鋼鉄のマント(3)
ボルトラロールは敵の思惑くらい簡単に察していた。倒れて動かぬジュードル機に止めを刺さずにいるのはどう考えてもスナイパーが救助に来た仲間を撃つために決まっており、分かりやすい罠に引っかかるような間抜けではない。それでもやはりジュードルのことを想えば内心は気が気ではないのは確かではあったが。
〈隊長!軍曹が!〉
まだまだ一年目のテルペヴィラは撃破されたジュードルのことを助けに行きたいらしく、彼に呼びかけてくるがそれを罠だと思いとどまらせる。
「クソ……」
味方のALや戦車隊も、野砲も救出を支援できるほどの余分は無くそれに敵の狙撃手の位置がわからなければどうしようもない。狙撃手はそもそもまだこちらを狙撃してすらいないため、どこにいるのかもわからない。誰かが一発目の囮となる必要があるということだ。
ボルトラロールは隊長であるためそれでもし失われるようなことがあってはいけない。テルペヴィラのような若者かつ経験の浅い者に背負わせるには重く、ヴィレルラル機もテルペヴィラ機も砲撃型換装しているために砲撃時に機体を安定させるための脚部カウンターウェイトによって即座の機動がおぼつかない。ここは本来なら敵の攻撃を一身に受けられるだけの重装甲を持つリンド機が必要なのだが、いない。生死不明、捜索に出た航空機から発見したという連絡もないが道中のところどころで戦闘の跡と黒煙などがこの場所に向かって徐々に伸びているらしいということから、リンドが生きている可能性に希望を見出しつつ彼の到着を待った。
今回の降下作戦に重ヴァルは彼の機体一機のみなのだ。実は、もう残りの生粋の重ヴァルとそのパイロットはリンドを除くと僅か一名しか生存あるいは戦線に出られる状態ではなく、二年前までは三十名いた重ヴァルパイロットはこの二年間でほぼ絶滅していたのだ。理由は言うまでもないだろう。
どうすべきか悩んだ末に、彼は一つの決断をした。
「ヴィレルラル軍曹、俺が救出に向かう。援護射撃を」
〈……了解〉
ボルトラロールの覚悟にヴィレルラルは男を見た。ならばその命懸けの覚悟には自分の命を懸けて向き合わねばなるまい。ボルトラロールは一旦銃をラックにかけて両手を自由にすると、股間部分についているワイヤーウインチからワイヤーを引き出し始め、先に直径十mほどの輪を作るとそれを片手に、もう片方の手に置いたライフルを取り前へ歩き出した。
「こちらボルトラロール機、被弾したジュードル機の救出に向かう」
そう告げると当然司令部からはそのような危険かつ身勝手な単独行動は許可出来ないという不許可が下されるが、彼はこの作戦において一人のパイロットも一機のALも出来る限り減らすわけにはいかないという主張で無理やり突っぱね、一気に機体を走らせる。コンクリートの地面は抉り削られ、関節からは潤滑油が地面に迸る。大きな駆動音と地面を蹴る音を上げながら彼は未だ止まぬ敵の砲火の中へと突っ込んだ。
「もってくれ!」
コックピットに被弾の甲高い音が何度も響き渡る。指揮官型は中装型をベースとしているが正面に若干の増加装甲と腕部にガントレットシールドを火炎放射器の上からかぶせているため、ジュードル機の中装型と比べれば幾分かないよりマシ程度の装甲が付与されている。それらが破られぬことを祈りながら彼は必死に自機を走らせた。
〈……ん〉
後方で主砲を水平に構えていたヴィレルラルは、晴れ始めた黒煙の向こうに一機、敵のALがボルトラロール機を狙っているのを確認すると、煙が再び敵を隠すまでの僅か三秒の間に狙いを定め、そして撃った。敵機を隠す黒煙を貫いて放たれたAPFSDSは、まっすぐアンダルヴァtype2の正面を撃ち抜く。が、残念ながら若干上に逸れてしまい、胸部傾斜装甲上部に当たった弾はそのまま跳ね上がり頭部へとまっすぐ突っ込むと完全にアンダルヴァの頭部を吹き飛ばした。近距離で砲撃を食らったアンダルヴァはもんどりうって地面へと倒れこみ黒煙を上げながら動かなくなる。撃破できたかはわからないが、少なくともパイロットは無事ではないしあの損傷ではそう簡単に修理も出来まい。
「グルージャ!」
デターシアはすぐ五十mほど左で低反動キャノン砲を構えていたグルージャ機が頭部を根元から吹き飛ばされて倒れたのを目にし、すぐに左肩のワイヤーランチャーからハーケンを発射、機体に撃ち込むと自分も物陰に引っ込みつつ部下の機体を引っ張りこんだ。
「クソ……」
機体の状態を間近で確認した彼は、グルージャ兵長が助からないことを確信した。アンダルヴァはコックピットが胸部でも上の方にあり、頭部ユニットの下部がすぐコックピットの上に来ている。グルージャ機は完全にその下部を抉る形で撃破されていたためコックピットブロック上部が完全に潰されているのが見えた。
「二人目か……」
これで遂にAL隊二人目の戦死者である、彼は拳を太ももに叩きつけると撃破されたグルージャ機からグレネードを二発拝借するとその場を後にする。敵にも優れた射手がいるらしい。
〈グルの奴は?〉
ヘルベッツ伍長の問いに彼は短くダメだったと答えると、通信機の向こうから悪態をつく声が聞こえる。
〈仇を取ってやるぞクソ同盟軍め!〉
グルージャとヘルベッツは同郷で良く昔から一緒に遊んでいたほどの中であったため、兄弟ともいうべき間柄の戦友が自分の目の届かぬところで死んでしまったことに酷く憤っていた。デターシア自身も弟を去年輸送機での移動中に失っているため、彼の気持ちは痛いほどわかった。これからも自分やヘルベッツのような者たちが増えていくのだろうと思うと、戦争というものがいかに罪深いかを思いつめる。
だが、戦わねばならないときには銃を取り立ちあがらなければならない。言葉では、平和など勝ち取れることなどないのだから。




