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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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出撃待機せよ

 それから数日後連合軍は本格的な攻撃を始めた。

 毎日何機もの偵察機が来ては追い返していたのだが、遂に敵も攻撃をしてくる気になったようで今度はたった一機の高高度偵察機ではなく百余機にもなる大編隊と連なってザームメッケナー基地に襲い掛かったのだ。

 それらを防ぐため海岸に設置された長距離対空砲や停泊している艦隊に所属する防空駆逐艦などが果敢に対空砲火を浴びせて次々と敵爆撃機を撃墜していった。しかし、同時に敵は水中からも攻撃部隊を差し向け、基地に繋留できななかったために沖合に停泊していた船が餌食となる。それらを救うために艦隊の母艦や基地から数十機の水陸両用ALが発進する。

 また、潜水艦からも水中用ALが格納庫内にて発進の時を待っていた。

 シェーゲンツァート海軍所属のバルー級潜水艦リバリューは四機のALを備える潜水母艦で、艦首に大型の注水式格納庫を配している。今まさにシェーゲンツァートの水中専用であるALクルゼナーシャが作業員の退避しつつある格納庫にあった。

〈第一から第四格納庫注水開始、格納庫に残っている作業員は速やかに退避せよ〉

 その警告が終わって数秒で残った作業員も退避してしまい、あるのは赤色灯の点滅する狭苦しい格納庫と機体前面が洪水のようになだれ込んでくる海水で没しているクルゼナーシャだけであった。

「……よし……防水確認、バランサーよし、魚雷ハッチ全門……よし……こちらヴィジュダス1チェック確認。注水まだか」

 水中用及び水陸両用のALパイロット専用のパイロットスーツに身を包んだ中年の兵士が管制室に問い合わせると、

〈残り三十秒、待て〉

「了解」

 現在深度三十五、浅瀬であるものの格納庫内にしっかりと水が満たされ艦内外の圧力が同じにならなければハッチを開けることが出来ないため、どれだけ急いでいたとしても待ち続けなければならないのがじれったいが、これも宿命であるため彼らは急かすようなことも言わずに黙って待つ。

 レーダーには沖合ですでに戦闘が始まっている様子が映し出されており、敵のALと味方の艦艇やALが果敢に戦って戦火を交えている様子がありありと見て取れた。その様子は水という触媒を通じて彼らの元にも十分に届いており、潜水艦の船殻が軋んでいるのが聞こえてくる。

(フレームかな?)

 そんなことはどっちだっていい。いずれにせよもう水は機体を覆いつくしておりほんの十秒もあれば格納庫は完全に海水で満たされ、そしてすぐに目の前のハッチが開くのだから。

〈第一第二格納庫注水完了ハッチ解放出撃よろし〉

「そうれ来た!ヴィジュダス小隊発進するぞ」

 大きなハッチが左右外側に展開し海底がモニタ一杯に映し出され、続いて機体と艦との接続が切り離され一気に浮遊感に体が包まれた。すぐにスクリューを動かしてクルゼナーシャは微速で進み、母艦から離れその後ろに二番機、そして遅れて三番と四番も追いつき編隊を組んで加速する。

「依然沖合の第六機動艦隊とパリオーサの第二〇二巡行戦隊他が戦闘中だ。味方の攻撃に巻き込まれるようなドジは踏むなよ」

〈了解〉

〈了解〉

〈わかってるって〉

 クルゼナーシャの尖った赤黒い流線形のシェルが水をかき分けていく。ヴィジュダス小隊は味方に手助けをすべく沖合へと消えていった。




 一方でリンドは海岸沿いではなくまだ基地の内側にいた。まだ敵の陸上戦力がいない以上彼ら陸戦部隊にやることはなくALのコックピット内でいつでも出撃できるように待機するだけだ。

 部隊の編成は重装指揮官型一機、指揮官型一機、砲撃型二機、中装型五機、補給型一機の計十機で前回と殆ど同じ編成となっており、ハンガーでエンジンをアイドリング状態にして待機している状態だ。

