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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第二章 舞い降りる機動要塞
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飛翔

 漸く第四遊撃小隊が集結した。指揮官型、中装型×2、砲撃型、そして重装型。タイプの異なるアルグヴァル五機がそろった。

〈まずこの3B地点の戦車陣地を叩く。それからそのまままっすぐ突っ切って重砲陣地をつぶした後に指揮所を制圧する。いいな。行くぞ!〉

 素早く簡単に指示を受けると、スライ機を先頭にキリルム、ジュードル、リンド、そしてヴィレルラル機が続いた。

〈オラオラ!失せろやゴミ粒ども!〉

 見た目通りの言葉を吐きながらスライのアルグヴァルが二丁の突撃銃をばらまいていく。そのあとに続くキリルムとジュードルがセミオートで撃ち漏らしを潰していく。支援機であるリンドとヴィレルラルは特にすることがなく、得物を抱えて警戒しながら全速力でついていった。

〈おいキリルム、砲兵の火線にかぶってるんだとよ!〉

 通信の主は第六小隊の隊長機だ。キリルムはマップで位置を確認するとすぐに小隊にコースの修正を指示した。

〈すまん、ちょっと寄り道したくてな〉

〈ほざけ〉

 笑いを含んだ声で、相手は罵倒した。疾走する五機のALは左へと進路を変えつつも敵を蹴散らしていく。

 キリルムはどうにも敵の数が多いことに気づいていた。もしかすると今日攻勢をかけようとしていたのかもしれない。少し遅れていたらシュクスムの戦線は破られてうっかり敵陣のど真ん中に降下していたかもしれなかった。

〈あそこだ、敵戦車群見えたぞ〉

 スライが突撃銃で十一時の方向を指した。全員のモニターにも多数の戦車が映っている。

〈出番だぞ伍長。出ろ!〉

「ハイ!」

 小隊は停止すると、今度はリンドが小隊の先頭に立った。今から敵弾を一身に浴びる。やはりこの時ほど恐ろしいことはない。しかしこれが自分の役目なのだ。だからこそ他よりも多めに危険手当をもらっているのだ。その分の働きをしなくてはならない。家族のため、仲間のため、そして祖国のためにも。

〈五、四、三、二、一、撃て!〉

「くたばれチキショウ!!」

 重ヴァルの背中から二基の巨大なガトリング砲が展開し、同時に内臓された機銃も起動する。そしてリンドは同時操作のコマンドを入力すると、トリガーを引いた。

 嵐が吹き荒れた。生身で聞けば鼓膜を突き破って余りあるほどの轟音がたった一機のALから放たれた。毎秒数百発の大小の銃弾が敵戦車陣地を舐めた。右から左へと掃射された陣地は、平坦だったことすらわからなくなるほどに姿を変え、直前まで戦車が三十輛ほどいたと言われてもわからないほどになった。それでも敵の攻撃を浴びるリンド。80㎜の砲弾が重ヴァルの正面装甲に穿たれる。徹甲弾が突き刺さっては装甲を破るに至らず、停止した。

 キリルムのもういいという声でようやく、握りっぱなしの操縦桿から両手を放した。そして自分の目の前に広がる光景に目を奪われた。

「嘘だろ……」

 前回は主に要塞の壁を破壊することが目的であったため、敵を直接薙ぎ払ったりはしなかったこともあり今回のように敵兵を文字通り吹きとばしたという実感はなかった。そのため今眼前の景色は地獄絵図としか言いようがなかった。

〈いい腕だ。うん〉

 ジュードル達が励ます。

「は、ありがとう……ございます」

 それでも端のほうにはまだ生き残っているものがおり、残りの後片付けをキリルムたちが行った。

 空転しながら銃身を冷やすガトリングがガラガラと回っていた。



 同時刻、東ビゲールス海を航行するオースノーツ海軍所属の空母機動艦隊から次々と機体が飛び立っていた。目的は六十km西にあるクラーム平原で戦闘を繰り広げるホーカム=アリーヤ軍支援のためである。二隻の大型正規空母から飛び立っているのは五十八機ものマッカラン爆撃機と二十機のミナイト戦闘機、そして三十機のALであった。

