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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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敵中を往け

 九月一日、アストリアス大陸東端シュクスム共和国。ここはかつてリンド達第四小隊の面々がクラーム平原における防衛戦線で奮闘し見事敵を押し返しただけでなく、初めてリンドがヴィエイナ・ヴァルソーと会敵しどうにかこうにか撃退を果たしたという両者にとって印象深い土地であった。一度は猛攻を見せる連合軍を撃退しより敵の方まで押し返す快挙を成し遂げた同盟軍であったが、今となっては最早シュクスム共和国は連合軍の手に落ちかけていた。

 制空権は同国にしてアストリアス大陸における同盟軍の最大拠点であるブルーセイエース軍港周辺をかろうじて維持しているのみで、それも沿岸にて停泊し同盟軍の撤退している部隊を回収している同盟軍の連合艦隊所属空母の力あってのもので、彼らがいなくなってしまえば完全に制空権はこの大陸から失われることになる。

 捕虜や投稿した同盟軍兵士は多かったが、未だにブルーセイエース軍港を目指して大陸を東へ東へと後退を続けている部隊も多く、それらは皆前線から取り残され敵陣の中を消耗激しく突破することを強いられていた。

 これから語られるのはそんな敗残兵たちのごく一部の撤退劇の一幕である……




 クラーム平原から東に百五km、まだまだシュクスム共和国の西部を抜けきらない農村部をおよそ二百九十二名の同盟軍兵士が一丸となって蠢きあがいていた。そのほとんどの兵力は生身の人間であったが兵種は様々で、歩兵を中心に砲兵科や機甲科のような主だった前線兵力から主計科といったような後方支援を受け持つ兵科までさまざまであった。また、装甲戦力も残っておりAL二機、AW三機、AA二機で車両は自走砲が一両と装甲車一両、トラックと小型車両が合計三両といった有様でどれもみなあちらこちらに被弾痕が刻まれ、損傷も多く見受けられた。

 本来ならば目立つALは捨て置くべきであったが重要な重機にもなるALは時として対空砲となり、また時としては車両ごと持ち上げて橋渡し役なども担ってきたために、これのお陰で彼らはここまで撤退することが出来たことでなまじ守り神のような存在と化し、それゆえにまたこれが必要になる気がしてならず廃棄できないままここまで来てしまっていた。

 そんなALの内一機に終わりが訪れる。

 シュクスム共和国陸軍のAL、ルスフェイラC-4型はシェーゲンツァートが同盟軍向けに輸出した輸出用のALで、いくつかの高級な装備をオミットして安価に仕上げたいわゆるモンキーモデルのALでALを自力開発する力がなく、またそれほど経済力もない国向けに輸出されてきた。そのC型のマイナーチェンジ版である。

 もう一機はモスタース帝国という既に領土を喪失してしまった同盟軍のもので、オースノーツ製のクォーツァイト重火力仕様である。何故同盟軍がオースノーツの現行陸戦用ALに乗っているのかというと、簡単な話鹵獲機である。

 両軍の中心国家の主力陸戦AL同士が肩を並べて歩いているという奇特な光景だが、そんなことを気にする者は少なくともこの中にはいなかった。

 ルスフェイラは左腕が失われまた左側の装甲に左側から受けたと思しき爆発の生々しい跡が残っており、歩く姿もぎこちない。そんなルスフェイラは脚部機構に不具合が発生したまま歩き続けた結果時折よろめくようにそれがまずい時に出てしまった、右へとよろめいた先は掘り返されたような黒土湿る平地であったのだがルスフェイラの右脚がその真上に思い切りついた直後、大爆発が起きその十二mほど左側を進んでいた行列の内十名前後がその風圧になぎ倒され、また足の裏で大爆発が起きたルスフェイラは金属が軋む音を立てながらゆっくりと右手に向かって倒れる。

「倒れるぞーっ!!」

 誰かが声を上げる、パイロットは急いで回復手段を取ろうとするものの右脚は足首から下が大破し完全に原型を保っておらず、また当然ながら周辺の操作系が死滅していたためうまく地面と接地できぬまま倒れてしまった。

