鉄の棺桶
〈よし、次だ。ヴィル、4Bから4C地点に砲撃。榴弾を使え〉
キリルムが指示する。するとヴィレルラル軍曹の乗っている砲撃型アルグヴァルのバックパックから展開した100㎜砲が微細な動きで照準を合わせ始めた。
〈他は警戒しな〉
スライが命令する。
〈五発撃ったら射点を変えてまた五発撃ったら移動だ。ジュードル、守れ〉
〈ウッス〉
〈他は最初の五射が終わったら前進、いいな〉
「ハイ!」
100㎜砲に榴弾が装填される。目標は重砲陣地と小隊との間に展開する敵陣地である。厚くはないが横に広いため、一点突破しても正面と背後から集中砲火を受ける可能性がある。そこで砲撃型で突撃の支援を行うのだ。
砲撃音が響き渡る。一発目、そして二発目。
〈来たぞ!〉
AWが複数、残骸を盾にしながら迫ってきた。
四機のALが近づけさせまいとAWを迎撃する。ジュードルがグレネードを取り出し残骸ごと敵を吹き飛ばした。戦車や火砲、AWの残骸が爆風に押し出され、周囲に飛び散る。すると迎撃の間にもうヴィレルラルは五発撃ってしまったらしい。それを確認したキリルムの合図とともに、三機と二機に分かれて小隊はまた走り出した。
目一杯ペダルを踏みこんで、鉄の巨人たちは大地を蹴った。銃弾飛び交う中を、時に弾き、時に装甲を吹き飛ばされながら。鉄片と巨大な薬莢が地面に散らばり、ピストンからはオイルを飛び散らせた。
〈ロケット!!〉
スライが叫んだ。六発のロケット弾がリンドたちめがけて飛んできたのだ。目にも止まらぬ速さで向かってくるロケットを回避するすべはない。自動対空機銃が応射したが、一発のみを撃ち落としただけで、残りはまっすぐ正確にリンドたちを襲った。二発は真上を通過、一発は近接信管で爆発しスライ機の右腕の装甲を剝ぎ取ってフレームを歪ませた。更に一発はスライ機の足元に着弾し、右足を吹き飛ばしてしまった。そしてもう一発はリンド機のコックピットハッチに直撃した。
しかし、なんの幸運か。不発弾だったために直撃してハッチの装甲板を歪ませただけで済んだのだった。つぶれながらも弾かれたミサイルは回転しながら地面に落ちた。と、同時に、ゆっくりとスライ機が地面に倒れこんだ。
「そ、曹長!」
〈無事か!スライ!〉
リンドがしゃがみ込み、キリルムは周囲の警戒に入る。
〈…………〉
通信を必死に取ろうとするが、聞こえてくるのはノイズばかりである。直接コックピットはやられなかったが、衝撃で死んでしまう場合もある。もしかすると……
〈伍長、ウインチを使え!〉
一瞬なんのことか理解できず、頭が真っ白になってしまったが、すぐに機体に設置されているウインチを思い出した。陸戦型ALの多くにはウインチなやサブアームなどの作業用装備が付けられていることが多い。重量物を牽引したりするためである。急いでコンパネを操作し、二基のウインチからそれぞれフック付きのワイヤーを引っ張り出して、倒れているスライ機の両肩にあるバーに引っ掛けた。
「かけました!」
〈よし、引っ張れ!〉
重ヴァルの馬力に物を言わせ、無理矢理ALを引きずる。いくらか軽くなっているとはいえまだ数重ガトンもある。リンドはスライ機を大きな窪みまで引っ張りこむと、フックを外した。
〈俺が様子を見る。お前は警戒するんだ!〉
「ハイ!」
鬼気迫る声に圧倒されるも、立ち上がると機関砲を周囲に向ける。
そばにしゃがみ込んだキリルム機の胸部装甲がスライドする。アルグヴァルの三重になっているハッチは、まず外部装甲ハッチが前方にスライド、続いて中の薄い装甲が張られたフレームハッチが上に開く。そして一番内側のコックピットハッチが下に開いてようやくコックピットが現れるようになっている。
目の前にあるスライ機の胸部に飛び乗ると、緊急用レバーを捻ってハッチを強制開放させた。
「スライ、頼むぞ……」
苦い顔で、彼はコックピットを覗き込んだ。
アルグヴァル砲撃型:全高16ミラス(頭部延長アンテナ含む) 重量:120ガトン 中距離砲撃仕様のアルグヴァル。内外各所が砲撃仕様に改装されており、外的特徴としてはバックパックから生えた100㎜砲と頭部の長いアンテナ、高性能レーダーである。三種の砲弾を標準装備しており戦況によって使い分ける。装填は基本的に音声で行う。OSは重装型同様に完全に射撃用にされているため格闘戦補助はまったくできない。