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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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駆け登る斧

 リンドの操る重ヴァルは、今必死にチャッカンマにあるヘルメー・チョイ・ラッペ山の斜面を駆けあがっていた。ガソリンエンジンが猛烈なうなりを上げながら百ガトンをゆうに超す超重量物である重ヴァルの機体を持ち上げる。重ヴァルが走るたびに土が深くめくれ上がりどこをどう通ったのが丸わかりであるが、それ以前にまずレーダーに映ってしまうため、大きな問題とはならなかったのでリンドは気にも止めずひたすらに機体を走らせたのであった。

「くそ、走らせづらい!」

 リンドはすべる機体に悪態をつく。以前戦場となった山地は岩肌のむき出しとなった山であったためALの足もうまく引っかかってくれたのだが、この山は土と木々で覆われているため微妙に足の接地時や地面を蹴る際に少しだけ滑るのだ。

「あーもう重いんだよ!」

 とはいえ自分が選んだ役目なのでどうしようもこうしようもないのだが、それはそれで悪態ぐらいつきたくなるのもしかたないのだった。だが、こうして斜面を全速力で登っていくことが好ましくないのはそれだけではなかった。以前にも説明した通り、多くのALは原子力の動力炉のほかに化石燃料を用いた動力を併用しておりアルグヴァルもそうだった。通常時は原子力で動かすが瞬発的に力を必要とする時には化石燃料のエンジンを用いるので、今のように斜面を駆けあがるにはその化石燃料エンジンを作動させる。しかし、原子力と違いそちらの方は燃料が有限で使えば使う程消費されてしまう。

 まだ本来の降下地点までかなりの距離があるにもかかわらず序盤から大量に消費してしまうのは可能な限り避けたい問題であったのだ。そのためリンドはちらちらとなんども燃料計を気にしてしまい気が散っていた。

 リンドは山を走りながらふと自分の作戦に思いのほか失敗があったことに気づく。登る前は遠目から見ただけであったため気づかなかったのだが周りを見渡すと、この山によく生えている木はどいつもこいつも背が低いのだ、種類を問わず基本的に。そのため木々の中に機体を隠しながら行こうという作戦は失敗し、木々から頭どころか腹部辺りまで思いっきり露出した状態でかき分けて進んでいたため、山の麓からもリンドがどこにいるのか丸わかりという有様であった。シェーゲンツァートの木は基本背の高い木であったし、初陣のシナイの森は更に巨大で見たこともないまるでビルと見間違うばかりの巨木が多く生い茂るスケールのけた違いな化け物の森であったこともあり、背丈の低い木が一般的な地域もあるということをつい失念してしまっていたのだ。

 頭どころか上半身、否それどころか巨大なガトリングシステムまで思い切り丸見えの重ヴァルを追って当然ながら敵の追撃部隊は出動する。

 レーダー後方に反応をキャッチしたリンドは、機体を動かしつつも後方カメラをズームさせると航空機がこちらめがけて飛んできているのを目にしため息をついた。

「やっぱり見えてるなあ、そうだよなあ……はあ」

 リンドはどうするか一考したのちまだ機体を止め反転させると、突撃銃をしっかりと握りストックを脇に挟んでより固定をかけると狙撃に入る。よくあるロボットものならそれ用のスナイパーライフルを用いたりスコープとカメラを連動させるために前に突きだして狙撃に入るだろうが、ALにはそんなこと必要ない。なぜなら、まず前者であるがこれに関してはそもそもAL用の突撃銃の時点で戦車よりも長い砲身から銃弾を撃ちだすため人間のそれと比べると圧倒的に安定しているため、わざわざAL用の巨大なスナイパーライフルなど造られないのだ。運用もしづらいということも起因している。 

 続いて後者であるが、シェーゲンツァート製ALの基本装備である突撃銃を含むAL用武器にセンサーアレイなどが搭載されていることは少なくない。だがわざわざ覗き込むようには作られていないのだ。何故ならそうしなくとも銃のセンサーと機体のセンサーが連動しているためである。腰だめに構えていようが後ろ向きに構えていようが、同じことなのだ。それに、可動域の関係で頭部カメラと銃のスコープが一直線になる機体のほうが少ない。ALが完全に人間と同じ動きをする必要などないのだ。

