夜明けの囁き
陽暦1995年10月1日 午前4時
ギムリ国南西部自由同盟基地より、シェーゲンツァート帝国空軍第2機械化混成空挺師団所属のジェイゲルグ高速輸送機四機とビリリウム小型高速輸送機二機が大空へと飛び立った。AL二個小隊と工兵部隊、そして補給物資を積載した六機の輸送機が陣形を組んで南東へと進路をとった。その周囲にはあらかじめ上がっていた護衛戦闘機が十五機、彼らを取り囲むように展開していた。
降下まであと三時間ほど彼らは空の旅を楽しむこととなる。今回も重ヴァルに乗り込んだリンドは、隊長機のアルグヴァルの背中を眺めていた。つまり一緒にいるのはキリルム中尉なのだ。隊長と一緒というなんとも気まずい空間に、居心地の悪さを感じながらもしかたがないことだと現実を受け入れるように努めていた。重ヴァルだけでこのジェイゲルグのペイロードの半分以上を使ってしまうのだ。残りは積載バランスなどの関係上、中量級のAL以下が一機しか載せられないのであった。あとの空間には食品や衣類などの軽い補給品を積んでいた。
リンドは機器のチェックをする。今回は超巨大輸送ヘリであるシムシュカではなくジェイゲルグでの降下だ。この両者では勝手が違う。前者なら空中にて静止した状態ないし低速で真下におろされる。対して後者では時速百km超という高速で真後ろに放出されるのだ。降下するとすぐに速度を落とし、それでもまだ百km前後の速度で地面に突っ込んでいくのだ。いくらALの分厚い装甲に守られているとはいえ、怖い。
「憂鬱だよ、ほんと……」
機体の状態は良好なようだ。しかし彼は一つ不安な点を抱えていた。それは重ヴァルが左腕に携えている巨大な機関砲であった。前回は両手に一丁ずつ突撃銃を携えたが、今回抱えていたのは一丁の128㎜重機関砲なのだ。この機関砲、威力は絶大でいかなるALの装甲も打ち砕いてしまう代物だが、それを打ち消して余りある欠点というか不安要素を抱え込んでいた。
まず重量である。9mという長砲身に加え各所に防弾板を張っているため非常に重たい。その上口径が大きいためその分重量が嵩む。次に大口径かつ高連射のために反動がすさまじいことであった。その反動は普通のALが使えば激しく絶え間ない反動ですぐに関節に負荷をかけてしまうため、バイポッドなどで地面で支えて使用する。しかし重ヴァルならそれに対応した機構とソフトを組み込んでいるため、抱えて使用ができるのだ。そしてその反動が何なのかというと、簡単な話、ブレて当たらないのである。抱えて撃てる分には撃てるが、そう、言葉通り撃てるだけなのだ。流石の重ヴァルでも、その反動を完全に吸収しきれなかった、そのため反動により弾が狙ったところに収束せずあちらこちらにばらまかれてしまうのである。本来の機関銃としての用途としてはそれでよいのかもしれないが、いかんせん扱いづらいということで前線の兵からは非常に不満の声が上がっていた。にもかかわらず、この迷銃は大戦終結まで使用されることとなる。
つまり新兵である彼には手に余る銃なのであった。なのにどうしてこれを持たされなければならないのかまったくもって腑に落ちなかったのである。
彼がチェックを終え、手を震わせていた時、キリルムからの通信が入った。
「なん、何でしょう」
不意を突かれた彼は、上ずった声で応えた。
〈……俺たちが場を制圧する。お前は落ち着いて、戦功をあげようと焦らずに来い。兵士が死ぬ原因の大きな一つ、手柄を立てようと焦ることだ〉
「は、はあ」
自分では戦功を焦ったという意識は、前回の出撃ではなかった。それは恐らく生きるのに必死だったからだろう。
〈多分、お前はそんなつもりはないとか考えているだろうが、出撃を重ねて慣れていくうちに余裕が出て、それで今度はいいかっこをしようとちょっと変な色気を出しちまう時期が来る。それがいつかはわからん。が、そうやって死んだやつを何人も見てきた。お前のような新兵を何人も、だ〉
無愛想そうな人だと思っていたが、案外いい上官のようで彼は少し手の震えを抑えることができた。
彼はもう少しだけ続けた。
〈死にたくないだろう。なら生き残ってきたもののいうことを、少し聞いとけ。少しは、な〉
「ハイ!」
彼は、元気よく返事をした。




