クラーム平原
「なんでこうもまた……」
前回のようにまた降下中に被弾し、墜落してしまった。本当に肝が冷えるのでやめてほしいとリンドは心からそう願ったが、彼の降下は今後撃墜とは切っても切れない縁となるとは、この時の彼は思いもよらなかった。
レーダー上にはいくつもの反応がある。今回は前回のような巨木の生い茂る森とは異なり、見渡す限りに手つかずの平原が広がっている。これは攻撃が通りやすいが、ALのような背の高いものは格好の目標となってしまう。かといって市街地のような場所では隠れ兵による攻撃やトラップの餌食となりやすい。ALは戦場を選ばぬ万能兵器ではあったが、同時に得意な戦場のない器用貧乏な特徴を兼ね備えていた。
彼はすぐに手近な敵を見つけると、機関砲を構えた。まず128㎜の最初の餌食となるのは戦車であった。三輛のキマッス中戦車が、100m前方に降ってわいたALに照準を合わせる。そして戦車から砲弾が放たれるが早いか、重ヴァルの抱えた機関砲から128㎜の砲弾が雨のように放出された。85㎜の正面装甲をもつキマッス中戦車はまるで紙のようにちぎれ飛び、弾薬庫ごと乗員を吹き飛ばして原形すらとどめなかった。うまいこと撃破できたが、撃破される直前に一輛が放った徹甲弾が正確にコックピットの正面装甲に突き刺さっていた。もしあれが重戦車であればもしかすると今頃リンドはミンチになっていたかもしれない。彼は重ヴァルの装甲に感謝するとともに、相手の練度が思っていたよりも高いことを思い知った。
〈伍長、急いで合流しろ〉
「ハッ!」
ペダルを踏み込んで機体を前進させる。集結地点はこれよりさらに右に300mいったところにある。子の位置からならほぼ真右にあるためまっすぐ右に行く必要があるが、そのまま右向け右して側面を晒せば、いくら重ヴァルとは言えど側面装甲はさしたる重装甲ではないため、撃破されかねない。それでも並みのALの側面よりよっぽど分厚いのだが。が、ここでまたALが人型兵器であることの利点が応用される。
リンドはちょいちょいと操作をすると、なんとアルグヴァルは下半身が右を向いたまま、上半身だけ九十度左、つまり敵に正面を向けたまま走り出した。生身の人間であればこうはいくまい。機種によるが機械であるALなら人間にはできない動きをすることができる。やろうと思えば上と下で百八十度別方向を向くこともできるのだ。重ヴァルは装甲が干渉するためできないが、頭部を三百六十度回転させたり、正面を向いたまま後ろに腕を曲げて精密に銃撃することも可能であった。
「なかなか、多い!な!」
懸命に大きくぶれる照準を合わせようと試みるが、どうにも合わない。そこでいっそのことと、狙うのをやめばらまくことにしてみた。すると機関砲の精度とマッチしたのか、寧ろ弾は収束されていった。機関砲の雨を浴び、アリーヤ軍は文字通り粉々に破壊されていった。
「よし!」
そこに丸みを帯びた外観のALが四機、起動しているのが見えた。慌てて起動したのか、まだ膝をついた状態のものもある。これはチャンスである。リンドはロケットのスイッチを入れると、敵ALめがけて一基分のロケットを撃ち込んでやった。瞬く間に着弾したロケットは敵兵ごとALを爆破してしまった。炎の中にまだ動く影が見える。生き残りがいるようだ。ロケットをつかうのはもったいないので機関砲で仕留めようと構えたところで、別方向から攻撃が浴びせられ、残りも炎の中に機影を没した。
攻撃の元に向くと味方のALや戦車から放たれたものだということが分かった。ALの一機が手を上げて合図してきた。
〈よう、生きてたな〉
「ジュードル軍曹!」
ジュードル軍曹の中装型アルグヴァルである。見れば軍曹の後ろに恐らくヴィレルラル軍曹のものと思わしきアルグヴァルも見えた。
「曹長と隊長はどこです」
リンドは安堵し、まっすぐ二人のもとへと合流する。
〈もうついてるだろ。ほら〉
ジュードルの指した方向にはなるほど確かに二機のALが銃撃しているのが確認できた。
〈いくぞヒヨッコ伍長〉
「わかりました」
三機のALが、一番足の遅い重ヴァルに歩調を合わせて先に到着している仲間のもとへと走った。まだ不慣れな新兵の重ヴァルを挟むように二機の中ヴァルが動き、牽制射を行う。さりげない連携はこの二人がそれだけ戦場を渡り歩いてきた証拠にほかならないだろう。




