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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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敵中を往け(3)

 敵中を突破し味方の基地に戻ろうとしている同盟軍の混成部隊と言えばよく聞こえるただの身を寄せあっているだけのごった煮部隊、彼らの最前列に焦点を当ててみる。

 彼らの先頭を行くのはシェーゲンツァート製の軍用車両ポーリル95型だ。運転するのはもちろんシェーゲンツァート陸軍の兵士であるが、丁度運転をシュクスム陸軍の軍曹と交代するところであった。これまで運転していた車両科のウステン曹長は今日既に六時間もの間運転を務めていたので、この車両の運転になれているクフ軍曹と交代することになっている。

「お疲れ様です」

「頼む」

 互いにある程度なら言葉の通じるおかげでこうしてコミュニケーションを取れたのは不幸中の幸いであった。ウステン曹長が運転している間、クフ軍曹は助手席で道案内や周囲の注意事項、周りの地形について指示を出してくれたので、なれない土地でもウステン曹長は比較的スムーズに運転ができ、先頭で仲間たちを引っ張ってここまで来ることが出来たのである。

 ポーリルの後部座席には足に罹患したケステイネイ伍長と機関銃手のドルブレル上等兵が乗っており、前者がキサナデア帝国陸軍、後者がパリオーサ陸軍所属である。

 助手席と運転席の間の後方に搭載されているAP99-1ロウクレルス 8.2㎜機銃はシェーゲンツァートの傑作機関銃で、機関銃小隊による携行から戦車や車両の車載機銃として、更にはAAの携行火器やAWやALの対人機銃としても幅広く採用されている、今大戦中全軍合わせても最高と名高い機関銃とすら言われている。

 高初速高精度、高貫徹力に高連射性、高整備性といったほぼすべての面において優れており今大戦においてシェーゲンツァートをはじめとして同盟軍の戦闘を後押しした立役者と言っても過言ではなかった。この脱出劇でもこれのお陰で彼らは何度も窮地を脱している。

 ゴトゴトと車体は揺れ、積載している多数の荷物が揺れぶつかり合い絶えず騒音を立てている。ジェリカンは使い古され記されていたナンバーなどももう読み取れず、おまけに敵軍の物も混じっていたがそれはジェリカンだけに限ったことではなく、毛布や水筒、銃に爆弾、そういった沢山の物をずっと前線で拾い集めては使用してきた。そうしなければとても戦い抜くことも生き延びることも出来なかったからだ。

 しかし、このような光景は別に珍しいものではなく世界中どの軍も問わず起きていたことなのでなにほどのこともない。ウステン曹長も長いことオースノーツ製のオートマチック拳銃を腰にさしてきたのだから。

 やがて彼ら先頭組は村に達した。なんてことは無いよくある農村であるが、人っ子一人どころか家畜一匹見られず、完全に放棄された村のようだ。

「モイ村かな」

 ウステン曹長は血の染みがついた地図で自分たちの到達した村のおおよその位置を、車を止めたクフ軍曹に尋ねると、彼も地図を注視してこの場所がモイ村であると断定した。特に何もない、世界的にも珍しくないよくある農村であるが、彼らにとってここが束の間の休息地となるか新たな戦いの地となるかそのどちらかを白黒つけなければならない気の抜けない場所となっていた。

 先客が先に休息している恐れもある。

 曹長は後ろにいた二十四名で三つの分隊を急遽編成、それぞれ両翼と中心から偵察を出させる。

 第一分隊を率いるモノリー軍曹は焼け落ちた農機具倉庫の外から身を低くして村の左側から回り込み、分散して次々と家屋を調べていく。彼らもまた他の兵士達と同様に疲弊し栄養状態も悪いため動きには全く切れが見られないものの、自分達だけでなく後方に伸びる味方たちの安全にもかかわる重要な任務であるため、疲労困憊した心身を無理矢理押して廃村の安全を確保しにかかるのだ。

 モノリー軍曹率いる第一分隊は無人の家屋に入り荒らされた室内にシュクスムの兵士達が心を痛めつつも、懐かしさを振り切って任務に集中する。

 そんな中でモノリー軍曹とパテティ兵長はすぐ背後の物置から物音がしたことに気が付き振り返る。実に僅かな音量ではあったものの確かに何か立てかけていたものがずれて壁に当たったようなそんな音だった。

 パテティ兵長を先頭にモノリー軍曹が背後を警戒しつつその物音を立てた主の正体を明かすべく物置に近づいて、兵長が銃の先でそっと物置の戸を開けた。真っ暗な狭い物置の内部には木箱や甕といった特段変わった物はないように思われる、しかし内には何者かが必死に潜めようとしている息遣いと、恐怖心が伝わってきている。この中にいるのがどうか小さな愛らしい動物でありますようにと願いながら、そっと甕の蓋を開け中を覗き込むとそこには顔中涙と鼻水でグチャグチャになり恐怖に満ちた目で彼らを見つめる二人の子供の顔があった。




「こちらウーフ1、村人の生き残りと思われる十歳くらいの姉妹二人を保護した。現在パテティ兵長が

少女から事情を聞きだしている」

〈了解、警戒を続けろオーバー〉

「了解、オーバー」

 村は着々と安全が確保されつつあり、小さな村であるた全家屋の偵察もじき終わるだろう。その間に保護した少女から話を聞きだす必要がある。

 少女は当然シュクスム人であったので同じくシュクスム軍の兵士であるパテティ兵長がシェーゲンツァート帝国兵であるモノリー軍曹に代わって話をする。

「おじさんたちは助けに来たんだよ、遅れてごめんな。お父さんとお母さんはどこかな」

 パテティ兵長は出来るだけ少女たちに植え付けられてしまった恐怖心を和らげられるように、屈んで彼女らの目線に自分の目線を合わせて自然な笑顔で問いかけるが、彼女たちを支配している恐怖は一朝一夕でどうにかできるほど浅く薄くは無かった。

 直感で感じていた、恐らくこの二人はその物置の中で両親乃至家族が連合軍の兵士に殺されるところを目撃してしまったのだろう、と。

「あ、そうだそうだ。おじさんねいいもん持ってんだよ……えーっとあったあった」

 とパテティ兵長が雑嚢から取り出したのは二本のレーションであった。クリルスという名のシュクスム西部でよく食される伝統的な焼き菓子のレーションで、腐らせないために通常のクリルスよりもっと砂糖を多く使われているので、歯を悪くしている兵士は前歯で齧り取らなければならない程であった。

 それを恐る恐る受け取った少女たちだったが、クリルスらしいことを認識するとそっと齧り始めた。そしてその美味しさにほんの少しだけ口元に笑みを浮かべると大事そうに両手で握って一心に食べ始めてしまった。

「ほらほら、お水も飲まないとね。喉詰まっちゃうから、おじさんの弟が昔それで大騒ぎしたんだからハハハ」

 もう彼に弟はいなかった。昨年の二月に狙撃を受けて……

 そこに分かれた他の部隊も安全を確保したことで合流、ようやく一団は休息をとることが出来たのであった。

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