強制解放
しかし敵は彼に一瞬の休息も与えはしない。敵の接近警報に目を見開いてレーダーを見ると、高速でこちらに接近している機影を確認した。すぐさまモニターで目視確認を行う。
「なんだこいつ!」
バイザー越しに目に映ったのは、白く大きなALであった。一瞬で間合いを詰めてきたそのALはマシンガンをこちらに向け地面を滑空するように迫った。この短い時間ながらも彼には迫る白いALがスローモーションに見えた。鋭いながらも曲線と直線を交えたその姿は、戦闘用というより競技用か式典用のような余裕を感じられた。シェーゲンツァートのALには見られないような、そんな。
「うぐうっ!」
通り過ぎ様にマシンガンのフルオート斉射を受ける。アラートが鳴り、機体状況はより深刻を増す。彼は驚愕した。あの地面ギリギリの高速移動で、尚且つマシンガンのオート射撃で十発も直撃を受けていた。恐らく敵が先ほど撃ってきたのも十発ちょっとのはずである。その上被弾箇所が重ヴァルでも比較的装甲の薄い腰と胴の連結部分であった。ここは機体の姿勢制御のためどうしても大型化し、よって装甲を思い切り増量することができない箇所である。ここが弱点の一つであることは、リンドも教官から指導を受けたが、まさかあのALのパイロットは弱点を熟知しているのか。
もしそうならば恐ろしいことになる。今彼を狙っているのはオースノーツでもなかなかの手練れである。いくらなんでも新兵の域を出ない彼にはあまりに大きすぎる強敵であった。
〈今行く!〉
見かねたキリルムとジュードルが援護するために戻ってきた。だが彼にはそれに気づくほどの余裕はない。機体を反転させ必死に白いALを追従するも、アルグヴァルの反応速度を超えている。
「ああ!」
今度は背中に被弾し、右のガトリングが基部から破壊され地面に轟音を上げて落下した。誘爆しなかったのは不幸中の幸いであったが、それでもオイルに引火し、背中が炎に包まれた。
「ううう!!」
オイルは火災を検知し供給パイプがすぐに遮断されたが炎は収まらない。このままでは背中で誘爆をして木っ端みじんになりかねなかった。彼は一つの決断をした。
強制解放
アルグヴァルに搭載されているシステムの一つで、本来正式な整備の手順を踏んで外さなければならないアルグヴァルの換装装備であるが、緊急時のために強制的に増加装備を外すことができる。これなら弾薬庫誘爆を防げるが、一つ欠点があった。
「ざっけんなよちきしょう!!ああもう!」
彼はすぐに開放手順を踏んだ。今までとは違う種類のアラートの後、機体各所のダクトから白い煙が排出されると、小さな連続した爆発音とともに、アルグヴァルの背中からガトリングウェポンパックが吹き飛び地面に落下した。と、同時に重装型アルグヴァルを重装型足らしめている、表面を覆う堅牢な増加装甲も地面に落ちた。そう、これが強制解放の欠点である。強制的に武装を解除できるが、武器だけ、装甲だけ、と選ぶことはできない。いっぺんに全部まとめてなのである。何故なら緊急用で最後の手段だからである。
「ああ!?何やってんだあいつ!」
目の前で起こった重ヴァルの強制解放にキリルムは素っ頓狂な声をあげた。
「強制!死ぬ気かよ!馬鹿!」
ジュードルもまた同様に驚愕していた。
いくらかの装甲が、被弾により融着したり破損で内側の装甲に食い込んでいたため残ったものの、現在のリンドの重ヴァルは、中ヴァルとほぼ同様の様相を呈していた。これが中ヴァル乗りであればこの後もうまく立ち回れるのかもしれないが、生憎リンドは重ヴァルの訓練を主にやってきた。中ヴァルの操縦は訓練以来である。重ヴァルの感覚に慣れた人間が突然中ヴァルの操縦をして対応ができるのかは不安であったが、もうやるしかなった。彼は機関砲を拾い上げると、身軽になった機体を白いALに向けた。
「シェーゲンツァートのALの底力ってやつだ、見せてやるってんだよ!」