 ALが世界に浸透して早10年、初期と比べ大きく発展してきたが単独での飛行が可能なALはほぼおらず、大戦を通しても十五、六種ほどしか現れず、正式量産されたものに至っては五種ほどであった。理由はALのような重量物を十分に飛行させられる動力を小型化することができなかったためである。また、空力性能が航空機と比べ大きく劣り、空中での操縦性も悪いALを飛行させるだけ無駄だという考えが一般的だったためである。事実、飛行型ALは飛行させるために軽装甲であることが多く、それに加えて的が大きくまた速度が遅かったため撃墜されやすかったのだ。それでもなお研究を進め、正式化させられたのはオースノーツのような豊かな国であったからこそであった。現在空母から飛び立っているのは九割九分がミスールという戦闘爆撃ALである。爆撃後は低空で銃撃を行うか、着陸してから陸戦を行う。或いは帰投するかである。グレーで彩られたこの天使たちの中に、一つ、目を引く白い機体があった。それは今まさにエレベーターから甲板に上げられている最中である。

 その機体は流れるような流線形の中にところどころ直線を持ち、機体の各所にはコーションマークや注意書きを示す文字が書き込まれていた。美しさにまだ少し欠落した部分があった。

〈特務中尉、その機体の試験はまだ半ばだ。傷つけるなよ〉

 男の声が通信機からコックピット内に響く。白の薄い耐Gスーツに身を包んでいるパイロットは頷くと、機器のチェックを続けている。試験機である本機は正式機とは異なり人間がしてやらねばならないことが多かった。パイロットが複数のスイッチを跳ね上げると背中の二対の翼が、ゆっくりと展開し始めた。甲板に対し水平にならんだ大小のそれはフラップを上下に動かして動作を確認している。これから今日も空へと上がり、人を殺す。空に舞う白き死の天使のことを、彼らはグライフと呼んだ。

〈本日の東ビゲールス海及びクラーム平原の天気は晴れ。ところどころ大きな雲にご注意ください〉

突然機械音声が流暢に今日の天気を述べた。

〈中尉、本当にそのAIは必要かね〉

 グライフを搭載している空母シャッカムの艦長が顔をしかめて尋ねると、パイロットはまた頷いた。

〈わかった。変なものを載せる……〉

納得いかないような声で艦長はそうぼやくと通信を終えた。

 四機のジェットエンジンが徐々に回転数を上げ、空に飛び立たんとしている。あとはカタパルトから放たれればグライフは空を舞える。

 機外で調整を行っていた技術試験課の技術員たちが離れ、艦の甲板員が離陸の合図をする。

〈それでは今日も愉快に殺してまわりますか〉

 AIの声と同時にカタパルトが加速した。急激な加速と共にグライフは射ちだされると、艦を離れ、大空に飛び立った。試験機ながらも重さを感じさせないその動きは、オースノーツの技術力の高さを如実に示していた。


キマッス中戦車:ホーカム=アリーヤのMBT。大戦を通じてアリーヤと近隣国で使用されたためバリエーションが多い。クラームの戦いで運用されたのは主に中期型の80㎜砲を搭載したもの。小国でありながら同国を参戦から4年も戦闘継続させられたのはこの戦車のおかげといっても過言ではない。また同国兵士の練度が高かったことも起因している。


サイネルルス:全高13m 重量90ガトン アリーヤ及び隣国スナフ、ジンロッカの共同開発AL。全体を曲面装甲で覆ったAL。非常に独特な外観をしており見た目はあまり強そうではなくどちらかというと不気味である。しかし装甲が湾曲しているうえに最低でも90㎜の装甲を持っているため悪魔的に防御力は高い。しかし重量が仇となり鈍重でまた関節の負荷が少々大きい。しかしほぼALを持たないシュクスムやギスム共和国に対しては十分すぎるほどの脅威を保ち続けた。


グライフ:XF‐19/5 試験機のため正式な型番を持たない。全高17m 乾重量59.5ガトン オースノーツの次期主力飛行型ALの試験機。大型のALで、真っ白に塗られたその機体は敵味方問わず戦場の目を引く。合計八機が生産された。本機はそのうちの五番機。謎が多く目撃した敵は多くが命を落としているため全貌がつかめておらず、噂上の存在とも言われている。試験機であるが現主力のシュリーフェンに劣らない、実戦に耐えうる性能を持つ。また複雑になったALの操作補助を行うためのAIを試験投入していることも特徴。

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