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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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2.5次元の戦闘(3)

 そのうちに日が暮れてネメニーアにも夜が訪れるのだが、この谷底では朝も夜も関係なく闇に包まれているため、時計でも見ていなければ時間の感覚がくるってしまうのだ。そのため彼らは時計を偶然見て疲れに気づきねむけを催すか、疲れと眠気によって夜であることに気づき体を休めるか、という極限状態にあっという間に飲みこまれてしまっていた。

 


 暗闇は人の心をおかしくする。この星の人々も地球の人類と同様に感情を持ち、感じることもよく似ていた。そしてまた見えないという恐怖も感じるのである。戦闘開始初日にして隊長機と僚機を一機失ってしまったネバスター隊の残存機は、戦争の現実に言葉を失ってしまっている。よくあるヒロイックな活躍なんてそこにはなく、あるのは決して後世に語り継がれることのない、有象無象の数字の一つになるしかないという事実だ。

 二機のア・レドーニィは初期の配置のままその場にとどまっており、パイロットは中でただ黙って食事をとっている。四番機のビッデーテ軍曹は焦点の定まらぬ虚ろな目でもそもそとしたパワーバーをゆっくりと齧ってはいるものの、一口で一、二㎜程度しか進んでいないうえにその半分近くが砕けて膝上に落ちている始末であった。

 いつもは明るく前向きな彼女の面影はそこになく、意図的に谷底には目を向けないようにただ前と上に目線を交互に動かして、現実を受け入れないように努めている。

 視界の端に時折ゼガシエス曹長の機体が入り込む。片腕を失ってはいたもののそれ以外には戦闘に支障のあるような損傷も見られず正面装甲やシールドも依然として原型を保ったままで、まだまだ戦闘継続可能といった様子である。機体は、だが……

 対してビッデーテ機はというと小隊では後方かつ上層、四機の内もっとも安全な位置に配備されていたため大した損傷もなく済んではいたが、最も精神の消耗が激しかった。

〈エミニー〉

 不意に、ゼガシエスから彼女の名を呼ぶ声がしたが呆然としていた彼女はそれに気づかず引き続きパワーバーをかじっていたが、もう二度呼ばれたことでようやく自分の名前が通信機から聞こえていることに気が付き、生返事を返す。

〈……あっ……ごめんなさい、何……〉

〈しっかりしなよ~?そんなんじゃ隊長にどやされるって!〉

 ゼガシエスはそういつものようにあっけらかんと笑って彼女を励まそうと見せているが、その声にはいつも感じられるしっかりとした芯というものが感じられず、不安定に揺らいでいるように聞こえるが今のビッデーテにそれを感じ取ることは出来ない。

〈ご、ごめん……でも、隊長もアルピーも死んじゃったんだよ……皆、下にいた人たちも〉

〈そうだね、でもあたしたちが頑張るしかないよ、そうじゃないよ街にいる家族や友達が同盟軍のクズどもにもっとひどい目に遭わされるかもしれないんだからね〉

〈いやっ!それは!〉

〈でしょ、だったらあたしたちが隊長たちのぶんも頑張んないと。だってあたしたちは兵士なんだから戦うのが仕事でしょ〉

〈そう……だね。わかった頑張る……私頑張る〉

 これでそう決意できる彼女もゼガシエスのように実は強い女性なのかもしれない。ただし、戦争はそんな気丈な女すら何ほどのこともないといわんばかりに飲みこんでいくのだった……




 翌朝、顔を覗かせる斥候に新たに瓦礫の後方に展開した機関銃陣地が牽制射を行い追い払う音でビッデーテは目を覚ました。昨晩は精神的に消耗しきってしまった彼女を案じてゼガシエス曹長は先にビッデーテ軍曹に見張りにつかせ、後から自分は夜通しの見張りを受け持ったのだ。

