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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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白い鳥、再飛翔(3)

 よもや、よもや海中から陸戦用のALが飛び出してくるなど思いもよらなかったヴィエイナは、反応が遅れてしまいリンドの奇襲を躱しきれなかったようだ。さしもの彼女でも、まさかALを捨てた人間がまた別のALで現れるなどとは夢にも思わず、しかも乗っているのがイングレ軍のALではなく中装型のレーアルツァスなものだから、その驚きもひとしおというものであった。

「くううーっ!?」

 思わず変な声が出てしまったが今はそれを恥じている余裕などない、目の前のレーアルツァスは海水を全身から噴き出しながら組み付いており、銃こそ持ってはいないもののまだ固定兵装が残っているのは確認でき、彼女は前回自分の手を失う要因となったあの光景が過り素早く胸部の二十二㎜機関砲を斉射した。

 位置の関係上リジェースのほうが巨体であるために機関砲はレーアルツァスの胴体上面の後ろ半分とバックパックを傷つけるにとどまったが機体に異常を与えさせるにはそれでも十分と言えた。

 重要部分は被弾の少ない機体後部にある程度集約されているため、こういった被弾は結構痛手なのだ。事実、レーアルツァスの中では既にいくつか出ていた警告に加え、四肢の制御システムの異常をエラーメッセージが示していた。

「クソ!流石に厳しいな!」

 リンドはあちらこちらにまだ海水の溜まってびちゃびちゃのつまみを捻り感電しないことを祈りつつ機体の即興での制御を行う。

 彼が自機を捨てて海に飛び込んだのは一か八かの賭けであった。彼は不幸中の幸いか機体が破壊されてしまったところが丁度ポロ上等兵が水陸両用のALを発見したところであったことと、彼が自機はレッケ兵長のように破壊するのではなく海中に沈めることで処分したという報告を思い出し、上等兵が捨てたレーアルツァスがまだ動くことに賭けて飛び込んだのである。 

 そして彼はこの様子からわかるように賭けに勝った、勝った彼は悪あがきと言わんばかりに新型に乗った白い鳥に奇襲をかけそれも奇跡的に成功を果たしたのである。だが、流石に三連続の奇跡はおきずせっかく手に入れたポロ機も今の被弾により更に故障してしまい右腕が動かなくなってしまったのだ。

 電気信号が届かなくなり途端に機能が殆ど失われてしまい、従ってレーアルツァスの右腕はだらりと垂れ下がるはずであったが、故障の直前にしっかりとリジェースの腕をホールドしていたために右手は相手を捕縛したまま維持されたのだ。

 そのためにヴィエイナは相手の右腕が故障したことに気が付かず、プラズマセイバーで相手の腕を切断すべく引き剥がそうとするためにレーアルツァスを押していた右腕を離しつつ背部のサブアームから受け渡されるセイバーを受け取るとまっすぐに振り下ろす。

 それをリンドもサブアームが動き始めた時点でそういった近接攻撃がくるのは把握していたので自分もサブアームを伸ばしてその先をリジェースの脇下に挟むように伸ばした。このアームはレーザートーチが先端に備え付けられているアームで、戦車くらいの装甲であれば切断も可能となっているため、当然ながら飛行型ALの装甲板などいともたやすく切断できる。

 瞬時に発光したレーザーであったが、脇下から覗いているケーブル束を一本切断したと同時にショートを起こしもののコンマ五秒ほどの発射のみで故障してしまった。どうも海水が浸入したためのようだ。

 わずかなダメージしか与えられないままレーアルツァスの右腕は切り落とされてしまい、肘から先がまだリジェースの左腕にしがみついたままだったのを彼女はマニピュレータで払い落すと、レーアルツァスを蹴り飛ばし距離を取る。倒されてしまったリンドは背中を強打したことでむせかえってしまい、操縦から気を逸らしてしまった。それが決定打となってしまう。

「ゴホッげほっ……っぐう……っは!」

 気が付いたときにはモニタ一杯にリジェースのライフルの銃口が広がっており、けたたましく連続しての発砲音、思わず反射的に体を丸めて防御姿勢を取る。当然、ALが使うような銃の弾であればそのような姿勢をとっても何の意味もないほどの威力を誇るが人は得てしてそのような行動をとってしまうものである。

 死ぬ、そう思ったのだがなぜか痛みも血もなくただモニタの殆どがノイズだらけになってしまい面とサブのカメラが死んだことを示していた。更に数発の銃声が轟いた後リンドは叫んだ。

