突き進む波濤
リンドが孤独の逃走劇を繰り広げている中、チャッカンマ沿岸のヴァーダマ海では同盟軍対連合軍の熾烈な海戦が繰り広げられていた。多数の艦艇を投入した同盟軍に対し手薄となっていた連合軍が投入できたのは実に十分の一にも満たない規模の艦艇で、その大半も沿岸防衛用の小型砲艦というありさまで、行われたのは海戦というよりは虐殺というべきであった。
ものの三時間ほどで九割の艦艇が沿岸に沈められ燃料で海を汚染していた。未だ浮揚し続け海上で燃えさかり止まぬ連合軍艦艇をしり目に、上陸部隊を乗せたエオ・エウリュ級重装甲強襲揚陸艇の群れが、駆逐艦に護衛されつつ海岸へと殺到する。海岸沿いの基地も既に戦艦や巡洋艦らの過剰なまでの対地砲撃によって殆ど破壊されつくしており、これといった反撃もなく一艇、一人の損失・死傷者もなく同盟軍の上陸部隊は上陸を果たすことに成功した。
上陸部隊の歩兵や戦車が迅速に展開していく少し後方の海面が隆起したかと思うと、巨大な鋼鉄の頭部が顔を出し、続いて胴、手足と空気中に姿を現し始めた。それも総勢十二機という数が。
頭部のない胴体と一体化した独特のシルエットを持つこの機体はシェーゲンツァート製の現行主力水陸両用ALオッタースラ・ヘンヴィレという小型の機体であった。
オッタースラ・ヘンヴィレ三個小隊は海水を排水口や機体の各所から噴き出して海岸を水浸しにしながら歩兵たちに先んじてのそのそとした動きで内陸部へと進んでいく。
当ALは水の抵抗を重視して携行武器は装備していないが、代わりに機体各所に展開可能な耐水外殻の裏側に各種固定武装を装備しているため、一定時間陸上での作戦行動が可能となっている。とはいえ、あくまで主たる運用環境は水中で、水中の浮力を前提として強固な外殻を持っているため、地上での長い行動は各関節に負担をかけるため、陸上は水辺での運用に限られていた。
優れたレーダーを持つオッタースラ・ヘンヴィレは短い期間ではあるが歩兵や戦車たちの目となり、そして盾となり基地制圧を支援する。
<エッテ小隊、二時方向に動く熱源探知>
<了解、確認した。撃破する>
味方からの報告を受けたエッテ小隊の四機は指示された方角に武器を向ける。腕には三連装十八㎜機関砲が備え付けられており、威力が低いため戦車やALは相手どれないがばらまくことでソフトスキンや人間に対し面制圧で効果を発揮する。彼らが確認したのは基地防衛用の装甲車であったため近い二機が銃弾をばらまき一瞬で鉄屑に変える。掃射時間は出来るだけ短く、これが基本だ。耐水殻の関係上内部空間が狭く内蔵出来る弾薬数に限りがあるため彼らAL上陸部隊は徹底的に弾薬の節約と正確な射撃能力を叩き込まれる。その真価はいたるところで発揮するので、彼らは引く手あまただという。
そんな精鋭たちは重厚な装甲で敵の小規模な抵抗を受け止めつつ瓦礫ともいうべき残骸の山を制圧し、そこから輸送部隊が物資を上陸させ始め、水雷戦隊はピケット艦隊として周辺海域へと広がり敵戦力への警戒を厳とした。
上陸部隊は港湾施設を制圧すると次いで小規模な抵抗を速やかに排除しつつ滑走路及び航空基地を制圧し一両日中にはマル・デバ・ラ・ンバ空海軍基地を制圧せしめてしまい、この上陸作戦は今大戦でもトップクラスに目覚ましい上陸作戦として記録されることとなる。
旗艦である巡洋戦艦アルバーニーニャ艦橋で、艦隊司令官エルマント・サラモア・エリースル大佐は此度の作戦の素晴らしすぎる進行に大いに満足しており、またアストリアス大陸における同盟軍の反抗作戦の足掛かりとしても非常に強固な楔を深く深くに撃ち込めたのではないかという期待も大きかった。
