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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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脱出

 フロートを接岸させてからは、物事は滞りなく進みリンドがフロート台とポロの持ってきたオースノーツ製ALレビテールtype4は、四脚という非常に珍しい異形のALである。水中で姿勢制御を行う際や、上陸した際にその重量を支えるために与えられた足は、現在浅瀬で自身を固定させるのに大いに役立っており、リンドはミスもなくウインチワイヤーをレビテールに接続することが出来た。

「よーしいいぞ!」

 マーレー中尉の指揮の元、負傷者たちは次々とフロート台の上に運び込まれ並べられていく。全員が乗った後、仕上げに沈んだ揚陸艇から引き揚げた負傷者移送時に船に掲げられるかあるいは治療所の近くに広げられる予定であった白地に青い三本の線と一つの輪が描かれた〈医療施設のため攻撃禁止〉を意味する国際共通の印の描いてある大布を、半分海に垂らすようにして広げ移送の準備は完了した。

「忘れてる負傷者はいないな」

「ええ、そのはずです」

 リンド達は次いで無事な者も全員乗りレッケも機体を降りて乗り込んだことを確認すると、レッケ機の持っていたショートバレルの突撃銃と自分の弾切れ寸前になっていた突撃銃を交換した。残弾は四十二発、この場所からリンドが機体を捨てるまで大した距離はないので持つとは思うが一応念のためにレッケ機から最後の弾倉を取り外すと、レッケ機から離れる。レッケ機はレッケが機体を降りる際に長めの時間で自爆の設定をしてある。あとで機体を敵に回収されるのを防ぐためだが、勿論あの大爆発を起こすような大規模なものではなく、あくまでも機体を使用、解析不可能にするための最小限の破壊であるため周辺を巻き込むようなことにはならないのだが、何があるかはわからないので安全のために大きく離れなければならないことになっている。

 ポロ機もあらかじめ彼自身がレビテールを取ってくる際に水中にコックピットハッチを開けたまま沈めてきたので、問題はないだろう。一応レビテールの対艦スピアなるもので穴を開けてきたらしいので、恐らくは……

 こうしてたった数時間前に降下した第一小隊のALも僅か一機の身となってしまった。そのリンド機も、初出撃で廃棄されようとしている。思えば、初陣でも自分のアルグヴァルは大破し歩行すら不能となって廃棄されてしまったのを思い出したリンドは、自分には初めて乗った機体は必ず最初に使用不能となるのではないか、と疑う。アルグヴァルやレーアルツァスだけでなく魔改造状態の名もわからぬAWや捕虜収容所近くの基地から盗み出した飛行型ALもダメになった。

 どうも自分は兵器と相性が悪いようだ。そうリンドが苦笑していると、モニター越しにマーレー中尉が合図をしていることに気づき、もやいを解く。

 拘束を解かれたフロート台だが、反対側でレビテールが地にもとい海底に後ろ足を脚をつけているため非常に安定したまま波に揺られていた。波は洋上の戦いの余波で穏やかではないものの現在は戦いも一旦収まりつつあるため今が恐らく一番安定した瞬間であろう。

「ポロ!ゆっくり進め!」

〈了解であります!〉

 レビテールの開け放たれたコックピット内から、揚陸艇の乗員の一人が顔を出して手を振り任せろと合図を送ってきたので、リンドもレーアルツァスの左腕を上げて応えた。作戦は完全なる失敗であろう、他の小隊がどうなったかは知らないが今は自分たちの面倒を見るだけで精いっぱいなので、仲間の生存の可能性を頭から無理矢理追い出すようにして、リンドは微速で進み始めたレビテールの後を追った。

「浸水?マジかよ……」

 水位が上がり始めるにつれ、脚部やらあちこちの重要区画に浸水があることを知ったリンドは途端に不安にあおられる。荒々しい使い方をしても問題なく動けるよう頑丈に作られているのが陸戦用ALの強みであるため、しばらくの間は動けるだろう、恐らく機体を捨てる十分後そこらまでなら問題なくは。

 だが、一度そういうコーションマークが出れば不安は強くなるもので、リンドは汗が額から降りてくるのを感じつつ一瞬だけ操縦桿から手を放して汗を拭うとすぐにしっかりと握り直す。

 この後、自分たちがどういう運命に導かれるのかはわからない、まさかまた懲罰部隊送りになるのでは、という恐怖が一瞬頭をよぎったがマーレー中尉と司令部とのやり取りを聞いた限りではそれは恐らくないと思われる。

