シェーゲンツァート帝国空軍第一機械化混成空挺師団第一AL連隊バルマニエ大隊所属第一AL小隊
ミストライト海沿岸部、ここに同盟軍の空挺部隊がフィルーエーアー海軍基地攻略のために集結し降下開始まで目前となっていた。
輸送部隊は海戦が今現在も行われている南部を避け安全な航路を飛んでいる。その中に積載されている計三十機のALは敵基地に降り立つ瞬間を控えていたが、その多くはこれが初陣というヒヨッコたちの集まりで、それを率いるいくらか経験を積んでいた指揮官たちは、良い結末が初めから見えないこの作戦に胃を痛めていた。
「はあ……司令部のジジイども………」
リンドはコックピットに貼ったセレーンと家族の写真に手を翳しながら悪態をつく。やはりどう考えてもこの作戦がうまくいくとは思えない。良くて壊滅、わるけりゃ文字通り一機残らず全滅といったところか。彼はなれない部隊長の顔合わせに出て、出そろった他のAL小隊の指揮官や他の兵科の指揮官たちの顔が皆一様にどこかくらい面持ちであることに、この作戦について誰一人として好ましくは思っていないことを察した。きっと、彼も鏡を見れば自分が彼らと同じ面をしていることにも気づいただろう。
ともかく、これだけの大部隊を用意し艦隊や爆撃機隊を出したのだからやめるわけにもいかず、こうしてただ言われるがまま空の上にいるのであった。
そして、降下の時間が訪れた。海上でしきりに対空砲火を打ち上げる海防艦、それらに海中より襲い掛かる水陸両用型ALと水中型AL。海中を自由に動き回る彼らの前に、所詮水上でしか戦えぬ沿岸防衛用の小型艦艇では碌に太刀打ちすることも出来ず、一方的に沈められていくばかりであった。しかし、連合軍側もただなすすべもなくやられていたわけではなくそちらもしっかりと水中にALを投入し水中でのAL対ALの戦闘が繰り広げられていたのだ。
同盟軍オルテ共和国海軍の水中用対艦ALバ・ドラーダたちが船を沈めている間、同国の水陸両用ALフィスジャルムMk-Ⅱが彼らを守るためにイングレ王国所属のピリタピルタと三次元の戦いを水面下で繰り広げていた。
十個ものAL撃墜章と六の艦船撃沈章が塗られたフィスジャルムが二機の部下を後ろに引き連れ、敵のピリタピルタ四機編隊と交差する。隊長機がまず魚雷を放つとそれを躱すために編隊の崩れた敵にすかさず僚機が魚雷を発射、ピリタピルタ一機が直撃を受けて沈んでいく。距離が近くなると今度はトーピードライフルを下ろし左腕を構える。このフィスジャルムは左腕に水中格闘用の水圧式万力を装備していた特殊装備型であった。対するピリタピルタも脚部に大型クローを備えており向こう側も格闘戦は想定済みである。
かくして三対三の激突が発生した。フィスジャルムがライフルを持ったままの右手で相手の左腕を抑えて左腕の万力アームをピリタピルタの胴体を挟みこむように押し込むと、周囲の海水を取り込んで水圧を用い締め上げる。水中にこだまする金属の潰れていく音、しかし大概の水中での使用を前提としたALは通常の陸戦ALよりも水圧に耐えるため装甲が分厚く、中々そう簡単には潰れない。だが、それでも尚万力の力は強くギリギリと締め上げていく。
そこに負けじとピリタピルタも空いている右腕でフィスジャルムを引き剥がそうとするが、フィスジャルムの方が馬力が強いらしく引き剥がせない。そこで一気にバラスト内の空気を放出して水を取り込むと、急激な浮力の変化によって組み合った二機のバランスが狂い、若干ピリタピルタ側に傾く。その上更に目の間で二機とも包むような膨大なバラストエアーに包まれたことによりフィスジャルムのセンサーが一瞬だけ水深の認識を狂わされてしまい、パイロットが戸惑ったその隙をついてピリタピルタは離れると同時に脚部のクローでフィスジャルムの両腕をつかみ、押しつぶすように切り裂いた。
両腕を失ったフィスジャルムはその場から緊急離脱を図り、残ったウォーターポンプジェットを最大出力で噴射させ遠ざかっていく。そこに、ピリタピルタは短距離ニードルガンを放つが腕がなくなった分的の小さくなったフィスジャルムには当たることは無かった。
残りのフィスジャルム二機は、片方が万力でピリタピルタの頭部とその根元を押しつぶして撃破、もう一機はニードルガンを打たれ海底に横たわる。不利を悟った生き残りのフィスジャルムは先に後退していく隊長機を追って後退したことでピリタピルタの勝利が決まったが、ピリタピルタ側の隊長機も万力でフレームごと歪まされていたため戦闘の継続は不可能と判断し後退していった。
そんな水中戦が行われているとは知らない格納庫内のリンドたちは降下用意のブザーが鳴り響き始めたことで息を飲む。
「いいな!降下したら岸を目指しつつ俺の方へと近づいて来い!一機だけで行こうとするな!多数で行けばその分相手の弾もばらけるから集中砲火は受けないし!その役目は俺の重ヴァルに任せろ!!」
リンド自身も必死ではあったが、出来るだけ隊長として部下たちを安心させられるように努めるつもりで通信機に向かって怒鳴る。
〈はいっ!〉
〈わかり、分かりました!!〉
〈了解でありまぁす!〉
やはり、部下たちはかなり緊張しているに違いない。リンドは続ける。
「海から出るときは俺が六mほど先に進む!砲ヴァル、じゃねえ砲撃型乗りは他より気持ち隊列から下がれ!中装型は主戦力だ、兎に角盾をしっかり構えていれば大丈夫だ!補給型はレッケ兵長か?お前は最大限戦闘を避けろ!俺の後ろにいるんだ!」
〈了解!〉
半ば引きつった返事だったが、何も言わない。うまく言葉が思いつかないうちは下手に何か言って不安をあおるよりはいいかもしれない、そう判断したからだ。
(俺だってこんな初陣が水中からの上陸作戦なんて難易度の高い降下じゃあそうなる。そもそも俺だって初めてだしな)
〈降下まで残り六十!〉
シムシュカのコパイロットの声が全機に届く。対空砲火の音はより一層強まり時折至近弾なのか格納庫の外壁に金属音が鳴り響いているようだがそれで落ちる気配は無い。そして残り四十秒を切った時遂に第一、第二、第三格納庫の下部ハッチがゆっくりと重たそうに開きはじめ、彼らのコックピットに二時間ぶりの自然光が指すことで、彼らの心に余裕が少し生まれまた外への渇望が生まれる。
〈残り四十!〉
「よし、帰る!その気持ちでいろ!!戦死なんてつまら」
その瞬間だ、リンド達のぶら下がっている胴体につながる第三格納庫を貫く光が走った。それはシムシュカの前部防御装甲を貫き第三格納庫に苦も無く到達するとリンドの目の前に並んでいる二機のレーアルツァスの横っ腹をぶち抜きそのまま後部ハッチすら貫いて消えた。
次に起きたのは当然誘爆であった。不幸中の幸いか、レーアルツァスの融合炉は破壊されずに済んだため核爆発を引き起こさずには済んだものの謎の光によるものとそれによってレーアルツァス内部の燃料やオイルなどに引火、弾薬も吹き飛び格納庫内に嵐が吹き荒れる。