 二つのハンガーに分けられている第一小隊は皆既に自機に乗り込んで新生第一小隊としての初陣を今か今かと待ちわびているものの、入ってくる無線には洋上戦や対空部隊からの無線が絶えず飛び交い撃墜しただの何番機がやられただのと聞えてくるばかりなのに一向に自分たちに当然ながら全くお呼びはかからない。そのために殆どが新兵である第一小隊の面々ははやる気持ちを抑えきれずに周囲にストレスを振りまいていたので、それを抑えるためにリンドやフーフラーファ曹長は戦闘でないにもかかわらず体力を割かねばならなかった。

「落ち着け皆、俺たちが出番になる時は敵に上陸を許した時だ。そんな状態じゃあ」

「ですが黙って仲間がやられるのを見ていろと!」

 とはいえ、リンド自身も戦闘に意識が集中できていないのは事実であった。何せつい昨日セレーンの所属する部隊が国境沿いにある基地に向かって補給物資を届けるために出ていったばかりなのだ。そちらの方にも敵が迫っているということも聞いているため、気が気ではなくできるのならば今すぐにでもALに乗って駆け付けたいくらいである。

 そんな自分の気持ちを出すことを押し殺して、隊長として彼らを律する役目に務める。そんな彼を補佐するためにフーフラーファ曹長が配属されている。

「いいか、防衛線ってのは守る側が有利なんだ、特にこんな海からの上陸戦なんてのはな!それが敵に上陸された段階なんてのは俺たちがもう負けるってことだ!海がやられてるってことなんだよ、多分敵が上陸部隊を送り込んできたときかあるいは内から攻め込まれた時に俺たちの出番が回ってくる。だがないいか、俺たちはそもそも空挺部隊ってこと忘れるな!」

 流石フーフラーファ、リンドよりも長く戦ってきた経験による言葉の重みが違う、それに年齢からくる言葉の凄みも。彼の言葉のお陰で先ほどよりも新兵たちの不満は格段と減ったが、果たして曹長の言葉の重みを感じ取ってくれたかどうかが心配であった。

「無事でいてくれ……」

 リンドは恋人の手の感触を思い出すかのように、そっと手を握った。




「右舷より魚雷接近数三!」

 パリオーサ海軍第二〇二巡行戦隊所属の駆逐艦ニ・エーバルのCIC(戦闘指揮所)にレーダー観測士の怒声が響く。

 その知らせをもとに艦橋では艦長が操舵手に向かって面舵を命じるが最も敵の近く、艦隊の右翼前方に位置していたこの艦は既に複数の被弾を受けており右舷艦首側が沈下している状態にあったためいつものような軽快な舵取りが出来ない。

「間に合いません!」

「総員衝撃に備」

 瞬間、三つの連続した衝撃と同時に立て続けに三度の爆発が艦の右舷中腹から艦尾にかけて起き、百m以上にも及ぶ巨大な水柱が上がった。

「うわあああーーっ!!」

 艦の後部はぐちゃぐちゃに潰され、引きちぎられて原型をとどめていない。大量の血肉が艦内に荒れ狂い破孔から海へと流出していく。

「ひ、がい状況……を」

 艦橋では副長が艦全体に損害状況の報告を求めるものの、彼は爆発の衝撃で環境の壁に叩きつけられて重傷を負っており、声を出すのも精一杯という状態であった。彼だけでなくニ・エーバルの艦橋にいる者全員が死傷しているため、総員退艦命令すら出せない状態で、大きく傾いて上下の感覚すらわからなくなっている艦内では生き残っている乗組員たちもパニックに陥って脱出などままならない状態になっている。

 そうこうしているうちに艦体は完全に横倒しになりながらほとんどが海中に没し、流出した軽油の膜の中に幸運にも投げ出された僅かな乗組員たちが浮いていた。

 それを見た近くの駆逐艦ドルバッシャは救助艇を出したかったが、この戦闘状態では救助艇を下ろすこと等ままならず、出来る限り近づいて救命具を投げ入れるので精いっぱいであった。

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