〈ゴメン!〉

 すぐさま操縦席に着くと操縦桿を握りしめまだ虚ろな目をこすって無理矢理起こし、照準の先に敵の斥候を見据える。機体の調子は良好、脚部など各関節にかかっている負荷も問題ない様子で彼女はまだ機体は戦えることを確認すると、コンソールを弄って機体の傾きを調整する。油圧式の脚部は滑らかな動きで角度を微調整すると機体にかかる負荷を少し下げた。常に同じ姿勢だと、人間のように機械だってどんどん歪んでガタが来てしまう、というカミシェからの教えを彼女は律義に守りこうして機体の調整を欠かさなかった。

〈ネバスター隊!こちらシャッカー隊、そちらから敵はどうなってる!〉

〈あーこちらネバスター隊、依然として敵さんは出たり引っ込んだりで戦車一両すら顔みせないね!〉

〈了解した!警戒を頼む!〉

〈あいよー〉

 とはいったものの、この日は向こうも策を練っているのか斥候を繰り返し出してくるばかりで散発的な攻撃すらなく気ばかり張って疲れる一日であった。もしここがある程度開けたと地であったならば遠くから重砲や迫撃砲なんかを嫌がらせに撃ち合っていたのだろうがここで撃っても百パーセント岸壁に当たるだけで崩落の危険性を上げるだけになることくらい敵だって知っているので、そういうこともなく終わった。

 そしてまた次の日、この日は前日と同様本格的な攻勢こそなかったが少しだけ数を多く出しておりまた壁伝いにも偵察が現れるようになった。前線司令部は前線の部隊から得た情報を分析し敵はこの状況を打破するためこれから数日の間に大きく打って出てくる恐れがあると判断し、従って彼らは谷間だけでなく念を入れて地表面にも監視の目を巡らせて警戒に当たり敵のあらゆる作戦を可能な限り速やかに察知しこれを打ち砕くことを目標と定めた。

 また、ネメニーア軍に朗報があり悪天候のために遅れていた連合軍からの増援が四日後には到着し戦力の増強及び支援物資の補給が為されることが判明し、前線のネメニーア軍兵士達は大いに士気をあげた。司令部や一部の兵士、将官からすれば巻き込んでおいて今更かと考える者も少なくはなかったがそんなことは口に出して言えるはずもなくただ黙ってありがたいという姿勢を見せて戦って待つしか選択肢はない。

 ゼガシエスとビッデーテは連日連夜戦い続けた。本来の予定ならば一度敵を退却させた後その隙に谷の上に作業用のAL隊を呼び戻しネバスター隊のALと連結、上から引っ張りつつ陣地転換を行うという想定であったが思いのほかシルシッツェ軍が粘るため彼女らは一度もそこから動くことのないまま戦い続けた。



 四日目の夜である、遂にシルシッツェ軍が大きく仕掛けてきたのは。短い間だが同盟軍は周辺の制空権を奪取、地表に覗いていたネメニーア軍の監視を航空攻撃でひっこめさせるとその隙に断崖の上に多脚戦車を投入してきたのである。六本足の異様な姿を持つその戦車は独特の兵器設計思想を持つことで有名な同盟軍所属国、シーリン共和国製の特殊車両ウェンダーでア・レドーニィのように装輪・装軌式の車両が展開しにくい山岳地にて運用することを想定したものである。これを二年前から輸入していたシルシッツェ軍はこの車両の扱いに長けた兵士達を養成し山岳地帯での戦闘における要に仕立て上げていたのだ。

 目論見通りよく訓練された彼らは強風の吹きすさぶ中敵地において真価を発揮した。

〈上!上!〉

 ビッデーテが叫ぶ。遥か上方、僅かに見える地面の切れ目にそれらはいた。夜な上にグレーで塗られたウェンダーは辛うじてサーモカメラで車体の一部が確認できる程度で、いずれにせよネバスター隊や谷底の部隊から狙い撃てるような位置ではなかった。ウェンダーは車体後部に爆弾を備え付けたものと左右に天地に向かって三百六十度旋回式の砲塔を備えたものとが混成されておりまず爆装した方が爆撃をして大部分をやり、残りの旋回砲装備型が残りを掃除するのである。この方法は谷底にとどまっているしかないネメニーア軍に甚大な被害を及ぼした。 

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