 大きく土埃を舞い上げて倒れたALの傍で、爆風でなぎ倒された同胞を前後の者たちが急いで助け起こす。幸いにも彼らは爆風によって倒されただけで破片などで怪我を負わずに済んでいたので、前後不覚な状態から回復するまでしばし道端で寝かされることとなった。

「クソっ!攻撃か!」

「違う対戦車地雷だろ!」

 憶測が飛び交うが、飛来音もなく急な爆発かつその爆発がルスフェイラの接地とともに生じたものであったのを目撃している者が多かったので、地雷であろうという判断が下された。

「多分この威力からして対AL地雷だろ……それも味方のだ」

「なんでわかる」

「敵がわざわざ自分の後ろに地雷を撒くか?」

「クソ!」

 どうやら彼らは同盟軍の接地したあと連合軍が引っかからないまま通り過ぎてしまった大型地雷に引っかかってしまったらしく、一人の兵士が地面に突き刺さったばかりの手のひらサイズの金属片を拾い上げると、なるほど確かに破片にはシュクスム共和国で使われている言語が書かれているではないか。

「パイロットはどうだ!」

 既にコックピットの方へ救助に向かっている味方に声をかけると、それと同時にコックピットハッチが開いて中からパイロットが這い出てきたのを目にし一安心した。怪我という怪我も見受けられないようだが倒れた際の衝撃のせいで体がよろめくらしく、仲間に支えられながら道へと戻ってきた。

「畜生め!……あーあーったく!高いんだぞ!」

 パイロットは自機の足の惨状を目にしそう悪態をついた。彼含め数名がルスフェイラの足元に集って機体の様子を見たがそれは素人目から見ても明らかにもうこの機体は歩行に耐えうる状態にないと判別できるほど損傷も酷く、彼らは心の拠り所の一つをここで見捨てていく決断を強いられる。

「まだウリューシャ(※1)もいるしヴァーロンデーナー(※2)もある……」

「なんてことだ神よ……」

 彼らの大半はシュクスム共和国軍の残り少ない兵士であったが、それだけでなく六カ国の異なる所属の兵士達が身を寄せあっていたので言葉は通じない、しかし目指すところは一つであったお陰で彼らは一つにまとまっていた。地図さえあれば、どこに行きたいかわかる。

「おーい!」

 少尉の階級を付けた男が彼らの様子を見ていたクォーツァイトのパイロットに手を振って呼びかけると、スピーカーからシュクシィ語で返答が返ってきた。

〈何でありましょう、少尉殿〉

 こっちに来るよう手を振っているのでクォーツァイトのパイロットは足元を行く兵士達に道を開けてもらいそちら側へ向かうと、少尉から銃を回収するように言われたので慎重に倒れたルスフェイラの傍により、マニピュレータに握られているライフルと腰に装備されている残り一つだけの弾倉を拾い、ライフルの予備弾倉用ラックに備え付け、元々手にしていた速射砲とは反対の右腕にライフルを握る。

 ALの爆破準備が整ったところで少尉は皆に臥せるように指示し自分も砲弾の窪みに隠れると、工兵に発破を指示した。皆が耳を塞いで目を閉じて身構えた一方で起きた爆発は非常に小規模なもので、細い黒煙が開け放たれたルスフェイラのコックピットから空に向かってたなびいているだけであった。

「しょぼいな」

 元パイロットの隣でそう呟いた兵士に対し、自機のささやかな最期を見届けた彼は理由を告げる。

「コックピットだけ潰せばいいからな。もし修理されても動力炉も完全に火を落としたから再起動するにしても専門の設備がいるしな」

「へえー」

 

※1 ウリューシャ:シュクシィ語(シュクスム共和国の公用語)でクォーツァイトを指す。意味は同国の古い男性名から。


※2 ヴァーロンデーナー:スート・オート社会人民共和国の現行自走砲。中型で性能はそれなり。しかし軽量で燃費に優れておりこの逃避行において唯一ここまで落伍せずに済んでいた。

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