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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第七章 若き芽よ
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敵地を脱せよ

 こうなっては残存戦力を結集しての再攻撃もままならないどころか、ここに並べられている膨大な数の負傷者を置いて攻撃を仕掛けることなどそのような非情な作戦をリンドのような根の優しき青年がとれるはずもなかった。これは最悪の場合機体を捨てて船を使い艦隊の元へ戻る必要性すら出てきていることを感じたリンドは、一度砲台の方を見上げた後もう一度同胞の有様に視線を落とし頭を抱えた。

 軍人としてなら残った戦力を結集させて攻撃を再度敢行するのが正しいのかもしれない、特に現状では同盟軍は戦局が厳しくこの基地を落とせればこの大陸の奪還の足掛かりと出来るだろう。しかし人としては、やはりここで死の淵にある仲間を見捨てること等到底できはしなかった。そして彼が下した判断は……

「各機、医薬品を最低限残して下に下ろせ」

〈わかりました〉

〈ハイ、勿論です!〉 

 幸いにも、部下たちもこの状況を見て心を痛めており医薬品の供与を喜んで受け入れてくれた。三人は自分に必要だと思われる最低限の医薬品を残して同胞に渡すと彼らはとても喜んでくれたので、その姿を見ると体に沸き起こるものがあり、自分たちの選択が間違っていなかったことを知って胸を震わせた。更に、リンドはこれだけでは足りないと考えていたため元気そうなものを自機とポロ機に二人ずつコックピット内に乗せると、周辺の施設から敵の医薬品などで使えそうなものがないかの探索に出かけた。その間は、気は進まなかったが味方の護衛はレッケ機に任せる。それしかもう、三機しか残っていない第一小隊に残された選択肢はなかった。

「ここはどうだろうか」

「備蓄倉庫っぽいけどな」

「行ってみるか」

 二人の兵士をコックピットの足元に乗せ、リンドはそこら辺の瓦礫を見て回り備蓄庫らしき残骸を見つけると仲間を下ろして自分は警戒に移る。

「気を付けて」

 そう言ってハッチの向こうに消える二人を見送ると、彼はその場に自機をしゃがませたまま上半身だけを回転させて周りの人間一人見逃さぬよう辺りを警戒している。端を映すカメラがとらえた仲間はアサルトライフルを抱えて瓦礫の上を不安定ながらも慎重に歩いており、時折怪しい箇所を見つけては瓦礫をひっくり返して一喜一憂していた。

「司令部、こちら空挺第一小隊応答願います」

 その間にも作戦司令部と連絡を取ろうと試みるリンド。するとようやく通信が回復したのかノイズ混じりながらも洋上にて構えている今作戦の司令部と通信が通じた。

〈ズズ……司令部、第一……現…を報告せよ〉

「ああ、やっと通じた。こちら第一小隊。こちらは二番機を失い継戦不可能と判断、また先ほどの謎の爆発で上陸部隊の被った被害を確認すべく後退したところ第一上陸部隊は壊滅していることを確認。死傷者多数、作戦継続は不可能と判断。現在不足している医薬品を敵基地内で調達中、指示を乞う」

 さて、どのような返答が帰ってくるのか。不安に駆られつつもいい返答が帰ってくることを祈ったリンドであったが、その答えは今なお全軍の混乱が収まっていないことが切にうかがえるものであった。

〈……ザザザ……解した…ズズッ…しつつ、立て直しを図……進退についてはまた後程……連…する〉

 そこで、通信は途切れた。通信自体が途切れ途切れで全容がつかめない状態ではあったがおおよそ推察するに現状ではまだ残存兵力の確認が行いきれていないため、各自の判断で動きつつ追って連絡を待て、とのことであろう。凡その予想通りと考えたリンドは、ため息を軽く一つつくと外にいる仲間の方へと視線を落とした。二人とも何かしらは見つけたようで馴染みのない見た目をした物資を抱えてリンド機の足元へと戻ってきつつあったので、周囲に敵兵がいないことを確認しつつ手を下ろしコックピットへと上げた。

