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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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駆け登る斧(3)

 あくる朝、リンドは目覚ましのタイマーで目を覚ますと、寝ぼけ眼をこすりながらコックピットシートについた。あれから何も起きずに朝を迎えられたのは幸運なことであったことにうつらうつらと喜びつつ目を覚ましてパイロットスーツの上着を着た。

 ALパイロットは当然それ用のパイロットスーツを着込む。国や軍、部隊によってその姿かたちは様々だが、リンド達の着ている者はFFA-2/CRAという型のもので空軍の戦闘機パイロットが着用するものをベースとして開発されている。タイプとしては非密閉式で上下に可動するバイザーと通信機がついたメットを被るものとなっている。また、航空輸送時には圧力低下による空気流出に備えて呼吸用マスクを装着するが地上ではエアホースが通信などの妨げとなるため外しての運用となっている。

「さて、と」

 リンドは一度周囲三百六十度にモニターを回し誰も潜んでいないか確認すると、次にサーモカメラに切り替えて熱量探知をかけて人がいないかを再度確認した。

「……ふうー……はあー……いない、な?」 

 熱源探知にも肉眼にも動体検知センサーにも引っかかるものがなかったためリンドは横の拳銃ボックスから拳銃を取り出し安全装置を解除すると、右手でコックピットハッチを開けた。これから短時間で機能受けた損傷個所をチェックするために。

 排気音と共に三重になっているハッチが開くと目の前に現れたのは異国の自然……ではなく男であった。

「ワーッ!!!!!」

 あまりの驚きにパニックを起こしながらリンドは無我夢中で拳銃を前方に向けてぶっぱなす。フルオートで放たれた銃弾は十三発前部が男の前面に叩き込まれ、男は血を噴き出しながら機外へと落ちていく。

「わーーっ!わーっ!!うわーっ!!!」 

 パニックの収まらぬリンドはコックピットハッチを閉めると機体を立ちあがらせ再度全周のチェックに入る。男を始末し重ヴァルが急に動き出したことで分かったのだが、何もいないと思っていた機体の周りには複数の人間が隠れていたのだ。先ほどの男は街で見た人間と似ているため、恐らくゲリラであろう。あわよくばこの機体を奪取しようなどと考えていたのではないか、身震いをしたリンドは怒りに打ち震える。

 足元では事態の急変に慌てたゲリラたちが、仲間の仇撃ちとばかりに重ヴァルめがけて小銃を撃ってくるがそんな豆鉄砲、ALには痛くも痒くもない。

「っくそがああ!ビビらせやがって!ビビらせやあがってえーーーっ!!」

 恐怖に完全にキレたリンドは、対人機銃をすべてオートマチックにするとゲリラたちを蹂躙し始めた。

「このっ!クソ野蛮人どもが!!俺はお前たちを!救いに!きたんだぞおーっ!!」

 理不尽な攻撃を受けたリンドは、孤独と恐怖によって祟っていた心労が爆発してしまい、手のつけようがなくなっていた。十数名はいたと思わしきゲリラたちは、人間に使うにはあまりに十分な威力の機関銃を至近距離で撃ち込まれ、木っ端微塵の肉片へと次々と変わっていく。さらにすぐ真下あたりに控えていた者たちも、ALの重量と巨体をもってして踏み潰し、ひき肉へとすりつぶしていった。

 ゲリラたちは逃げ惑う余裕すら与えられることなく、誰一人として生き残ることは無く、全員が身元の判別すら不明になるほどまでになり果てた。生身の人間がALに迂闊に立ち向かうとどうなるか、これを見れば明らかであろう。

 リンドは息も荒いまま、逃げるように重ヴァルを走らせてその場を後にする。戦闘の音を聞きつけ駆け付けた他のゲリラたちが目を覆いたくなる惨劇の跡地にたどり着くころにはすでにリンドは数km先まで達していた。




「はあ……はあ……はあー…………」

 名も知らぬ谷川の縁にたどり着いたリンドは、そこでようやく機体を止めて腰を下ろす。ゲリラとはいえ民間人を殺戮してきたという罪悪感が、理性を取り戻した彼の頭を苛ませ始めリンドはメットを外すと顔を手で覆いうつむいた。

「違う、あいつらが先にやったんだ……あいつらが俺を殺そうとしたから……そうだ、そうだよ……ゲリラに国際法は適用されないから、民間人を殺したことにはならない……そうですよね、隊長……ウウッ……チキショウ……」

 そう自分に言い聞かせてはいながらも、顔を抑えている手の端から涙が少しだけ流れていった。

 ああ、孤独だ……

「……とりあえず、ここなら」

 リンドは改めて周囲のチェックをし終え拳銃の弾倉を交換して片手で構えつつもう片方の手でハッチを開いた。次こそは流石に大丈夫だろう。周りには先ほどの山のような隠蔽可能な障害物は見られない。彼は息を止めてハッチが開くのを待った。

「ふう」

 ハッチの先には誰もいない。彼はベルトを外すとゆっくりと外へと這い出る。そして出入口付近に近づくと一気に外に出てしまうのではなく慎重に、まず頭の先だけをちょっと出して周囲を確認、安全だとわかるとまた少しずつ慎重に出た。

 そして完全に体を出してしまうと、横に備えられている昇降用の窪みに手足を引っかけつつ降りるが当然ハッチを閉めるのを忘れない。地面に降り立つと、今度は機体の影に隠れつつ周囲の安全を直に確認して目の前の川の傍に膝をついて顔を洗った。冷たい水が顔を引き締めてくれ同時に涙を流してくれる。彼はパイロットスーツが濡れるのも構わずに水を荒々しく飲み干した。この際水の汚染度など調べている余裕などない、兎に角水を体が、心が欲していた。

「はあ、はあ……」

 やはり外国の水は少し違うなと口を拭いながら顔を上げた川の向こう岸に、一人の老人が立っていた。

「しまっ!」

 油断していた。現地人に見られてしまったようだ。咄嗟に傍に置いた拳銃をとり構えようとしたところで、老人がこちらに向ける視線に敵意がないことをなぜか瞬間的に察した彼は、銃口を向ける直前で止めた。シェーゲンツァート人とはまた違った系統の茶色い肌を持つ杖をついた老人の背後には、シェーゲンツァートにはいない種類の中型の家畜たちの群れがたむろしており、放牧をしている最中だと察する。

「エダバロ レバ」

 老人がチャッカンマの言葉を彼に向かって発したが、何を言っているのかさっぱりわからない。戸惑っているリンドを置いて、老人は彼に背を向けて川沿いに上っていってしまった。呆然とその後ろ姿を見つめていた彼に、時折老人は振り返りつつ進む。その先には良く見ると村のような集落が見えた。

(ついて来いって……?いや、まさかな)

 そんなフィクションのような出来事が起きるわけがない、一度はそんなことを考えた自分を笑ったが、それでも自分の直感がそうしろと言っているような気がして彼は重ヴァル乗り込んでその後を追った。とはいっても、家畜たちを驚かせぬようゆっくりとした速度で。

 不思議と落ち着いていた彼はコックピットハッチを開け放ったまま機体を村の近くまで歩かせると、程よい茂みに機体を座らせ岩肌に背中をつけた。そして機体にロックをかけリュックに荷物を詰め、拳銃をベルトのホルスターに、そしてライフルを肩からかけて機を降り、老人を追って走った。

 そんな彼を見て老人は少しだけ目を丸くするとすぐに元の表情に戻り、彼を後ろに従えるようにして村へと戻っていった……

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