚すら貫徹されてはおらず、勿論リンドにもかすり傷一つ負わせることは無かった。

「……助かった、伍長」

 空になったマガジンが自動で交換される音に気づいて、ビテールン伍長はすぐに握りしめたままのトリガーから指を離し、リンドにこう言った。

〈……もう二度とゴメンですからね、味方を撃つなんてのは……ホント〉

「ハハハッ」

 そう力なく笑ってリンドはまだ震える足でペダルを踏み、機体を反転、まだ戦っている味方の救援に向かった。

※1 ルエーテ:連合軍で広く運用されている水陸両用機ピリタピルタのシェーゲンツァート軍での呼び名。意味はキラロル語でキリヤマワシ。キリヤマワシとはシェーゲンツァートの高い山に生息するワシの一種で、霧が立ち込めるような場所でよくみられるため。

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