ひとりの要塞
オートでアルグヴァルは進んでいく。地形情報を読み取りAIが解析し障害物と思しきものを出来るだけ避けつつゆっくりと歩いていく。その間にリンドは機器のチェックや味方部隊との通信を試みるが、どうにもつながらずノイズばかりが耳に入るだけで、うんともすんともいってはくれない。
「困ったぞ……」
もし敵が自分に向けて追撃部隊を出していたら最悪だ。できればこんなところで重ヴァルの火力を発揮させたくはない、こいつの火力は都市部にはあまりに過剰すぎる火力だ。まだこれが放棄された都市なら遠慮なく使っていただろう。だがここは人々が今も尚生活を営んでおりただ退避しているだけのこと。すぐに住人たちが戻ってきていつも通りの暮らしを再開するのだ。そんなところ壊したくはない。だが、かといってそんな気遣いのせいで死ぬのもまっぴらごめんであった。
今のアルグヴァルの兵装はいつものガトリングシステムに加えて五十五㎜対空砲をバックパックに増設しており、対空能力が上昇している。これの直撃を食らえば装甲の薄い飛行型ALなど一撃で撃墜も可能だ。
他には突撃銃を二丁、その弾薬をいつもの1.8倍、予備火器としてAL用四十八㎜チェーンガンがバックパック下部から懸架してある。今までつかったことはないが、性能は申し分なさそうであることは、今読んでいるマニュアルからなんとなく理解できた。他固定兵装はいつもと一緒であるが、そういえばグレネードが倍に増えていたおかげで、ラックは一定数であるのにそうなったせいでワイヤーでぶら下げる形となっているため一応テンションをかけて固定してはいるもののおっかなくて思い出すたびにぎょっとしていた。
「ん?」
レーダーが敵機を捉えたことを示す警告音を発したので、慌ててオートモードを解除し操縦に戻った。後方から車両と思しき反応六、左前方からALと思しき反応二、挟み撃ちというわけか。
急いで判断せねばならないが、挟み撃ちされるという危機的状況にリンドの心拍数は劇的に上がっており冷静な判断どころではなかった。それでもとりあえず重ヴァルがギリギリ通れるくらいの横道にスライド移動するように潜り込むと、右腕だけ出してその場に待った。モニタの三分の二にドアップの建物が映し出され狼狽えそうになりつつも、すぐ所定の操作を行った。すると映像が切り替わり通りが映し出された。だが、映像は先ほどまでと比べると若干質が落ちる。
これは以前ジュードルから教わった方法で、モニタに映し出される映像を突撃銃に搭載のセンサーから回しているのだ。これはまだリンドが第四小隊に配属される前のこと、ジュードルのアルグヴァルが頭部付近を手ひどく破壊されモニタの映像がほぼほぼ死んでしまった際に思いついた方法らしく、彼は数時間そのとても扱いづらくて仕方のない方法で戦い続けたらしい。
リンドは突撃銃の先を前後に動かし視界を確認すると思わず口元を抑えてしまった。急激に視点が動くものだから酔いやすいのだ。そう言えば、ジュードルはこのことについても言及していた気がする。
「よくもまあこんなんで数時間動き続けたもんだぜ」
ジュードルはこの状態で走り回り縦揺れ横揺れ、撃つたびに襲う激しい振動によるカメラの酷いブレを数時間ものあいだ我慢し続けたのだ。つくづくベテランは凄いということを思い知らされるリンドであったが、実は彼はリンドに全てを離していなかった。これで数時間戦ったのは本当だが基本塹壕にこもりっぱなしであまり動いておらず、また彼はその時の戦いでコックピットを全交換しなければならないほど吐瀉物を辺り一面にまき散らしたという苦い経験があったのだ。
「来るなら来いよ!」
いざという時はもうちょっと機体を出して右側だけガトリング砲を使うという手もある。できればそれは避けたいが命には代えられない。
「あっ!」
リンドは視界の端に映ったヘリを見てとんでもないことに気がついた。ヘリの接近にレーダーが鳴らなかったのは対空レーダーを切ったままにしていたためだ。輸送中は対空レーダーが誤作動することがあるため降下まで切っておくのが基本となっていたためついそのままにしてしまっていたのだ。
