希望の星
マルーツス基地包囲網は更に狭められていく。可能な限り常に万全の状態に保たれ、損失も少なく抑えられていた基地のALも半数以上が撃破されており多勢であった基地側も最早無勢となりつつあった。
あちこちに損傷を受けているもののいまだ問題なく作戦行動を遂行しているジュードル機は、ただ黙ってライフルと対地機銃で地面を這いまわる虫けらどもを虱潰しに掃討し続けていた。
コックピット内で、ただひたすらにペダルを踏んでゆっくりと機体を進ませつつトリガーのボタンを押し続ける彼の目は、光を失っていた。失明の比喩などではない、彼の目は今も憎き敵の姿をはっきりとモニタを通して捉え続けている。
彼はこの一年ちょっとで尊敬する隊長、気の知れた仲間、そしてまだ若い危なっかしくてしょうのないかわいい兵士を二人も失った。特に、この作戦において失われたリンドとフルーの二人が彼の荒み続けてきた心に拍車をかけたらしく、いつもの勢いなどどこへやら、マシーンの如く殺し続けていた。
当然、捕虜はあれからとっていない。手を上げて投降の意思を示した敵兵は皆殺してきた。機銃、ライフル、踏み潰し……とにかく復讐してやりたかった。
敵の攻撃は全て盾が受け止めてくれているため、自分は安心して攻撃に専念できるが、ただ数百発の大小の攻撃を受け続けたために盾もあちらこちらに破れが生じてき始めている。そろそろ捨て時だろう、そう思った矢先に向こうから彼の機体を狙った狙撃が。
『うおっ!?』
狙いは外れて盾に命中してくれたのはいいが、よろめいて横の残骸に腰を突く羽目になった。
『クソッたれ……』
悪態をつきつつ被弾した盾に視線を移すと、被弾箇所から思い切り盾は食いちぎられており上半身の一部くらいしか隠せそうにないようなありさまと化しており、不覚ため息をつくと機体を起こし盾を前に突きだしつつ走る。遮蔽物に身を隠す前に肩のアーマーに一発掠めたような衝撃が走ったがそれで速度は落とさずに、しかし急に彼は立ち止まるとスラスターを吹かして一気に後方へとジャンプした。その予想外の動きに、狙撃の主は上手く照準を合わせることが出来ずそのまま建物の向こうへと消えていく彼の機体を見送るしかできなかった。
「無事か、軍曹」
すぐ後方に部下の機体が着地したのを確認したボルトラロールは敵の動きに注意しつつ足を止める。
『ええ隊長。狙撃手が恐らく……このポイントでしょうね』
と、ジュードルはAIの予測した敵の狙撃位置を彼に送信すると、ボルトラロールの機の小モニターに二カ所の点が表示された。
「わかった。こちら第四小隊、砲撃隊、転送したデータの地点に砲撃の要請。狙撃手潜伏と見られる」
『……了解、砲撃要請を受領したザザーッ……』
急に砲撃部隊との通信にノイズが走り、雑音しか聞こえなくなったので通信施設が破壊されたのかと思ったがそれが違うことを後方から起こった大爆発が示していた。陣地より東側の山岳部、木々の間から覗くのは複数のALの頭部や上半身だ。
『隊長!』
「砲撃隊だ!あの場所!」
彼の言う通り、爆発が起きたのは砲兵陣地が展開している地点であった。あそこはここいら前線からは数kmは離れていたはず、その上敵は基地に貼り付けにされているため気づかれずに基地から抜け出して砲兵陣地を急襲することは出来ないだろう。ということは……
「増援か!?」
ボルトラロールは血の気が引いていくのがわかった。増援自体は別におかしなことではないし戦場では常だ。だが今回の作戦上敵に増援が来たことは無かった、それはこの国は現在手薄となっているため各地に散らばった敵が戦力を投入できず、またしようにも同盟軍航空部隊の果敢な防御によって敵の増援を未然に防いでいたためだ。それが今ああしてやられているということは制空権を突破されたということなのか。
「まずいぜこれは……司令部応答を。司令部」
まず先に司令部に連絡を取ろうとしたが、こちらはこちらで無事ではあるものの突如砲兵陣地が吹っ飛んだことで大わらわとなっており、そちらの対応に忙殺されていた。それどころか、陣地がいきなり攻撃を受けたことで動揺した味方部隊の動きが乱れ、それを好機ととらえた基地守備隊は各個撃破に入り始める。
「こちらボルトラロール少尉!総員前線に集中しろ!陣形を崩すな!!」
彼は指揮系統の乱れをどうにかすべく全部隊にそう呼びかけるが、中々全部隊が混乱を沈められるわけもなく、冷静さを取り戻した部隊は再び目の前の戦いに意識を向けられたがそうでなかった者、遅れた者は無情にも攻撃を受けて散っていった。
『隊長』
ヴィレルラルの呼びかけに、ボルトラロールが砲兵陣地を拡大すると敵のALが陣地を掃討している中でも残存する兵士たちが果敢に応戦しているのが見えた。しかし、照準合わせから装填、発射といった一連の動きに時間のかかる砲兵は撃つ前に撃破されていく。司令部は一部の戦車を後方に呼び戻そうとしたが、既に基地深く入り込んでいるためそう簡単に戻ることも出来ない。このまま砲兵陣地が壊滅せしめられ挟み撃ちにされるかと危ぶまれた時であった、稜線の向こうから光る雨が水平に敵ALに向かって伸びたかと思うと、その雨を受けたALは見るも無残な鉄屑となりその場に倒れた。それが更にもう一斉射、次のALを倒すとお次はまだ山から下りきっていないALたちに向かって掃射する。
『隊長!ありゃあ……』
ジュードルは信じられないといった声色でそう呟く。
「ああ、あんなふざけた火力は……あいつしかいない」
彼らの予想は的中した、稜線の向こうからゆっくりとした足取りで頭を覗かせるよりも先に大きなガトリングを覗かせたのは、一機の重ヴァルであった。徐々に全身を現した重ヴァルはあちこちに被弾を受けており特に脚部に酷いダメージを負っているため脚を引き摺っているが、それでもその火力は健在であり、二秒もあれば一機のALを破壊していた。
『ズズズ……ザザーッ隊……やった!……っと着い……やっ…ぞー!!……』
ノイズ交じりではあるものの、小隊用の通信周波数から聞こえてきたのはほかならぬリンドの声である。
『嘘だろ……生きてたのか!!』
死んだような声色だったジュードルの声に途端に火が入ったかのように喜びの声が上がる。嬉しいのは彼だけでなくボルトラロールやヴィレルラルも同じで、戦意を取り戻した彼らは百mほど後退しつつ彼に呼びかけた。
「リンド!ここだ、信号の地点を!」
ボルトラロールはリンドが気づいてくれることを祈りつつ、自分たちのいる場所を示すマーカーを打ったマップデータをリンドに送信した。すると数十秒の後、一瞬重ヴァルの火線が止んだかと思うと彼は進路を仲間のいる方向へと変更したのだ。
「よし!希望が見えたぞ!小隊ここを何としても死守!!」
『おう!!』
同盟軍に、勝利の光が見えたかもしれない。




