ワンショット
レッケはエンレルルーの元に到着するとすぐさま機体を安定させるために自動姿勢制御に切り替え、コンパネにあるスイッチを切り替えることで操縦桿の設定をより繊細なものに変える。マニピュレータで腰に懸架していた突撃銃のマガジンを一つ手渡すとエンレルルーの機体がそれを感知、自動でサブアームを展開し受け取り丁度弾切れを起こした突撃銃のマガジンと入れ替えてからになったものを今度は補給型へと回す。
補給型自体に空になったマガジンに給弾することは出来ないが、デッドウェイトとなるマガジンを非戦闘用である補給型に持たせることで戦闘を担う機の負担を減らすのである。更にあと二つの予備のマガジンをエンレルルー機のマガジンラックに引っ掛けると姿勢制御装置を元に戻し機体を後退させる。
〈ありがと、戻っていいぜ〉
〈了解です!〉
レッケはライフルと盾をしっかり構えたまま慎重に後退し建物の影で機体をしゃがませて身をひそめた。歩く火薬庫である補給型なんて被弾すれば運が悪ければ一発で大型爆弾二、三発分の大爆発を起こすのだ、戦力が足りないからと言って無理に戦闘に引きだせば反対に酷い被害を及ぼす恐れもあるのだからこれでいい。
三機のレーアルツァスは敵中に突っ込んだリンド機を中心によく戦っていた。エンレルルーもポロも初陣ながら落ち着いてやっているものだろう。一方で他の二小隊も数がまだ十分に残っていることから互いをカバーしあう戦法で、第一小隊よりも濃度が薄いながらも着々と初陣で経験値を積んでいた。
「邪魔なんだよォ!」
リンドは進行方向に現れたエザーニーエのショットガンを一発喰らいつつもお返しとばかりに機関砲を叩き込み沈黙させた。地上に積もる瓦礫を乗り越えて重レーアは進んでいく。もうすぐ砲台のそばまで近づいてはいるもののあと一歩が踏み切れずにいるのは、敵が正面で強固な防御陣地を築いているためであった。三機のALと二機のAWが最近建築されたと思わしきバリケードに陣取りこちらが顔を出そうとすると一斉に火力を向けてくる。流石の重レーアとて、今の装甲の状態とこの距離でのあの火力は躊躇してしまう。
「どうするどうする……そうだ!」
リンドは無線のつまみを捻ると回線を海上の艦隊につなげる。
「こちら第一小隊、これから伝える地点にSSBR(艦対地爆撃ロケット)の発射を要請!敵砲台がある!砲台でもその足元の防御陣地でもいい!」
〈こちら司令部、、了解した……座標を受信。直ちにSSBRを発射する〉
彼の要請はすぐさま受理され、空母を護衛する巡洋艦イザの艦首付近にあるロケットサイロの内二基の蓋が開き、順に二発のSSBRが発射された。それと間髪入れずにリンドは部下に後退と防御を命じる。
「対地ロケットがくるぞ!!後退!盾を前に構えながら後退だ!」
その切羽詰まった様子に緊急事態を察知したレッケとエンレルルーは戦闘を切り上げ急いで下がっていく。その唐突な後退に敵は不自然さを感じ空からの攻撃が来ることを察知したが遅かった。
まず上に向かって飛んで高度を得た弾頭はすぐに水平、そして地上へと先を向けるとまっすぐ目標上空へと飛翔。白煙を引いて短距離を飛来したロケット弾頭は設定された高度に達すると起爆した。
起爆と同時に内部に格納されていた無数の小型爆弾が地上へとばら撒かれ、周囲一面無差別に着弾、それに伴い辺りを焼き尽す大規模爆発を生じさせる。念を入れて二カ所に撃ち込まれたロケット弾はリンドの期待した通り敵陣を破壊しつくした。
「よし。全機無事か!」
〈こちらエンレルルー無事であります!〉
〈レッケ兵長、大丈夫です!〉
〈ポロ上等兵無事であります!機体に異常ありません!〉
よし、ともう一度彼は声に出してまた部下が失われなかったことを噛み締めるように頷くと、慎重に進むように指示する。
「敵が残っているかもしれない……」
〈ハッ!〉
