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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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天地鳴動(2)

 遠く故郷から母親と弟妹達がリンドのもとを訪ねてきてくれたが、リンドは病室から出てくることは無く部屋の片隅で頭を抱え体を丸めてじっと動かない彼を扉にはめられた小さな窓から見守るしかなく、不安げな幼い弟妹達と愛する我が子が壊れてしまったことの悲しみにさめざめと泣き晴らす母親とが扉一枚隔てた向こう側に待っていたのに、リンドにはそんな彼を呼ぶ声は届いておらず、今彼が見ていたのはイングレ王国の港湾基地に降下する直前、目の前で巨大な粒子砲の砲台に撃ち抜かれコックピット当たりから下が消滅した部下の機体であった。そして輸送機が墜落し降下が終わり落ち着くまでに部下の半数を失った……

「あ……あ……う」

 顔も覚えきれていなかったというのに彼らの顔がなぜか頭に染みついて離れない、それが彼らの顔だったかもわからないのに。だがリンドにとって重要なのは個々の顔ではなく彼らリンドの初めての部下たちが初陣で一人残らず皆殺しにされたことで、また折角助かる望みのあった残り二人もあの憎きオースノーツの女によって、他の同胞たちと一緒くたに殺されてしまったのだ。

 そうだ、あいつさえいなければ、あいつさえ出て来なければボルトラロールたちだって死なずに済んでいた、そのはずだ。リンドの心は虚無から怒りと憎しみと際限のないヴィエイナへの殺意へと変わっていく。虚ろだった眼はギラギラと欲望に飢えているかのように輝き、義肢を軋ませてあの金髪をひっつかみ殴り殺すことを思い描いた。

 そうやって彼が少しずつ生きるための活力を見出し始めたところに一通の手紙が届いた。始めは聞き入れることのなかったリンドであったが部屋に入ってきた看護師が読み上げた送り主を聞いて彼は歯ぎしりを止めゆっくりと振り返る。

「うっ」

 つい数時間前まではどこを見ているのかもわからない焦点の失われた目をしていたのに、今ではまるで頭の狂った猟奇的殺人犯の如き瞳を宿していたものだから、看護師はその眼光に狼狽えつつもそっと手紙を手渡す。するとリンドはそれを奪い取るように手にすると荒っぽくしかしどこか丁寧になるように努めているかのようにぎこちなく封を開けると、目を皿にして貪るように手紙を読みふけり始めた。

 そこで彼は手紙を読み始めてすぐ涙を流し始め、ある一人の女性の名前を呟いた。

「セレー……ン」

 彼を一人にするため外に出た看護師はリンドの母に誰当てだったかを尋ねると、セレーン・フルという陸軍の兵士からであることを伝えると、ああ、とその名を懐かしみながら頷いた。

「息子の彼女なんです……そうだった、あの子も志願したのよね……生きててよかった……」

 既にリンドとセレーンとの仲は両家の家族に知られており認められた関係であったので、彼女とセレーンも何度も顔を合わせたことがあった。利発的で頭も良く、思いやりのある上に勇気を持った少女であるという印象で、リンドの兄弟ともうまくいっており特に末の子供たちにもとても好かれていた。

「……リンド、お願いお前までいなくならないでね……」

 既に他界した夫と次男のことが脳に蘇る。長男のリンドが軍の中でも非常に危険な職務についているらしいことは長女から聞いているので、それだけでも毎日不安に過ごしている。しかも一度捕虜になった後に酷く怪我を負って国内の病院に入院した際には見舞いにもいった。その前はリンドが戦場で行方不明となったと軍から報せが届いた途端にその場にへたりこんでしまったというのに、それだけにとどまらずあろうことか戦闘で左腕を殆ど失うというあまりにも惨たらしい重傷を負った時には、病室でその満身創痍の姿を見た瞬間に失神してしまうほどであった。

