対空戦闘開始!(2)
「メルデリーダーより各機へ!目標が戦闘機を射出!四機だ注意しろ!」
エシャネーアーカ撃墜の任に当たっていたキサナデア帝国空軍のメルデ小隊は、前方を飛行するエシャネーアーカが被弾したと思ったら何か金属の塊を翼から落下させたように見えたため翼にもダメージが響いたのかと思ったのだが、分離の時点でそれがエンジンを備えた航空機であることが識別レーダーのために分かり、すぐさま対戦闘機戦闘も行う必要性を迫られてしまった。
エシャネーアーカから射出された戦闘機は当然ながら専用に設計、建造された特殊戦闘機で機密のため型番を持たないが便宜上サレナスという名で呼ばれていた。サレナスは小型であったが戦闘力は一般的な戦闘機に殆ど劣らない。また運用の特殊性から航続距離はあまり考慮されておらず航続距離を稼ぐための燃料タンクが小型化されたために身軽で機動性に優れている。
ただし欠点としては搭載火力の少なさや長期戦は行えないので短期決戦を強いられること、また機体は格納時には半分がエシャネーアーカの外に露出していることで全体的な整備を行うことが一切出来ず、一度戦闘を行えば補給のみの無整備で再戦闘を強いられることとなる。ちなみに酷い被弾を被れば安全のため再格納は出来ず最寄りの基地に自力で着陸してもらうか脱出してもらう必要もあった。
対するキサナデア帝国側の航空機はシャーエンFという戦闘機で、一年前に制式化されたばかりの最新鋭主力戦闘機であった。非常に高水準な性能を持つこの機であれば数でも勝るメルデ小隊が圧倒的有利であろう。しかし実際にはサレナスが分離された直後にそれをまさか戦闘機を切り離したなどとは思わなかったメルデ2が機銃攻撃を受け被弾、機体の重要区画を粉砕されたことで飛行を続けることが 困難となってしまい黒煙をひきながら高度を急速に落としていった。
「クソ!こちらメルデリーダー!メルデ2が被弾!墜落した!」
残り五機、しかしそれでもまだ十分に数と火力、そして既に展開しきっているという点ではメルデ小隊のほうが優勢を保っていた。
「三番よくやった、ボルードフ小隊各機散開!」
早速一機を撃墜したサレナス四機はすぐに各機散開し敵の迎撃に移り、その間にエシャネーアーカの方は加速をかけると同時により確固たる防御態勢をとる時間を得たことで、空の要塞はより盤石なものへと化していく。その少し後方ではボルードフ小隊とメルデ小隊とが激しい空戦を交わしており、時折機銃弾の流れ弾がエシャネーアーカに着弾して被弾警報を流していた。
そんな中、リンド達捕虜は戦闘になったことを完全に理解したのだが同時に撃墜される恐怖を覚えてしまっていた、いつもなら敵機は撃墜されることを願うというのに今回ばかりはどうか撃墜されないで欲しいという願いが生まれてしまうという矛盾にも気づかないほどに。
「おっと……近いな」
装甲や隔壁を通して伝わってくる爆発の振動に、比較的至近距離でロケット弾の爆発が起きたことを感知したリンドは、この機体が撃墜どころか対空砲火の直撃をこの部屋に受けて吹き飛ばされることすらありうることに気づいてしまい足を震わせた。この機体を墜とそうとしているということはつまり同盟軍側ということになるのだが、それは味方に殺されるということだ。戦場での誤射による死は少なくないということは軍学校でも他の兵士からも聞いていたがまさか自分がその犠牲になるかもしれないなんて……
「せめて不時着でもしてくれれば」
クルーペ軍曹がそうぼやく。航空機が飛行中に墜落を起こせば特にこのような大型機ではまず助からないだろう、しかも恐らくいや確実に高高度を飛行しているのでなおさら命はあるまい。そうやってなすすべもなく怯えていると彼らに脱出の好機が訪れた。
メルデ5が微誘導空対空ミサイルで吹き飛ばされ撃墜される直前にエシャネーアーカめがけて放った対艦ロケットがエシャネーアーカの側面で近接信管により起爆、対艦ロケットを改造したもののために爆発力は大きくエシャネーアーカは大きく損傷を受けて傾いた。
「うわああーーっ!!」
そこは丁度リンド達がぶち込まれている部屋のすぐ隣で、外壁が剥がされると同時にすさまじい風が機内に荒れ狂い、また同時に圧力の差によって内部のものが外部へと吸い出されていった。先ほどまで目の前で無機質なゴーグルを通してリンド達を見ていたはずの兵士二人があっという間に機外に放り出されてしまい、また余波で壁が更に剥がれて房にも気圧差が生じ空気の激しい乱れが発生した。
「ぎゃああーっ!」
瞬く間に二人の捕虜が吸い出され消えたが三人目が少々大柄であったためにそこで詰まったことで、流出は収まった。また兵士達が吸い出された大穴も他の構造物が穴を八割ほど塞いだため何かに掴まってさえいれば吸い出されないほどには落ち着いていた。
「あっ」
捕虜の一人が扉が半分空いていることに気が付いた、どうやら先ほどの衝撃で壊れて外れたらしい。
「少尉殿」
軍曹の言わんとしていることはわかる、リンド達残った捕虜は慎重に協力して扉をよりこじ開けると互いに体を支え合いながら牢屋を出た。廊下では赤色灯が点灯し突き当りでつながっている廊下に時折兵士達が走っていく姿を見た。
「どうしますか、軍曹」
「そうですな……恐らくパラシュートがあるはず。脱出できそうなハッチを探しましょう」
ここでリンドはこの機に入れられた時に目撃した格納庫を思い出し提案する。
「それか格納庫まで行って飛行機を奪いましょう」
「えっ!」
「軍曹は飛行機の操縦は」
と尋ねるといやまさか、と首をすくめる。
「自分もできませんが……飛行型ALの操縦なら一度だけ」
「あんたが空挺部隊の重AL乗りで今まで生き延びて来られたわけがわかりましたよ」
半ば呆れたようにそう言った軍曹は、リンドを連れて二人格納庫を目指す。捕虜は自然と二手に分かれ、コックピットを目指してハイジャックを狙う者とリンド達についていきまっすぐ脱出を図るものとでそれぞれ別方向を目指していった。
黒煙を噴き出しながら徐々に機体の高度を下げていくものの、すぐに自動消火装置が働き機内外で燃えさかる炎を消したことで飛行は再び安定しだす。
〈二番機がやられた!離脱!〉
エシャネーアーカのコックピットには絶えず機外で繰り広げられているドッグファイトの様子が送られ続け、たった今ボルードフ2が飛行不可能な損傷を受けて高度を下げていった。数十秒後不時着は困難と見たパイロットは機を捨てベイルアウト、白いパラシュートがゆっくりと地上へと向かって揺らいでいた。そんなエシャネーアーカのパイロットたちはいつの間にか捕虜たちが脱走しその一部がこのコックピットに向かってハイジャックを企てているなどとは微塵も想像してはいなかった……
最近また残業が増えてきて遅くにしか帰れなくなりました。




