表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
189/382

目には目を、骨には骨を

 リンドとクルーペ軍曹、そして他国の捕虜二人の計四人は道中で遭遇したエシャネーアーカの乗組員をやり過ごしたり、やり過ごせないようであれば奇襲をかけてのしてしまい、クルーペ軍曹が壁に貼り付けてある標識を読むことで格納庫へと着々と迫っていた。

 実際に格納庫の前へと来てみるとリンドの予想は外れる、彼はてっきり格納庫付近の方がより兵士が多いと思っていたのだがそれどころか逆に人もまばらになっていき最終的には数人が時折出入りしている程度で、若干の拍子抜けをしてしまったがその方が都合のいいため、リンドは四人で手短に作戦会議を執り行う。

 とはいっても内二人は言葉の通じないため物陰でジェスチャーをして伝える程度でどうにか伝わったと信じたい。とにかく策としては二手に分かれて格納庫でひと騒ぎ起こしてその隙にALを奪って脱出という非常に適当もとい単純明快なものであった。ALを奪うのはリンド担当でその護衛にクルーペ、陽動を行うのが他の捕虜である。リンドがALを奪い次第他三人をコックピット内に格納しハッチを破壊、そのまま降りていくという寸法である。そのためにまず全員が武器を手に入れる必要があった。一応道中倒した敵兵から奪った拳銃とナイフがあったがそれぞれ二つずつ。リンドは丸越しでクルーペが拳銃、陽動班に残りを渡した。

 丸越しなのは不安であったが、彼は銃弾を弾く頑丈な軍用義手を装備しているので最悪それで思い切り殴りつければ人一人殺す位は出来る。それにこの義手には仕込み銃という秘密兵器もあるのだ。

 重要なことを失念しているリンドはそれに気づくことなく作戦血行をしてしまった。そっと思っていたよりも軽いドアを開けて四人は忍び込むと同時にすぐさま積まれたボックスの影に飛び込み敵の目から逃れる。格納庫内のALは計八機でオースノーツのAL小隊編成からすると二個小隊分が輸送されているようだ。だがそれよりも目を引いたのはやはり白いALであろう。ヴィエイナの乗る新型飛行型ALリジェースはまさにリンドをイングレ王国の港湾基地で完膚なきまでに叩きのめした憎き機体である。

 クルーペ軍曹はその白いALを見てすぐにそれが白い鳥として恐れられているオースノーツのALであることを察し真っ青な顔でリンドの方を見つめる。

「少尉殿……」

「とにかく行きましょう」

 ここは嘘でも「一度倒したことがある」とでもいえればよかったのだろうが、一度も倒したことのないどころかどうにか引き分けに追い込んだのが精一杯であったのでそれに負い目を感じており、嘘をつくことの出来なかった彼は、苦し紛れにそう誤魔化した。

 既に陽動班の方は先に進んでおりALの整備士が一人で作業しているところを背後から襲うと首をかっ切って殺害、そして近くにあったガスボンベを取って何かを始めた。だが恐らくボンベで何かしでかそうとするならば彼らが取るのは爆発という非常に派手だが危険極まりない手口だろう。

「階段です気を付けて」

 二人はキャットウォークへと続く階段を両手足を使って音もなく登っていく。階段を這うように登りながらALのほうに動きがないかを確認しつつ同時にALのコックピットハッチの方にも注意を向けてみると、通常型と思しき地球で言うスプリッター迷彩を施されたクウィール(シュリーフェン)四機はハッチが開いたままで、ヴィエイナの小隊所属と思われるクウィールとリジェースの内、二機のクウィールがハッチを開けっぱなしであった。恐らくは一機のクウィールとリジェースの中にはもう既にパイロットがいると予想できるが確かではない。場合によっては単にハッチを開けて閉塞感を出来るだけ先延ばしにしているだけで、実際には全機に既にパイロットがいる可能性がある。

 だとするとそれはそれで八機もいながらこそこそと物陰で動いている四人の捕虜をカメラでとらえられないのはおかしいので、やはり全機パイロットがそろっているわけではないようだ。

(四機はただ輸送してるだけか?)

