一つの盾
進行してくる同盟軍を阻止するために基地の海岸には即席で作られた砲台や仮設トーチカ群が降下してきたALを迎え撃つ。始めからこの基地に建設されていた正規の沿岸砲台やトーチカなどはその半数が爆撃隊によって破壊されており基地守備隊は反復して爆撃が行われるたびに出来る限り砲台を立て直していたのだ。そのため、この基地は彼らの粘り強い努力によって未だ強固な防衛力を保っており決して同盟軍の爆撃機隊がおろそかな仕事をしたわけではないということを、彼らの名誉のために伝えておきたい。
そんなことはつゆ知らず、リンド達空挺部隊は熾烈な火線にさらされつつも根性と装甲と火力とに物を言わせて無理やり前進していた。
なぜなら彼らには止まっている時間がない、一つは一刻も早くこの動きを制限される水中から抜け出さなければならないということと、もう一つがより重要で強襲揚陸艇四十艘が歩兵師団や工兵、戦車隊、また補給物資などを積んで上陸すべく、もうすぐ後方にまで迫っているのだ。彼らこそこの侵攻作戦の主戦力であり、彼らが無事上陸できるよう強襲揚陸艇が着岸できる橋頭保を確保するのが、彼らの最重要事項であったためだ。
リンドの第一小隊の右翼側で展開している第二小隊と、六百mほど左前方で隣の港湾施設を攻略するために降下展開した第六小隊も第一小隊同様に奮戦しており、彼らも同様にそのほとんどがこれが初陣という年少の兵士ばかりだが第一小隊と異なり降下にほとんどが成功していたため本来の連携をぎこちなくも行いつつ着々と前進していた。
どうやら自分たちは相当貧乏くじを引かされたようであることに気づいたのはリンドだけで、部下たちは余計なことを考える精神的余裕など、今はまだ持ち合わせてはいなかった。だからその分、考えなければならないことがあるのならリンドが補ってやらなければならない。
やがてリンドは部下の機体の上半身が出きった頃合いになったところで部隊に停止を命じる。
「全機停止!」
数歩の後、残った四機のALが足を止め続くしゃがむ号令によってリンド機以外がしゃがんだ。
「レッケ兵長、すぐに機関砲の予備弾倉を渡せるように」
〈あっハイ!〉
レーアルツァス補給型にのるレッケ兵長は、少し動いてリンド機の背後に回ると操縦桿を持ち替えて物資補給用アームの操縦桿へと握り替えていつでも持ち運んでいる弾薬を渡せるよう待機した。
「五人の仇だよお!!くたばれ畜生どもがああ!!」
リンドは一斉射用の全兵装をアクティブにすると、一斉射用のトリガーを押した。ガトリング、ロケットポッド、機関砲に速射砲が一斉に荒れ狂う様はさながら世界的に有名な神話『ヴェー』に搭乗する海の神ザロバロが古代にあったとされる海上都市ヴィルガーエーピレーを一夜にして押し流してしまったとされる嵐のようであった。重ヴァルの時よりも搭載武器の増えている重レーアのために一斉射が行われた瞬間小隊の収音マイクはキャパシティを越えたために破損を防ぐための非常装置が働いて一時的に機能が停止し、また海面は二mも三mも重レーアの周りへと押し飛ばされてレッケ兵長たち近くにいた機体はしゃがんでいたことも相まって、頭頂部まで再び海水を浴びたがために海中に沈んだのかと錯覚してしまったほどだった。
数千発の弾薬が数秒で消費され、ガトリングの連続使用限界が来るとガトリングを停止しロケットの弾頭が少しを残して閉じられても、機関砲だけは撃ち続けた。途中弾が切れリンドの合図でレッケ兵長が機関砲のマガジンを交換する。
こんな状態でもスムーズに弾倉の交換が行えるのは補給型特有の作業用アームのおかげで、シェーゲンツァート帝国軍の使用するAL用弾倉やコンテナ、武器等には全て特有の認識システムと電磁石が備えられており、同じものが埋め込まれたアームの先端とが接近すると自動で認識、磁石を起動の後弾薬などを安全に持ち上げられるようになっている。そのため新兵であるレッケでも落ち着いて確実に補給作業ができたのだ。
銃身が熱くなればその都度海水に突っ込んで荒っぽく冷やしそのたびに大量の水が一気に蒸発させられる大きな音が鳴る。本来であれば沿岸での使用を想定していないこの機関砲を海水に突っ込んで冷却するなど蛮行極まりなくもってのほかで、整備士が見れば顔に手を当てかねないがこういう非常時にはそのような悠長なことは言ってられずもとより長期の使用は想定していない。リンドとしてはこの攻略戦で使い潰す腹積もりでいたのだ。それに、もう既に一度全体が海水に浸かってしまっているので今更のことである。
繰り返し行われた一斉射時間にしておよそ三十秒という短い間ではあったが、沿岸の防御陣地を粉砕するには十分な猶予であった。第一小隊、第二小隊そして第六小隊それぞれに編成されている重装型の猛攻により沿岸防御陣地はあらかた破壊されきっていた。残りは内部に残る陣地や兵力の掃討だけになる。
リンドは地上からの迎撃の砲火が極端に減ったことを確認すると再び小隊に前進を指示した。
「全機前進!指示は良く聞け!」
〈了解であります!〉
〈ハイ!〉
小隊は再度前進を開始、不慣れな小隊員達もリンドの決死の攻撃のおかげであれから一機の損失もなく順調に浅瀬へと進んでいた。その代わりにリンド機は一身に攻撃を受けており、正面装甲には既に百を超す被弾痕が刻まれていた。




