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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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栄光のヴァルソー

 7月12日、イングレ王国の港湾基地においてただ一人部隊内で生き残り白い鳥として恐れられているオースノーツ軍のALパイロット、ヴィエイナ・ヴァルソーに敗れたリンドは再び連合軍の捕虜となっていた。以前のように重傷を負っていたわけではなかったために清潔な病院に入れられるということは無かったものの牢屋にぶち込まれてしまい、尋問を時折受けてはいたが暴力を振るわれることもなくただ事務的な日々が過ぎていった。

 そんな中で今彼が気がかりになっていたのは自分を倒し脱出を図っていた部下や同胞たちを一瞬で皆殺しにしてくれたあの女である。まさか世界でもトップクラスといわれているオースノーツの白い鳥が女だとは思いもよらなかった彼は、一週間ほど経過した今でもあの時のことが信じられなかった。

 異国の白い肌に金色の髪、彼を睨む鋭い眼は確かに舞踏会にあこがれる女ではなくこれまで数え切れぬほどの人間を殺してきた人間の目であった。彼女は尋問の内二回ほど姿を現したが一瞬離れたところにいるのが見えただけでもう一度相見えようとはしてこず、てっきり彼女が尋問でもしてくるのかと思っていた分少し拍子抜けしていた。

 だが、そんな彼の思考を読んだかのようにその時は訪れた。

「出ろ」

 何と言っているのかはわからないが何と言っているのかは予想できる、リンドは自分よりも背の高く筋骨隆々なオースノーツ人の守衛に尋問室に連れていかれるといつものように冷たい雰囲気の椅子に腰かける。今日もまたキラロル語を話す尋問官との問答だろう、一応士官だが部隊を率いるために無理やり引き上げられただけで重要な情報など握っていない、とそう何度も伝えてきたその繰り返しが今日も行われると思っていたのに、彼の前に現れたのはいつもの痩せぎすのオースノーツ人の男ではなく、あの女であった。彼女のそばにはやはりオースノーツ人の護衛が銃を構え二人、そして通訳が一人。

 リンドは彼女に直接通じないことくらい理解していたがわざと彼女を挑発するように

「やっと来たかよ、臆病者かと思ってたところだ」

 彼の言葉に、通訳は彼女にそのまま伝えるか迷っているようであったが彼女がそのまま自分に全て伝えるように命令したので彼はしぶしぶそっくりそのまま通訳した。勿論、その通訳先の言葉などリンドには微塵も理解できてはいなかった。

 リンドの放った軽いジャブにヴィエイナは微塵も同様せず寧ろ鼻で笑って彼を見下すと、テーブルに手をついて彼の方を見据えながら話し始めた。

「お前には散々世話になった、殺してやるつもりだったけれど聞いてみたいことができたから殺さないでおいた、だからこちらの尋問にはおとなしく答えるように」

 彼女の眼には殺意が籠っている、リンドはそれを肌でピリピリと感じ背筋に冷たいものを感じる。

「ハッ!俺は何度も言ったように繰り上げ士官だから重要な情報なんて知りゃしねえよ、お前らホントバカしかいねえのな」

 強がり混じりの彼の挑発にヴィエイナはこのままではずっとこの調子だろうと判断し手間を省くため強硬手段に移り、それは周囲のものをドン引きさせるのには十分な程の衝撃を当たることになる。

 彼女は彼がいい終わるか言い終わらないかのうちに拳をひくとほぼノータイムでリンドの右頬に思い切り拳を叩き込んだ。

「っぐぉ!!?」

 稀少合金を用いて作られた高級な義手の威力は生身の拳のそれをはるかに上回った、リンドは一発で脳震盪を起こし吹っ飛ばされた衝撃で椅子ごと壁に叩きつけられ床で蠢く。

「大尉!いけません!」

 銃弾をも弾く超硬合金製の義手を顔面に叩きつけられれば骨折すら生ぬるい、リンドは奇跡的に骨折もヒビも入ってはいなかったがもし同じ場所を殴られれば頭蓋骨骨折となってしまう。三百年前に世界で締結された戦争条約はまだ有効でそれには捕虜の人道的な扱いをするように定められているが、戦時下においては頻繁に無視されており、シェーゲンツァートでもオースノーツでも同様であった。

「私は私のやり方でやる!」

 そう語気を荒げて他の者を跳ね除けると彼女はツカツカと倒れたままのリンドに歩み寄って着たきりのパイロットスーツの襟をつかみ上げると、掴んだままもう一度頬を殴りつける。

「げっ!!」

 声にならない声を上げ、リンドは朦朧とする頭で維持で自分をこんな目に遭わせる恐ろしい女をせめて睨みつけてやろうと目に力を込めようとするものの、ジンジンと痛んで感覚のない頭のお陰で自分が今前を向いているのかそれとも視線が地面と水平になっているのかすらわからない。

 何かを言ってやりたいと思うが、そう思うことすら限界なほどにきつく、軍学校で大ポカをやらかした際に教官に叩き込まれた鉄拳を上回るほどの威力であったので、彼はもうふらつくばかりであった。

「取るに足らない雑魚の癖に私のグライフを傷つけただけじゃない、私の、ヴァルソー家のプライドすら傷つけた!それも何度も!」

 これはその分だとでもいうかのように彼女は更に何度か殴りつけリンドがぐったりとして動かなくなったところでようやくこぶしを握り締める力を弱めた。歯が折れ骨折し、そして血をぼたぼたと流している彼は一言も発することは無く、微かな呼吸音すらも聞き取れぬほどであった。

「どくんだ!」

 別室で待機していた軍医が彼女を半ば押しのけるようにしてリンドをその手から奪い取りその場に寝かせると脈拍を図り瞳孔にライトを当てる。そして彼は安心したように深くため息をつくと彼女の方を見上げた。その眼に一種の侮蔑の念が込められていたようにも見えた。

「特務大尉、君は条約を無視する気かね。私は軍属である前に一人の医師だいや人間だ、例え敵であろうとそうやって縛って無抵抗を強いられた人間を、嬲り殺しにするさまを見てみぬふりなど出来ないよ」

 彼女よりも一つ上の階級であった軍医は、近くにいたヴィエイナの護衛に彼を医務室へと運ぶように指示すると去り際にもう一つ彼女に向かってこう言い放った。

「君はヴァルソー家のプライドが傷つけられたと思っているようだが、それは違うな」

 彼の言葉に、彼女はキッと睨み返すが彼は全くの動揺も見せずにもう一度ため息をつき首を横に振った。

「わからないようだね、君のその野蛮な行いこそ名門ヴァルソー家の品位を傷つける愚かな行いだということを。それとも君自身のプライドか、その車一台が悠々買える手のためか」

 軍医とボロボロのリンドを連れた二人の兵士がその場を後にし、尋問室には彼女と尋問官、書記係だけが残されただただ重苦しい空気の中誰も一言も発することは無く、尋問官と書記係は互いに何かこの場をどうにかしてくれるよう互いに求めるように目を合わせるばかりであった。

 ヴィエイナは痛むこともないメタルの手をさすると、足元にリンドの血が数滴落ちているのを目にし一瞬の躊躇の後踏みにじった。その眼から涙がうっすらと流れ彼女の頬と顎とを濡らした……

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