 小隊ごと運んでいるのではなく、何かしらの理由があって四機の無人のALをついでに載せただけなのかもしれない。ただの輸送であればそれくらいよくあることだが、今回ばかりはそれがリンド達には好都合であった。

 顔が痛むのをおしてしゃがんだ状態でキャットウォークを進んでいくと、残り十五m程で一番近くのクウィールのすぐ横というところまでたどり着いたが、丁度その機には整備士らしき人物がコックピットから何度も出入りしては作業に励んでいるようで、タイミングが合わなければ発見されてしまうだろう。それに一番後ろに並んでいる機体の方が色々とやりやすい。

 そう言うわけでその整備士を始末することに決めた二人は、下の方で陽動班が見守っている中整備士のいる機体へと近づいていった。整備士の方はと言うとやはりここまで捕虜が迫っているなどとは思わず完全に周囲には警戒を払っておらず、実にやりやすい状況であったのでクルーペ軍曹が銃を向けながら整備士の背後に回り込んだ。リンドもとりあえず近くに置いてあった工具箱から肘から先くらいはあろうかという大きなレンチを手に取って両手で握りしめる。

「すみません、現在姿勢制御装置を」

 てっきり整備班長が作業の様子を見に来たのかと思い振り返らずにそう答えたのだが、言い終わらないうちに後頭部に重い衝撃が加えられそのままがっくりとシートにうつぶせに倒れこんでしまう。後頭部から血がじんわりと流れ始めたが殺すまでにはいかなかったようだ。それでも十分だと考えたリンド達は意識を失った整備士の体を外にそっと寝かせると二人でコックピット内に滑り込む。

「軍曹お願いします」

 まずシートに座ったのはクルーペ軍曹で、オースノーツの言葉が少しだけわかる彼にはまず機体の起動までをお願いした。その間にリンドは一旦外に出て陽動班に合図をしようとしたのだが、出てすぐ彼は動きを止めた。

「了解っと……起動はしてありますね……これがホームボタンだから……」

 外の異変に気付かない彼は、読めない専門用語に四苦八苦しながらもどうにか戦闘状態にまで機体を持っていこうとしている。

「……デリュース(クソッたれ)」

 レンチを持った彼の前に立ちはだかっていたのはヴィエイナとメイネーイ少尉であった。ヴィエイナは拳銃を、メイネーイはカービン銃を彼の方に向けて険しい表情で構えている。

「まさか抜け出すなんてね」

 メイネーイは無線機でエシャネーアーカのコックピットに向けて無線連絡を行う。

「こちら格納庫、脱走した捕虜を一名確保。監房へ確認のための人手と念のため他の捕虜の脱走がないか人員配置を要請する」

『なんだって……了解感謝する』

 これによって未だコックピットに達していない奪取を試みているグループの命運も尽きたことだろう。恐らく自分のも。

「大尉、どうします」

「まだ殺す必要はない、もう一度監房にぶち込むだけ」

「了解です」

 ヴィエイナがリンドを見ている間、メイネーイがコックピットの中で作業をしているクルーペ軍曹を出すために向かったがその時突然格納庫内で爆発が起きた。

「何!」

 何事かとついリンドから目を話してしまったのが失敗であった、その一瞬の隙をついてリンドは先ほどおろしたレンチを取り上げるとすぐに振り上げヴィエイナの腕ごと拳銃を叩き上げ弾き飛ばす。更にもう一度振るって彼女の肩を思い切り殴りつけると、ヴィエイナはとてつもない痛みに悲鳴を上げて倒れこんだ。感覚がなくなるほどの痛み、どうやら肩が折れたようでそこにさらに止めを刺すべく振り上げようとしたところで、背後で銃を構える音がしたので振り返りざまにレンチをぶん投げると、メイネーイは投げられたレンチを銃で防いだもののその拍子に銃のピストン機構が破損、さらにふらついたところでコックピット内からクルーペが銃撃し足を撃たれ倒れた。

「少尉!準備できました!」

「流石っ!!」

 リンドは倒れた二人に止めを刺すこともなく颯爽とコックピット内に舞い戻ると、次々と爆発が起きている格納庫内でクウィールを起動させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