彼は向こう側を焼かれた何かしらの建物であったものの横をゆっくりとした足取りで通過していくが、あたりは爆発によって生じた噴煙のために視界は死んでおり舌打ちをしてサーモグラフィをオンにする。
だが彼はまたしても舌打ちすることになる。爆発による熱と周りのものが燃えている炎とのために全てが赤く高熱に映るためにサーモグラフィも通用しないのだ。仕方なく通常のモニタ映像に切りかえると、ライトをつけてみたものの焼け石に水のようだ。
「視界が悪い、気を付けろ」
もう少し待ってから突入すべきだと後悔したが、今更だと考えそのままペダルを踏んでいく。するとリンドは前方に大きな影が見えたため咄嗟に機関砲を構え引き金にかけた指に力を入れかけたが、すぐに吸い込んだ息を吐きだす。モニタに映ったのは、爆撃によって撃破されたALの残骸だったようだ。二機のALが折り重なるようにして建物に寄りかかったまま力尽きていたので、巨大な謎の兵器に見えてしまったらしい。恐怖は時に人の想像力を増幅させるのだろうか。
(そういや、セレーンってたしか心理学について学んで)
つい恋人が学校で学んでいたといっていたことについ連想してしまったのがまずかった。戦場では一瞬の油断が命取り、なんとまだ今の二機の内一機が生きていたのだ。至近距離で短距離ロケットを食らった重レーアは爆発に飲まれその勢いのために背中から地面に倒れこむ。
「っぐあああ!!!」
〈隊長!〉
〈何が起きたんです隊長!無事ですか!〉
リンドの叫び声を聞き恐怖に駆られる部下たちだが、それに対する返事はない。ただノイズばかりが無線に流れてくるだけだ。
当のリンドはと言うと、コックピット内にけたたましくなり続ける煩わしいアラートに、まだぼんやりとする意識のためにそれを確認することも出来ずにいた。重レーアの装甲は見事に彼を至近距離で食らったにもかかわらず爆発から守ってはいたものの流石に衝撃を殺しきれはしなかったようで、軽い脳震盪を起こしていたリンドは感覚のない手で何かをつかもうと宙を掻いていた。
「……う、あお……おお……く」
呂律もよく回らないが、ぼやけている視界に映ったのは薄らいた粉塵から覗く薄汚れた空であった。爆発によって粉塵が吹き飛ばされたために見えた空だろう、彼は兎に角起きることを念頭にうろ覚えの手順ながらも機体を自動で立ち上がらせるコマンドを入力した。
(あってるかな……)
彼の不安を払うように、体が浮き上がり徐々にコックピットの向きが変わっていくのを感じたリンドは、ほっと一安心したがすぐに自分が攻撃を受けて倒れたことを思い出し、おぼつかない手で操縦桿を握り直す。
「クソ、クソ……うー……あーダメだ……この、この!」
メットを叩いて頭に衝撃を与えると左腕に抱えた機関砲を敵に向けるが、敵機は虚空に向けてロケットバズーカを向けたまま動いた気配は無くどうやらリンドを撃ったと同時に力尽きたらしい。敵ながら最後の力を敵を倒すために使った、勇敢な心を持ったこの名も知らぬ異国の兵士に敬意を払わざるを得ない。機関砲を下ろそうとしたところで、左方から大きな足音と共にエンレルルーのレーアルツァスが近づいて来るのが確認できたので、無事であることを伝える。
〈よかったであります……あ、隊長機関砲が〉
「え?」
視線を機関砲に向けると彼に言われるまで気づかなかったが、左の機関砲は銃身が根元からひん曲がり弾倉も数発分のベルトを残して脱落していた。どうやら機体にロケットを受けた際に近かったためにその余波を食らってしまったようだ。
「やってくれるよ……ったく」
彼は機関砲を放ると、代わりに背中に懸架していた突撃銃を取ったがそれも思い切り見て取れるほどにひん曲がっていた背中から倒れた時に潰してしまったらしい。それも投げ捨てるとレッケとポロに合流するように伝えた。
「砲台の状態を確認する」
〈了解!〉