 それはともかく、しっかりと安定させた突撃銃二丁を敵航空機四機めがけて発射する。まさかこの距離で狙撃を行ってくるとは思わなかった敵の爆撃機は一機が撃破されてしまったものの残りは素早く散開し照準を合わせて対地ロケットを発射した。

「っまずい!!」

 立て続けに発射されたために六かそれ以上はある弾頭がまっすぐ彼の方へと迫ってくるが、ロケットというものが正面から見るとかなり視認しにくいことを知ったリンドは、咄嗟に対空機関銃をアクティブにしたが間に合わない。ロケット噴射によって音速で飛行する弾頭は一秒で猛烈な距離を飛行する上に、正面ではロケットは投影面積がほぼ点となり従って機関銃が命中させられる確率も減ってくる。一瞬にして爆発の炎に包まれた重ヴァルは、姿勢を崩して地面に仰向けに倒れながら斜面を百m近く滑り落ちた。

 コックピット内に鳴り響くアラートを、リンドは宙ぶらりんの状態で確認すると堅牢なはずの重ヴァルの装甲があちらこちらが吹き飛ばされて内部の中ヴァルの素体がむき出しになってしまっていることに気づき困惑する。

「何が、何を使ったんだあ!」

 重ヴァルは両手を使いながらゆっくりと立ち上がるが、そこで突撃銃がどちらも失われていることに気づき辺りを探すと、ロケットの弾着した場所つまり滑り落ちる前に立っていた場所に二丁の突撃銃の残骸が転がっているのを確認し頭を抱えた。どうやら敵は高熱を生じる特殊弾頭でも使ったらしい。

「マジかよ……」

 落ち込んでいる彼に、敵は休める暇も与えない。距離をとって旋回してきた敵機は第二射を重ヴァルめがけて発射、しかし今度は機関銃が既にアクティブとなっていたためバックパックの機関銃が二発を撃墜した。だが、もう一発は右ひざに直撃、姿勢を崩した重ヴァルは再び地面に倒れる。

「くっそおお……!!」

 右の脛周りの装甲が吹き飛ばされ関節にもダメージが及んだらしく、上手く直立することが出来ない。それでも不幸中の幸いなのは関節に直撃を受けなかったことであろう。

「まずいまずいまずいまずい………こりゃまずいぞ!クソッたれ!」

 これから野を越え山を越え長い旅路はまだ始まったばかりだというのに序盤から足をやられたのでは話にならないのだ。特に重ヴァルのような超々重量物は足を引き摺れば一点に負担がかかりあちこちが狂い始める。それくらいは重ヴァル乗りとして常識であったため彼とて知っていた。

「畜生……まずは兎に角!」

 彼は鋭い目つきで敵の爆撃機を睨みつけるとパチパチとスイッチを弄り始め、ガトリングシステムを起動した。航空機に対しては過剰すぎる火力ではあるがこの際致し方ない。薄っぺらい航空機にこいつを当てるとどうなるか知りたいという好奇心もあった。

 再び旋回して迫る敵機はロケットを撃ち尽くしていたため機関銃で攻撃を加え始める。コックピットの内部には装甲に当たって撥ねる金属音が断続的に続き、彼の神経も重ヴァルの装甲も削っていくが不思議と彼の心は落ち着きを取り戻しつつあった。

 リンドは息を止めて重ヴァルのガトリングの照準に神経を集中させる。敵機はまとめて三機いっぺんに彼の方めがけて右側面から迫り三基の機関銃を一点に集中させ撃破を図ろうとしたようだが、それが命取りとなった。重ヴァルの上半身だけを右旋回させ

「くたばりやがれええーーっ!!」

リンドは絶叫しながらガトリングシステムのトリガーを引く。数百発の銃弾が重ヴァルに伸びていくが、それを飲みこむようにより強力で大きく、大量の弾丸が反対方向から押し寄せ機銃の雨ごと敵機三機を襲った。陸上兵器と比べると軽量金属で構成されている航空機はオーバーキルとも言える威力の弾丸を無数に浴びて消滅した。文字通り跡形も残さずに、だ。

 時間にして僅か五秒ほどの斉射ではあったもののそれでも十分すぎるほどの弾丸を使用したの砲身からは煙がたなびき、発射された弾は重力に引かれて街の中へと落ちていった。きっと着弾地点の周囲の建物は木っ端微塵に粉砕されたことだろう。もしかしたら死者も出たかもしれない。しかし今の彼にはそんなことを配慮する余裕など少しも残ってはいなかったのである。

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