「多分食糧と薬とかっぽいのは見つけたけど、何て書いてるかわかんねえわ」

「でしょうね」

と、彼らが拾ってきた物資は確かにレーションや薬といった物資であることは見た目から窺えたがそれが詳しくはなんであるのかまでは、ラベルに印刷されている文字が読めない以上不明であった。辛うじて医薬品には世界共通語で大きく品名が記してはあったものの、ここにいる三人は皆学がさしてなかったので医薬品の名前からそれの役割を察することは愚か文字すら読めていなかった。

「あ、そうだ」

 そう言う時こそ、文明の利器の出番であった。リンドは思い出したように椅子の下の寝床にあるとあるデバイスを取ってもらうとそれを手に取りまだ使えるかどうか電源を入れてみた。

 四角い手のひらサイズの黒いそれは、レーションの一つを手に取りそのラベルを読み取ると自動的にキラロル語に翻訳、液晶に表示した。

「へえ、マッチルーカのベサリベサリ炒め……」

 翻訳したはいいもののマッチルーカもベサリベサリも全く知らなかった三人にとって結局それは意味をなさないものであったため、文明の利器にも限界のあることを知りつつ彼らは一度後方へと戻った。

 結局五度も行き来をしたのだが、彼とポロ両方ともが敵の歩兵一人にすら出会うこともなく安全に回収作業を行うことが出来たのは、やはりあの爆発で敵の残存兵も同盟軍同様に焼き払われてしまったためなのだろうか、リンドは戦場は無情なものだと痛切に噛み締めていた。

「ああ、ありがたい……」

 四肢だけでなく全身に血や煤をこびりつかせながら、汗だくの衛生兵は敵国のものながらもやっとまとまった数の手に入った医薬品の数々に目に涙をためて喜んでいた。この衛生兵、名をミーリィ・ゼッペールといい首都トルムカンデール出身の二十八歳の曹長であった。八十名いた同じ医療部隊の同僚は皆吹き飛ばされ、偶然防御壁の根元にいた彼のみが助かり、わずか一人で数百の負傷者の面倒をみるという試練を課されており、非衛生兵である仲間の手を借りつつも最早我を忘れるほどに奮闘していた。

 最終的に残ったのが三十三人であったが、それも時間の経過と共に少しずつ減っていっていた。

「俺たちに出来ることは?ALで出来ることは限られてるだろうが……」

 彼らの様子を見て自分たちにはもっと何かできることがあるはずだと感じていたリンドは、せめて少しでも手伝いたいという気持ちに駆られ、不安げに横たわる死傷者達を見回しながらそう尋ねる。するとゼッペール曹長は額の血と泥の入り混じった黒い粘液を拭いながら周囲を二、三度見回すと船と声を上げた。

「負傷者を後方に移送する船を探してきて欲しい。できればヘリとかがいいけど操縦士もいなけりゃこんな中を飛ぶなんて危険すぎる。それに一度も輸送量もない」

「わ、わかった。船だな!」

 リンドは揚陸艇の乗員二名を呼ぶと、それぞれまたポロ機と分乗させて手分けして輸送用の船を探すことにした。そう言った船は戦闘前に退避させられているだろうという乗員のアドバイスのもと、彼らは船を隠せそうな場所を求めて歩き回る。しかし皮肉にもそういった建物はあらかた先制爆撃によって破壊されつくしており、そう言った残骸と共に海底に輸送用の小型船は沈んでしまっていた。

「まいったな……」

 ようやくリンドが見つけたのは海上作業用のフロート台くらいで、残念ながら無動力であり洋上に航行している艦隊まで戻ることは不可能であった。そんな折、ポロのほうからある通信が入り、リンドは一つの考えを思いついた。

〈隊長〉

「どうした?」

〈船はありませんでしたが、水陸両用のALを一機みつけたであります!〉

「そんなもの……」 

 パイロットと精々一人か二人コックピット内部に入れて運ぶのが限度だろう、そう言い切ろうとしたところで、妙案が彼の頭に浮かぶ。それは無謀であったし、唯一の可能性でもありそれが頭に浮かんだが最後、最早それしかないのでは、という考えが頭を支配していた。

「でかした」

〈は?どういう意味でありますか〉

 リンドの一か八かの作戦が始まった。

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