同盟軍は連合軍のその圧倒的物量と技術力に劣勢を強いられており、日に日に戦線を縮小し始めていた。先月には遂に主要国の一つであるシャ・オルダー王国の首都が陥落し同国は降伏した。一部の部隊は残党軍として離脱し同盟軍に残り続けたがこれによって大きく戦力を削がれた同盟軍は、アストリアス大陸北部を完全に喪失したのであった。同大陸はこの星において三番目に大きな大陸であるため、この損失は大きな痛手となっていた。
それだけに、まだ勢力圏内にある南部の防御の補強の足掛かりとなるこの作戦の順調な遂行は実に喜ばしいことなのであった。
「第三陣の上陸部隊が全物資を輸送完了とのこと、続いて第四陣上陸します」
「わかった」
ピストン輸送で輸送艦隊から次々と小型上陸艇に乗せられた物資が海岸へと運ばれていき、それをALがより内陸部まで輸送し、兵士達がそれらを開け仕分けしていく。入っている物資はどれも新品で、検品後箱詰めし工場から産地直送のこれらはいかに司令部が今作戦に期待を寄せているかの表れともいえよう。
「司令、サバラスタ(駆逐艦)より入電、ポイントF12ににて敵駆逐艦隊を確認、とのこと」
おいでなすったか、と司令は目を細めあごひげに手をやり尋ねる。
「数は」
「……四隻、です」
大方チャッカンマ北部にあるエミュニッチ共和国の基地から寄こされたなけなしの艦隊であろう。可哀そうなものだと哀れみつつ、彼はサバラスタの援護に爆撃機隊と戦闘機隊、そして駆逐艦ヘーヴァーとガドールを向かわせた。これだけあれば十分な支援になるはずだ。
「サバラスタには増援の到着まで距離を保ちつつ防御に徹し無謀な攻撃に出ぬよう厳命するんだ。今作戦我々はここを可能な限り敵を寄せ付けないことが重要である」
この基地は橋頭保となる。チャッカンマでも二番目に大きなこの港湾基地を抑えれば空母機動艦隊の中継基地としても使用でき、飛行場も大型爆撃機が滑走するには十分な長さがあるため、爆撃機隊の基地にもできるはずだ。
「サバラスタより、指示通り一定の距離を保ちつつ戦闘を行うとのこと」
うむと頷くと、彼は再び海図台に目を落とした。この後ここの防衛任務を第十一水雷戦隊へと委任し、補給を完了次第この艦隊は北上した先にあるジャドー・ラバ・エンガン・ザ基地を叩き壊滅させ、内陸部から侵攻する陸空軍の空挺部隊へ敵の増援を未然に防ぐことが任務となる。
エブドゥーネ級駆逐艦二十三番艦サバラスタは単艦敵の四隻からなる駆逐艦隊を発見、戦闘行動に移っていた。サバラスタはシェーゲンツァート海軍の駆逐艦でも一番艦の基本設計が十三年前と少し古い設計の艦ではあったが、最終艦であり就役したのも二年前であったため、各所の設計変更により十分に戦えるしようとなっていた。それでもわずか一隻で四隻の駆逐艦を相手にするのは無謀であるはずだ。が、それでも戦闘を司令が行わせたのは同艦が重駆逐艦であるからだった。
駆逐艦にしては大きめの排水量のエブドゥーネ級は一般的な駆逐艦に比べると装甲が二十パーセントほど厚く、また主砲も十五㎝連装砲を四基搭載、六連装中距離魚雷発射管一基搭載をしており、一隻で二隻分は働けるとも言われていた。
実際、今大戦を通じてもその噂に恥じぬ性能を発揮しており十番艦ネザレリオは一隻で三隻の駆逐艦、一隻の巡洋艦、二隻の潜水艦を一度の戦いで沈め、他五隻に損傷を与えつつ轟沈するという多大な戦果を挙げた例もあるほどであった。
故にエブドゥーネ級は海軍の兵士たちからも信頼の厚い艦であり、上手く運用すれば数倍の敵でも相手取れる優秀な艦であることは間違いない。
同艦艦長アルドルガ大尉は総員に戦闘用意を発令すると機関を最大、右舷を敵艦隊の左側面に斜めの角度から艦を並走させた。