 フロート台はゆっくりゆっくりと進んでいく。時折中くらいの波に揺られて傾くが、負傷者たちは落ちてしまわないように固定されているので転げ落ちる恐れはない。ただし、コックピットハッチを開け放って仰向けで浮上航行しているレビテールのコックピットには時折機体に当たって砕けた波しぶきが飛び込んできては彼らの体を濡らした。特に、機体の向きの都合上思い切り空を見上げる形となっているポロは顔面からそれを被る羽目になっているため、彼はタオルで顔をガードする羽目になっていた。

 そしてまた、リンドの方も遂に浸水はコックピットにまで達してしまっていた。戦闘で生じた歪みのために足元から徐々に水が浸入し、足元にシート下に収めていたはずの洗顔用品が浮いてきているのを見てそれに気づいたリンドは慌てて現在の水位と地形データを照らし合わせた。

 残念ながらもう数十mはレーアルツァスのコックピットハッチが無事に開けられる水位であるようなので、しばらくは水位に怯える羽目となり彼は舌打ちした。



 敵の姿もなく、ようやくコックピットハッチの開閉限界水位にまで達したリンドはポロに止まるように指示するとコックピットハッチの上部を解放した。上下に別れて開くようになっている内蓋の構造のため、水が流れ込んでくるであろう下半分は空けずに外側のハッチとそれだけを開けてリンドは必要なものをもって這い上がる。

 外に出て改めて分かったが、本当にギリギリまで来ていたようで、下内蓋の淵ギリギリまで届いている水位のために波がちょくちょく中に入りこんでよりコックピット内は水浸しになっていた。

「おーい!」

 顔を上げると、フロートから無事なものが浮き輪を放り投げてくれており、十mも泳げばたどり着ける距離に浮き輪が揺られていた。

「助かる!」 

 リンドは顔を綻ばせて水の中に飛び込もうとしたその時であった、コックピット内から対空警戒のレーダー音が鳴り響き、反射的にシートに飛び戻るとすぐにレーダーを確認する。

「飛行型!冗談だろお!!」

 彼は自分の目とレーダーを疑ったが、レーダーは既に復旧しているため正しい表示を彼に見せていた。

 レーダーには十二時方向つまり進行方向のもっと先から飛行型AL十二機編隊が迫っていることを示していた。肩は殆どがクウィール (シュリーフェン)、しかし一機だけが未登録の反応であったため彼はすぐにメルディンネ作戦で相打ちに近い形で撃退することの出来た試作型のオースノーツ製飛行型ALを思い出し、背筋を凍らせた。

〈隊長!〉

 ポロの呼びかけに、リンドはコックピットハッチを閉めながら先に行くように指示する。

「十二時方向敵機!先に行け!俺に任せろ!」

〈ですが!〉

「命令だ!!」

 リンドは一方的に通信を打ち切ると、安全のためフロートから離れていく。これは自身の安全のためではない、囮となる自分との戦闘に出来る限り同胞たちが巻き込まれないようにするための安全である。

「どうする、どうする!」

 残った武器を確認する。ショートバレル突撃銃が一丁、対空機銃が二基、対地ロケットが四発、グレネードが一発、ガトリングシステムが右側のみ残弾八十……

 これでは確実にアイツを相手取るならば弾数が足りない。リンドは急いで岸に戻ろうとしたところで、モニターに空母の真横からひときわ大きな水柱と共に大爆発の音が耳に飛び込んできて、体が固まる。四本もほぼ同時に上がった水柱は全てメレルベッタの左舷側で生じあっという間にメレルベッタは傾き始めた。急速な傾斜と甚大な被害のために復舷出来ないメレルベッタの甲板からは駐機していた艦載機や甲板要員たちが滑り落ちていくのが、上等なALのカメラアイが捉えてはっきりとその様子をリンドに見せる。

「マズイ!」

 輸送艦か駆逐艦に目的地を変えるようにポロに伝えるべく無線のつまみを捻ってつなげようと躍起になっていると、炎上する空母を飛び越えるように十二機の飛行型ALが現れた。その編隊は灰色のロービジカラーに塗られたクウィールとその中心にいるのがやはり見たことのない白いALであった。そしてあっと驚く暇もなく、その謎のALは編隊を離れ単機急降下をかけると低空から対艦ロケットを発射、精確無慈悲に放たれたロケット弾頭はリンドの目の前でゆっくりと航行中のレビテールに直撃すると巡洋艦すら一撃で沈める大爆発を起こし吹き飛んだ。当然、曳航していたフロートも……

「ああああああーーーーっ!!!!」

 コックピットに青年の絶叫が満ちた。

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