「殺すならさっさと殺しやがれ!!!クソ!!畜生め!!」

 だが、そこで銃声は止み代わりに機体が大きく揺れたかと思うと金属が引き裂かれるようなとてつもない轟音が起こりリンドは何事かとパニックに陥った。

「うわああーっ!!」

 バキバキとフレームが破壊され金属がねじ曲がり千切れてしまう音の後、ようやく収まったかと思うと今度は打って変わって静けさが戻ってくる。最早先ほどのでモニタは完全に死んでしまい、センサー類も全滅しており文字通り目のない状態になった機体は、最早鉄の棺桶と呼ぶほかなかった。

 振動が収まったことに気づいたリンドは、そっと耳に意識を集中させ外の様子を探りつつも右手はホルスターの拳銃へと伸びていた。しかし、その手は宙を掻くばかりでホルスターの感触が全くないことからリンドは落としたことに気づく。恐らくは海の中で……

 そうこうしているうちに、何か小さな音がすぐ隔壁の向こうから聞こえたので耳を澄ませると金属が擦れる音が聞こえそれがオートマチック拳銃をブローバックさせたのだと気づきライフルを取るためにシート下に向かおうとするが外にいる何者かはどうやってか(緊急時の強制ハッチ解放装置を使用していた)ハッチを開けようとしているようで今から椅子を乗り越えている暇はない。

「何か……あっ!」

 自分の左腕を見つめるリンド、彼は自分の腕が特殊なものであることを思い出し息を大きく深く吸い込んだ。



「よし……」

 翻訳用のタブレットを通してレーアルツァスのハッチ解放の手順を踏んだヴィエイナは、最後の工程であるレバーを九十度捻る作業を行った。すぐに内ハッチは空気の流出音と共にゆっくりと開くと同時に隙間に入りこんでいた海水を噴き出して彼女の足を濡らすが、気にする素振りはない。

 彼女にとって今一番重要なことはレーアルツァスのパイロットをその目で確かめることだけであった。拳銃を右手に握りしめた彼女はハッチが開き切ると同時にコックピット前に躍り出ると同時に拳銃を向け叫ぶ。

「動くな!」

 言葉が通じるわけではない、だが向こうもこの状況下であるためなんとなく察するであろうという考えからそういう行動をとったのだが、当然リンドの方もそう易々とまた捕虜になってたまるかという思いであった。

 一発の銃声とともに弾丸がヴィエイナに向かってまっすぐ至近距離で放たれ手に直撃する。

「よし……」

 拳を握りしめまっすぐヴィエイナに向かって突き出した左腕の手首より少し手前には飛び出した銃口が、そう彼は以前自身の義手を選ぶ際この仕込み銃の義手を選んでいたのだ。装弾数はわずかに五発、しかしこの距離なら十分と思い実際に命中した、だが人間からするはずのない金属音に近い甲高い音がした上に血も出なければ倒れもしない、逆光のヴィエイナの姿が徐々に明らかになり彼は我が目を疑い呟いた。

「義手……ってのかよ」

 彼の放った銃弾はヴィエイナの左手に命中したが、彼女の義手の小指と薬指を飛ばすにとどまり怪我を負わせることは出来なかったのだ。そして彼女はコックピット内に飛び込むと彼の左腕を足で踏みつけ銃口を逸らすと同時に拳銃を彼の額につきつけ、彼の浅黒い肌をまっすぐに見つめた。

「お前が……」

「……白い鳥が女……女だっていうのかよ……」

 ずっと屈強な軍人が乗っているものと思って戦い続け憎んでいた、だというのに目の前にいるのは紛れもなく一人の女であった。女であることを捨てた女兵士という風貌ではなく、手入れのされた細い金色の髪にフライトスーツ越しでもわかる女らしい華奢な体、どうやってこんな体であんなGのとてつもない機動をし続けられたのか理解できなかった。

「クソ……クソ……俺は」

 ヴィエイナは、目の前の因縁の男の目から流れる一筋の涙に彼の悲しさと悔しさを感じ取り、深く息を吐いた。



 それから二時間の後、壊滅状態に陥った同盟軍艦隊は上陸部隊を残し敗走したものの、既に降下・揚陸部隊はリンド含め僅か八名の生き残りしかおらず、またその全員が捕虜となっていた。

 同盟軍はこの上陸作戦の完全なる失敗により士気を落とし、より連合軍の侵攻を許すこととなる……

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