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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第二章 舞い降りる機動要塞
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鉄の棺桶(2)

〈隊長!曹長がやられたんすか!〉

 ジュードルの切羽詰まった声がやかましく轟く。いつもなら落ち着くよう諫めているはずだったが、キリルムもそんな場合ではなかった。代わりにリンドが伝える。

「ロケットのせい、斉射を受けて曹長の機体の胸と右足を吹っ飛ばしたんです!隊長が安否を確かめてます!」

〈クッソ!おいヴィル!敵討ちだぶっぱなせ!〉

 甲高い叫び声。

「スライ!」

 コックピットを覗き込んだキリルムは叫ぶ。コックピット内のモニターはことごとく破砕し中に破片を飛び散らせており、火花散る内部は赤い非常灯が照らす暗い空間であった。スライは頭と腕から血を流してぐったりとして動かない。中に飛び込んだ彼は脈をはかると、数秒の後ため息をついた。

「よし……伍長!」

「は、ハイ!」

 見下ろすとキリルムが頭を覗かせていた。

「今からスライを俺の方に移す。警戒し続けろ!」

「分かりました!」

 つまみを捻ってレーダーの感度を上昇させる。一発の砲弾が肩に命中したが、その程度ではビクともしなかった。代わりにリンドは砲弾の飛んできた方向に機関砲の弾をお返しする。

 引き金を引き、128㎜の砲弾が30発、コンピュータが予測した場所へと撃ち込まれた。どうやら当たりだったらしい。弾に入っている以上の爆発が着弾地点で起こった。誘爆したようである。

「次だ!来いよ!」

 空になった機関砲の弾倉をパージし、リロードする。

 キリルムはスライを機体から慎重に引っ張り出すと、彼をあらかじめ近づけておいた自身のアルグヴァルの手のひらに寝かせ、自分はコックピットに戻り、機体を起動させた。ゆっくりと腕をコックピットに近づける。彼は再び操縦席を離れると、端にあるレバーを引いた。するとコックピットの床が一部開き、下に人ひとり寝られるくらいのスペースができた。下にはブランケットが敷いてある。そこに彼を寝かせると席に座り、ハッチを閉じた。

 そこは本来操縦者が作戦行動中に睡眠をとる場所である。サバイバルが必要なことがあるALは、このように機内に、小さいながらも居住スペースを設けている場合があった。しかし多くは操縦席の背もたれが倒れるといったものだが、アルグヴァルは大型であるため、このようにささやかな別スペースをとることができた。

〈伍長、あまり派手な動きはさせられない。一旦後方に戻るぞ〉

「承知しました。殿、お任せください」

 正直な話、嫌だが隊長機には重傷の仲間がいる。ここは無傷で一番防御力のある自分が殿を務めるほかない。

「大丈夫です。どうぞ!」

 周囲に目立った敵がいないことを確認すると、キリルムは出来る限りそっと窪みから抜け出し、元来た道を戻り始めた。

〈こちら第四小隊、一機行動不能。パイロットが負傷。機体は捨てて一旦後退する〉

〈……了解した。六小隊と戦車隊に援護をさせる。それと東ビゲールス海にてオースノーツ艦隊の動きを察知したと報告が入った。どうやら機動部隊らしい。艦載機を飛ばしてきた可能性がある。気を付けろ〉

 司令部のからの返答を受けると、キリルムは別行動中の二機にも後退を伝えた。

〈わっかりました……曹長……ンナロウぜってえ許さねえ!〉

〈落ち着け、まだ死んじゃいない〉

と、ジュードルを宥める。

「よし」

リンドは先ほどと同様の操作をする。するとアルグヴァルは下半身を後方に向けたまま上半身だけ敵のいる方向へと百八十度回転させた。これも先ほど九十度上半身を回転させたときの仕組みを利用している。こうすれば比較的防御の薄い背中を晒すことがない。それに重ヴァルは背中に弾薬庫を背負っている。誘爆すればキリルム機こど巻き込んで大爆発を起こしかねないのだ。死体など指一本残るまい。しかし、この便利な機能にも欠点があった。それを身をもってリンドは体験することとなる。命の危機と共に。

 すぐさまジュードル達と合流し、部隊は下がり始めた。後方からは戦車隊と、共に降下した第六小隊のALが、追撃し始めた敵に対し牽制射を行ってくれている。リンドも機関砲で応戦しつつも足を急がせた。

 ロケットを発射しようと指に手をかけた時であった。小さなショックと共に、突然機体が地面に吸い込まれるように倒れる。

「うわああ!!」

 激しいショックが彼の体を揺さぶった。シートベルトを着用していなければ、彼は勢いよくモニターに叩きつけられ死んでいたかもしれない。それでも大きなショックとシートベルトの食い込みが彼の体を存分に痛めつけた。その上衝撃で彼は三十秒ほど気を失ってしまっていた。

「うっぐう……いってえ……なんだ?」

 目が覚めると宙ぶらりんになった手足が見えた。それらをどうにか定位置に戻しつつ、モニターで周囲の状況を確認する。正面モニターには至近距離で地面が映り、側面モニターには垂直になった世界が映っていた。

「こけたのか?いってえちきしょう……」

 上半身反転機能には、実際の人間の動きと違うために錯覚してしまうという欠点があった。足は前に進む動作をしていたのに対し、目にはどんどん遠ざかっていく景色が映るのだ。無意識のうちに動きが混乱し、おぼつかなくなったところで戦闘でできた穴にALの足を引っかけてしまったのだ。

〈伍長、どうした!やられたか!〉

 先ほどのこともあり、キリルムはリンドが攻撃を受け転倒したのではないかと疑った。

「い、いえ、こけてしまっただけです」

〈こけた?まあいい、急げ!取り残されるぞ!〉

 直撃を受けながらもゆっくりと機体を起こすと、確かに先ほどよりキリルムたちの背中が遠くなっていた。急がなければ。

彼は再びペダルを踏み込むと、アラートが鳴り響いた。

〈東北東上空一万ミラスよりオースノーツ軍の航空機編隊を確認!距離五km!〉

〈んだって!なんで今まで気が付かなかった!〉

唐突な敵航空機部隊の接近の報告にキリルムが怒鳴る。

〈先日の攻撃でこちらのレーダーが軒並み破壊されていたんだ……〉

〈クソ!オーセス!急げ!〉

 五キロといえば目と鼻の先である。実際、アルグヴァルのレーダーにも報告の方角におびただしい赤い点が表示され始めていた。味方の陣地までまだ八kmもある。

「嘘だろ……」

 彼は今までで一番必死になって走る。だが敵はすぐ目と鼻の先まで近づいていた。

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