最悪だ、リンドは顔をしかめて悔いたが後の祭りである。対空火器を積んでいるとはいえ、地を行くALに航空戦力は脅威であることに変わりはない。ヘリはもう既にこちらの姿を捉えているはずだ。照準の先に飛行するヘリを捉えると引き金を引いた。
結果は三点バーストだったが弾は外れた上にその振動とマズルフラッシュの予想以上の反動に一発で眩暈を起こし、震える手で設定を戻した。よくもジュードルはこんなことできたものだと再び思うが、ジュードルが使っていたのは突撃銃ではなくより小口径のAL用ライフルであったため振動はもう少し少なく済んでいた。それでも十分な振動はあったが。
攻撃をはずしたことでヘリは反撃の機会を得た。機首の向きを重ヴァルの隠れている方向へと変えつつそのまま左へとホバリング移動しながら両翼に備えられているチェーンガンを斉射する。
「わあああーー!!」
高速で大量の弾丸が周りに着弾し、大部分が外れたものの命中弾が右腕と足の装甲にぶち当たり叫び声を上げる。この程度で重ヴァルの装甲はビクともしないが恐ろしいものは恐ろしい。
「こんにゃろ……」
お返しとばかりに、突撃銃をフルオートモードに切り替えて斉射する。無数の放たれた巨大な弾丸は一撃でヘリの尾翼をへし折り二撃でコックピットを粉砕し三撃で木っ端微塵に砕いた。無駄弾が多数出てしまったが、仕方がない。リンドはフルオートから再び三点バーストに切り替え節約を心がけると路地から出た。こんな戦い方をしなくとも重ヴァルにはそんじょそこらの攻撃など受け付けぬ自慢の重装甲があるのだから。シェーゲンツァートの男して女々しい死に方なんぞできるかと男を奮い立たせると、リンドは操縦桿をしっかりと握りしめ、機体を進める。
まずは前方の敵を撃破しつつ後方に牽制射を行い前の方を殲滅。すぐに後ろを向いて後ろも殲滅。これでよし。
彼なりにその場で敵を倒す算段をつけ少し安心したのか、彼は深くため息をついた。それと同時に対空レーダーが警告を発し、三・七時方向から三機のヘリが近づいていることを示していた。どうやら僚機が撃墜されたことで集まってきたらしい。これはいよいよ進退窮まったぞと背筋を凍らせていると、遂に地上の敵が姿を現した。後方から戦車が一両、角から前半分だけ露出させて砲塔をこちらへと向けている。しかしそれとほぼ同時にリンドも左腕の突撃銃を戦車に向けており、双方の弾丸が交差した。威力としては戦車の方が数段勝る。しかしこちらの強みは数であった。戦車ほどではないにしろ大口径の弾を連続で撃ちだすのだから重厚な戦車の装甲でも耐えられない。戦車の放った砲弾は頭頂部の少し上をすり抜けて空へと消えていき、代わりに三発の突撃銃の銃弾が戦車に二発命中、粉砕した。そこに一両目が撃破されると同時にもう一両が頭を出し撃つ。今度は胸部装甲に命中するも傾斜装甲が跳弾させ、振動がコックピットに響き渡る。
「ああ!!」
もう一度三点バーストを行うが戦車は既に後退しており路面を破壊するだけであった。他の戦車はどこだ、リンドはレーダーを血眼になって探す。戦車部隊がたったの二両なわけがない。少なくともあと二両はいるはず。
「うしろ!!」
咄嗟の判断が彼を救った。あと一秒でもその判断が遅れていれば弾薬をしこたま背負ったバックパックに主砲の直撃を受け重ヴァルは誘爆を起こし跡形もなく吹きとばしていただろう。ただし、恐らく融合炉も誘爆するであろうから、町一つが塵芥へと消えるだろうが。
右腕が二の腕の部分から後方に百八十度旋回すると後方を映すメインモニタの端の後方カメラの映像に丁度頭を出したばかりの戦車が映った。
「死ね!」
実にストレートな罵倒とともに引き金を引き、これも三点バーストで戦車を仕留める。さらに両車の爆発を避けるために急激にハンドルを切ったために飛び出しすぎてしまった三両目も次いで撃破。