 そして今回がこれである。二度目の捕虜となり暴行を受けて顔面を骨折などし、そして精神を病んで精神病院へと収監されてしまった。ただ、いっそのことこうやって終戦まで病院にいてくれればもう戦場へ息子を追いやってしまうことがないのではないかと思うと、それならばそのほうが良いのではないだろうかという考えが頭をよぎってしまう。

「リンド……リンド……」

 そんな母親の心労をよそに、リンドは手紙を読んで打ち震えていた。内容は悲しいものではなく軍の生活がどうとかこんなものを外国で見ただとか、あとはリンドのことを励まそうとする内容ばかりが書き綴られており、そんな文に彼はそっと涙を流していた。

 そうだ、今自分がALに乗って一人でも多くの敵を殺さねばセレーンだって家族だって殺されてしまう、こんなところで腐っている場合ではないのだ。リンドはそう決意し手紙を丁寧に折りたたみ封筒にしまうと、看護師を呼んだ。

「マート大尉(主治医)に面会をお願いしたいのですが」

 先ほどの狂気に食われた目とは一転決意の宿った目つきに再び彼女は奇妙なものを感じつつもその理由を尋ねる。

「どうしました、何か痛むところでも」

 するとリンド違うと否定しここを出たいという旨を述べる。

「俺はちょっと心が疲れていただけでまだ戦える、俺がALに乗って降下しないといけないんだ」

 とそうはっきりとした口調で述べはしたものの、精神病棟にぶち込まれた人間がそうそう簡単に出て来られるわけがないのはこの星でも大概同じだった。当然看護師は無理だと落ち着くように勧めつつポケット内のリモコンでひそかに医師や看護師の応援を呼んだ。患者が暴れた時のための対応をするために。

 すぐさま看護師たちが駆け付け驚いてあたふたしているリンドの母たちをよそに部屋に入ったが、彼らが驚いたのは緊急信号で呼ばれたにもかかわらず、患者であるリンドが酷く落ち着いた様子で看護師に出撃したい意志を述べ、半ば懇願するように伝えている様子を目にしたためだ。

 リンドは彼らがマート大尉までやってきたのを見ると、彼の方を向き直りもう一度改めて出してくれるように頼んだ。

「もう自分は大丈夫であります、少し……少しいっぺんに色々と良くないことが起こりすぎてショックを受けてしまっただけでして、自分はこれでも士官ですから、それに経験のある空挺ALパイロットであります、自分ならきっともっと帝国のお役に立てるはずなのです。自分が行かないと、もっと死んでしまう、今度はここだって爆撃を食らってしまうかもしれません、ですからどうか、後生ですから司令部にリンド・オーセス少尉はパイロットとして復帰できるとお伝えください。お願いいたします」

 深々と頭を垂れてお願いする様に、マート大尉たちは非常に困惑してしまう。彼の気持ちは自分達とて軍属であるため痛いほどわかるが、かといって彼のような重病人を戦場に送りださないのもまた同様に重要であり彼らの最大の任務でもある。だからこそ彼の請いに対し報いてやることが出来ないのが無念ではあったが、仕方のないことであった。

 マート大尉が口を開く。

「少尉、君はまず回復が必要なんだよ、君が思っている以上に君が知っている以上に君は傷ついている。切られれば縫えばいい、撃たれれば弾を摘出して塞げばいい、でも心っていうのは薬でもメスでも治せるもんじゃあないんだ。治すのには時間がいるんだよ……すまんね」

 その言葉に彼は項垂れ涙を流した。数時間前までの彼と比べるといたって健常な精神を持っているように見えるがいつまた発狂しだすかわからない、戦場で発狂なんてされたら溜まったものではないのだ。彼がALという兵器に乗っているならなおさらだ。

 リンドはこのあと家族と交流を果たし、しばらくの間入院を続ける。その一方で戦争は続き一つ、また一つと同盟軍の共闘する国が連合軍に降伏していき気づけば同盟軍は西半球から追い落とされつつあった……シェーゲンツァートにも前線が近づいてきていた……

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