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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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西を見て

 翌日、リンドは病室のベッドの上で目覚めた。そして起きたと同時に顔がずきずきと痛みだしつい呻き声を上げてしまうが誰かが反応するでもなく、彼は痛みを我慢して少し体を起こした。彼の顔は大きく腫れており出血跡を縫合した跡や青黒い痣があちらこちらに見られあまりにも痛々しく、強めの痛み止めが処方されていたが丁度切れつつあった頃に起きてしまったようだ。

 病室は狭く六台の簡素なベッドが狭い感覚で並べられており、そのうち彼のものを含め三台に傷病人が臥せっており、他の三台は人の使用した様子が見られないことからしばらく空になっているのだろう。ここで彼は自分が先日ヴィエイナ・ヴァルソーにしこたま殴りつけられて意識を失ったのだと気づき、小さく悪態をつくと頭をベッドに預けた。こうして捕虜となって敵地において病院のベッドの上で目覚めるのは二度目である。今回捕虜になった際には殆ど怪我もなかったために入院することは無く軽い手当ての後捕虜収容所の中の個室にぶち込まれていた。それなのに彼女が現れた途端にこれであるので、つくづく恐ろしい女であると身震いした。セレーンであればあんなことは絶対にしないだろう、と。

 彼女は一体どこでどうしているのだろうか、リンドは不安になって両手を握りしめる。この恐ろしい戦争において敵味方問わず何百万人という人間が犠牲になっているはずで、それもあくまで判明している数に過ぎず、実際の数字は更に上を行くのだろう。だとすると、いくら後方任務である輸送部隊とはいえ、無事は危うくなってくるというものだ。

 それだけでない、ずっと会うどころか話してすらいないのだ、彼に対する愛情が冷めてしまっているかもしれないしないとは信じたかったが浮気をしているという恐れすら考えうる。彼自身は彼女の存在もあってジュードルたちに誘われようと夜の店に繰り出すことを常に断り続けており、彼なりの操を立てていたのだが、彼女はどうなのだろうか。

 ふだんならそんなこと決して考えなかったであろうはずだというのに急にそのようなことを考えるようになってしまったのはやはり、彼の心が随分と消耗してしまっているためなのだろう。

 さて、今の所は看護師が彼の目ざめに気が付いて飛んでくるということもないのでとりあえずは落ち着いてこれからのことを考えてみることにした、これからのこととは当然脱出のことである。まず初めに知る必要があるのが今自分がどこにいるのか、ということである。まだイングレにいるなら頑張ればまた脱走できる可能性は出てくるが、もしより向こうの別の敵国内、あるいはほぼほぼないとは思われるがオースノーツ本国なんてところにいればまず帰ることは不可能である。

 話はまずそれからだが、生憎とこの体と病院とはいえ軍事施設内の敵地であるのであくまでも捕虜という身であることが大前提な彼では自由に出歩くことが出来ない。そのため情報は他の捕虜や医者などから聞き出す必要があった。

 そう思って仮の主の横たわるベッドに目を向けてみたが、片方は黒い肌を持ったレンゲレエ系(※1)の人種で、もう片方は深く眠り込んでいるため起こすのも悪いと思ったので彼は視線を落とした。いずれにせよその寝ている人物も別の人種であるため言葉が通じるとは思えない。

 せめて何かしらの海外言語を知っていれば、と彼は己の学の無さを改めて嘆いたがもし学んでいたとしても自分の頭では別言語を習得することは非常に厳しいことくらい理解していた。

 このまま彼はしばらく待っていると、三十分ほど経過したところでようやく看護師の女性が彼が目覚めたことに気づき医師を呼びに行った。それからすぐに医師の診察を受けたリンドであったが、当然ながら医師はキラロル語学習者ではなく、試しに話しかけてみたもののわからないという表情を返されたのみで、一言も会話を交わすことなくさっさと診察を終えると部屋から出ていってしまった。

 そして彼は一日ずっと放っておかれた。

 翌日も用を足すために看護師を呼んだ時くらいしか彼が気をかけられることもなく同じように一日をぼーっとして過ごす羽目となった。

 それから次の日、ようやく事は動き出したがそれは彼の望まぬ方向であり予想しえぬ事態へと発展する。



 その日の朝、いくらか腫れは引いたもののまだ元の顔の形に戻っていない状態で慣れない味の異国の朝食を口にしていると、軍靴の音がやけに重なって聞こえてきたと思ったらその足音の主達はリンドのいる病室に入ってきて、リンドを見ると彼を両脇から抱え上げベッドから引きずり出した。

「移動だ、オースノーツ本国にお前らを連行する」

「えっ、いてえ!クソッ!何だ何だ!わからない、なんて言ってんのかわかんねえよ!」

 彼はまだ傷も全く癒えていない状態で兵士達によって連れ出されると、看護師や他の傷病捕虜を押しのけるように連行され外へと出て護送車へと押し込まれる。トラック型の護送車には既に彼以外にも十人の捕虜が載せられており、皆一様にこれからどうなってしまうのかという不安でいっぱいの様子であった。勿論、彼も同様に。

 まだ痛み続ける顔に手を当てたいが手足が拘束されているためにそれもままならない。護送車の先客たちは見るからに酷い怪我人の浅黒い肌の、恐らく若い男が載せられてきたのでその彼の異様な姿に度肝を抜かれたようだが、すぐにリンドが重要人物であるが固く口を割らなかったために酷い拷問を受けたためそうなったのだろうと合点し、目を合わせないようにしていた。しかし、三人ほど離れた向かい側に座っていた男は違った。

「おい」

 それは聞き慣れた言葉であり彼が聞きたくてたまらなかった響きであった。

「キラロル語……」

 彼は顔を上げて声の主を探すとすぐに向かい側に彼と同じように浅黒い肌の年上の男を見つける。

「お前シェーゲンツァート人か?タライラス王国か?それとも」

 ここで上ずり気味の男の話を遮ってリンドはシェーゲンツァート人であることを伝えると、男はとても安心したように、そしてこの上なく嬉しそうに二人の出会いを喜んでいた。

「俺、俺ビレンゼ・クルーペ。アステーレイアー(※2)の航空整備士やってたんだ!ああ、やっとシェーゲンツァート人と会えた、やっとだ!お前は?」

「俺はアイタタタ……リンド・オーセス少尉、空軍の空挺ALパイロット」

「少尉だって?……顔は酷いが……そんな歳には見えないけど」

「繰り上げだよ」

「ああ……ともかくよかった、生きて仲間に会えたなんて!敵地だけどな」

 ここで荷室前方の鉄板に空いた小さな小窓が開いて

「ベルデム!!」

 と助手席の兵士が怒鳴り声を上げるとすぐに窓を閉じたので、二人は身をすくめて黙り込んでしまった。よくわからないが恐らく「黙れ」ということなのだろう。二人はそれから目的地に到着するまで声を潜めて互いのことを話しあった。

※1 レンゲレエ系:アストリアス大陸西部に主に住まう人種。パリオーサ人のようないわば黒人であるが、基本的に小柄で成人男性でも平均身長は百六十㎝。


※2 アステーレイアー:シェーゲンツァート帝国海軍のアストアーリオ級中型空母二番艦。陰暦1996年1月11日、マリメイデ沖海戦で連合海軍の攻撃を受け沈没。

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