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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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水際の守り手(4)

〈一番機被弾!〉

 ビテールン伍長が叫ぶ傍らで、胸部から爆炎を轟々と上げながらゆっくりとリンド機は後ろに向かって倒れていく。その際リンドは衝撃でトリガーを握りしめてしまったのだろう、二丁の重機関銃がまるで今わの際の叫びかのように空へと撃ちあげられる。

〈隊長が!そんな!返事してください!〉

 部下たちが呼びかけるも返事は無く、機内を映す小型カメラは被弾時に壊れてしまったのかブラックアウトしており中の様子を確かめることは出来ない。

 幾度となく死線をくぐり抜けてきたリンド・オーセス少尉はこんなにもあっけなく死んでしまったのだろうか。生死を確認できていない以上何ともわからないが、今は彼の指揮無しに第一小隊は戦わなければならない。

〈第一小隊は指揮は二番機、フーフラーファ曹長が引き継ぐ!隊長の無事が確認できるまでだ!〉

 フーフラーファ曹長とて一個小隊を指揮した経験はないが、副隊長である以上覚悟を決める時も来よう。部隊は混乱したままだが敵は彼らに落ち着く余裕など与えてはくれないのだから。

〈こちら回収部隊、今倒れた奴まで回収する余裕はないぞ!〉

〈わかってる!どのみち重レーアは並みの馬力じゃ引っ張れん!それより援護するから早く下がってくれ!〉

〈わーってるよ!〉

 十番機を載せた大型トレーラーは大きな唸り声を上げて後方に向かって走り出す。そこに敵ALが再び迫る。

〈敵ALが海上より接近!数六機!いや八、九……十二機!?〉

〈なっ!〉

〈さっきのが……十二〉

 九番機、補給型のルーダバール上等兵が悲鳴を上げ、先ほどの馬鹿みたいに頑丈でハイパワーなALが十二機もやってくるということに言葉を失う第一小隊の面々。あまりにも不利なこの状況であるが、不幸中の幸い、ここは自分たちの基地であるため他にも守備隊は沢山いるのだ。

〈第三AL守備小隊、間に合った!〉

〈第十二高速機械化中隊だ!〉

〈メットモール隊加勢する。足元に気を付けてくれよ!〉

 先ほどのALの襲撃を受け駆け付けたALや装甲車部隊、他にも歩兵の部隊などが一気に集まってきたことで、不安は拭い去られ第一小隊は勇気づけられる。まるで映画のような多種多様な戦力の集結のシーンに、一瞬だがリンドのことを忘れてしまうほどであった。

〈敵は非常に硬い!おまけにパワーもある!とにかく定石通り関節を狙ってくれ!〉

 ビテールン伍長はすぐに集結してくれた味方たちにそう連絡を飛ばすと、すぐに了承の旨が入る。

〈来まぁす!!〉

 誰かが叫ぶ、水上に浮上してきた敵AL群は、三機が味方の上陸のためにまず射撃を行うとそれに合わせて非常に絶妙なタイミングで残りの九機が水中から飛び出した。

〈第三小隊!ターゲティングしたものに火力を集中させろ!〉

 第三守備隊のAL射撃の得意なボーダラヴァラスの百六十㎜キャノン砲が、一斉に一機に向かって火を吹いた。第三守備隊の一番機が赤外線を一つの機体に当てたことで、どれも同じ見た目をしている敵機にも見分けがつくようになりそれ以上の言葉を必要とすることなく、赤外線が当てられた機体に火力を集中して投射できる。

 流石の敵機も五発もの徹甲榴弾の直撃を受ければひとたまりもなく、爆発四散しながら海面に墜落した。それでも残りの敵は止まることなく飛翔しおまけに援護射撃を行っていた三機も助走をつけ始めている様子からそれらも加わるようで、依然として危機的状況に置かれていることに変わりはなかった。

 いよいよ距離が目と鼻の先にまで迫るともう寸前での撃退は不可能となり、後は上陸後の白兵戦へともつれ込む。

 第三守備隊の一番機と二番機が連携プレーを見せ、一番機がまずショットガンで頭部に損傷を与えると二番機が距離を詰めてランサーロケットを発射。これは長さ七mにもなる大きな実体弾でその質量とロケット推進を持って目標に突き刺さると内外から爆発する仕組みになっている。

 放たれた槍は敵機の胸部へと突き刺さると想定通り敵機は内と外から爆発によって破壊され、上半身だけを大破させられた状態で海へと倒れ落ちた。が、敵機を撃破したことによる僅かな心の緩みをついて別の敵機が二番機に至近距離で腕部機関砲を集中砲火、がら空きの側面を撃たれたことで弾丸は胴体を突き破って反対側へと達するほどであり、パイロットは即死、死体など肉片すら残らなかったであろう。

 また、地上では歩兵たちが手持ちの武器では本来到底かなうはずのない相手に奮闘を続けていた。高速機械化中隊の装備しているジメテスは、六輪のタイヤと戦車の砲を持った高速戦闘車だ。不整地では戦車に走破性で劣るこういったタイプの兵器も、基地や都市部のような整備された場所では遺憾なくその速度を発揮することが出来る。が、この場合自慢の機動力は役に立たないため、もっぱら敵に撃たれないよう顔を出しては撃ってすぐに引っ込むという手を使わなければならなかった。

 その傍らで対戦車ロケットを装備した兵士が一番近く、背中を向けている敵機に三発を段階的に発射した。一発目は外したが、それは既に織り込み済みで寧ろ二発目と三発目が本命で避けた先に通るようになっていて、左ひざと左腕に被弾したために機動性が著しく損なわれた。

 敵も歩兵を蹴散らそうと試みるものの、水陸両用機はまず対人装備を備えていない。対人用の機銃などを備え付ければその分耐圧強度が下がるためで、ならば内蔵せずに外に出すと今度は水の抵抗が増えそれによって生じた騒音が敵の聴音機に捉えられてしまう。故に、実は水陸両用機は歩兵に対し弱いところがあるのだ、それが強力な兵器である水陸両用ALの欠点の一つである。

 こういうわけで思いのほか防衛側が善戦しているようにも見えたが、それはあくまでこの一瞬のみで実は全体的には押されつつあった。そう、AL部隊の苦戦である。

 守備隊の一番機が二機に挟まれて既にスクラップにされており、第一小隊の六番機ウルツァ伍長の機体はちょうど今強力なパワーアームによってコックピットごと圧壊させられている最中であった。またフーフラーファ曹長の機体も指揮官型であるために集中的に狙われており、砲撃型である五番機、ムートル兵長と共に彼の指示のもとうまく敵機を寄せ付けずにいたが、あちこちに機関砲を浴びているため無傷とは言えなかった。

〈誰か!助けてーっ!!〉

 守備隊の四番機のパイロットの叫びが聞こえてくる。女の叫びだった。

 四番機は敵によってビテールン伍長のように海に落とされると敵は海に飛び込んで追撃、起き上がろうともがく四番機を足で踏みつけて押さえつけたあとにその重量を思い切り胴体にかけて踏み潰してしまった。

 何故ここまでAL達が苦戦しているのか、それはひとえに敵機の戦い方にあった。

 ALは基本的に格闘戦など行わず戦いの殆どが銃撃に帰結する。そのため重装型や砲撃型のレーアルツァスのように格闘装備どころか格闘用のプログラムを組み込んでいないことが多いというようなことも普通であった。またパイロットたちも格闘戦の訓練など殆ど受けることもないため、格闘主体で挑んできた敵水陸両用機の攻撃と間合いに対応できずにいたのだ。

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