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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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白い鳥、再飛翔

 目の前で起こった大爆発によって生じた波に飲まれ海中に没する重レーア、浅瀬とはいえ戦闘で受けたダメージにより機体に隙間の生じている重レーアのコックピットにはどんどん水が入り込んでくる。しかし、今のリンドはそれどころではなかった。目の前で同胞約二十名となんとか生き残ってくれた部下二名が一瞬にして消し飛んだのだ。

 半日の間に救命の部下全員を失った心理的ダメージは計り知れない。しかも彼はこれが指揮官として初陣なのだ、部隊が初陣で全滅し自身だけが生き残って帰れば死神扱いは避けられないだろう。

「ハッハッハッハッ……」

 仰向けの体勢のために既に耳のあたりまで水が来ているにもかかわらず、彼は起き上がろうとしない。いや、起き上がれないのかもしれない。ショックがあまりにも大きすぎて彼は胸からこみ上げるものを感じたと思うと、次の瞬間には嘔吐してしまっていた。

「おっぼおええええ!!!」

 顔もパイロットスーツも吐瀉物に塗れ、入り込んでいる水に浮いてあちこちに飛び散ってしまうが彼にはそれを気にする余裕すらなかった。

「おえっ……うーっ!」

 レーダーには上空を飛んでいる敵機の反応が映るが流石に海中にまでは攻撃を仕掛けては来ない。だがこのままではリンドが溺死してしまうだろう。

「隊長……皆死んだ……死んじゃいましたよ隊長!」

 今までに出会いそして死んでいった仲間たちの顔が浮かぶ、ここで死ぬわけにはいかない。生きて、生きて仲間の仇を取らなければならない!今日こそあの白い鳥を仕留めなければいけないのだ!

 リンドは顔を拭うとスイッチを跳ね上げ化石燃料エンジンの出力を最大限にしそれと同時にスラスターノズルをスタンバイにまで持っていきいつでも跳びあがる用意をした。

 沈んでしまったと思った重レーアの頭が次いで上半身が海面に姿を現したと思うと、それに攻撃を仕掛けようとした飛行型AL達を牽制射で追い払い反転、岸へと向けて跳びあがった。

 装甲や武器銃弾の多くを失ったために重量が思い切り軽くなったことで、重レーアは重装型とは思えないような勢いで跳びあがり、一気に地上へと戻る。それでも距離が少し足りないが、そこはもう一度跳躍を行うことで上陸に成功、殆ど勢いを殺さぬままリンドは重レーアを滑らせながら敵陣に向かって走り始める。

 それを先ほどの不明機一機を含四機が追従するが、そのうちシュリーフェン三機が不明機の指示のためだろうか編隊を組んだまま離れ、不明機のみがリンド機を追いかけた。

「いいぞ」

 それは予想外であったが、逆に好都合でしかないためリンドは先ほどの跳躍で更にダメージが入ったために鳴り続ける損傷警告を無視して機体を走らせ続ける。止まってはいけない、止まれば確実にアイツに仕留められる。

 まさにあいつは白い鳥だ。その名はシェーゲンツァートだけでなく敵味方問わずあちらこちらでおおよそその名かそれに類似した名をつけられておりキラロル語では「バルデ・リリール」と発音する。バルデ・リリールとは元々シェーゲンツァートの山間や海に接する険しい岩壁によくみられるミルジェールという大型の猛禽類で、大きいもので翼を広げた幅が最大五mにも達するとされており、リンドだけでなく少なくないシェーゲンツァート人が国営博物館でその剥製を見たことがあった。それほどにこの鳥はとても有名で、軍の飛行機にはよくこの鳥をモチーフとした部隊章が付けられているほどだった。

 時に勇敢、時に恐怖の象徴として扱われるこの鳥の名を、その類稀なる操縦に対する敬意と畏怖その両方の意味を込めてつけられた白い鳥は、また畏怖としてリンドに襲い掛からんとしていた。




〈リヴェンツ※1を確認、跳躍して陸地へ戻っていきます〉

「見つけた」

〈ハイ?〉

「あいつ」

 補助AIチューフの報告にかみ合わない返事を返したのはヴィエイナ・ヴァルソー特務大尉であった。同盟軍のチャッカンマ奪還において敵AL部隊を殲滅せしめたが負傷してしまった彼女は特別表彰を受け二級ニギリ・ビーッツェ三角勲章を授与された彼女は今、復讐のためそして今度こそ決着をつけるためにここにいた。部下や仲間の小隊と共に空母を沈めた彼女は、水陸両用ALとそれに曳航されているフロート台を沈め、部下たちを下がらせると単身重レーアに向かう。

 彼女は感じていた、そして確信していた。証明するものなど何もない、だが今までの経験と勘がそう囁いている。あれはアイツだと!

 機体の機種すら違うというのに何故わかるのかなんて、彼女自身にも証明できないことだが、それを見た途端自分の手が疼くのを感じたのだ。彼女のグローブに包まれた指はもうかつての指ではない。リンドの決死の反撃によってすべての指を失った彼女は両手首から先が義手となっていた。先にも述べた通りこの星の義肢の技術は地球のそれを上回っており最先端技術を駆使して作られた彼女のそれは、リンドの物よりも更に高級品で高性能に作られている。

 本当の指よりも細かくそして素早く動くこの新しい指に彼女は感動を噛み締めながら、レバーを思い切り引いた。地上のリヴェンツから撃たれてきた細々とした対空機銃を、ベストな姿勢制御状態にあったのを一転イレギュラーな動きをさせたことで気流が乱れ姿勢を崩したのを利用して彼女は機銃を躱して見せた。

〈機体に負荷がかかっていますよ〉

「わかってるから!」

 事実、今の挙動をしたことで機体各所に警告が走っているが、そんなことは気にしない。

〈リジェースはまだ調整が必要な機体です。大尉もまだ慣れてはいないでしょう〉

「だから?……っぐ!」

 機銃を避けた先に今度はより正確に飛んできたガトリングの弾を紙一重で躱したが、その威力のために横を通り抜けただけでも付近の装甲版にたわみを発生させる。今現在まだ両機の距離は離れているがこの距離で当てに来るとは以前よりも更に腕を上げたことに、彼女は口元を緩ませる。

 その方がいい、もっともっと殺しがいのある人間になってくれなくては、と。

 彼女の新たな翼、リジェースは新型の正式採用された飛行型ALであった。グライフ等複数のテストベッドによって得られたデータをもとに開発されたこの機体はシュリーフェンの改良型といっても過言ではなく、装甲厚、ジェネレータ出力、スラスター出力、トルク、火器管制システム等々どれをとっても殆どの点においてシュリーフェンを上回っていたが、唯一明らかに劣っているのがコストであった。

 性能を大幅に向上させた分コストも同様に大きく上がってしまったリジェースはシュリーフェンのように大量生産を行うのではなく少数生産で腕の立つパイロットや指揮官機としてのみ配備されることになっていた。その初期ロットの内の一機が彼女に引き渡されたのである。

 カーブを描きながら軽く上昇しつつヴィエイナはロケットを発射、リンドはそれをもう一度今度は短くスラスターを吹かすことで跳躍させて回避するが、より機体にダメージが及びコックピットにまで聞こえる金属の破断音のようなものが届き、彼は息を飲んだ。

リヴェンツ ※1:オースノーツ語で雄の山犬を意味する単語で、レーアルツァスのこと。

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