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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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数珠つなぎ(2)

 AWは部品をまき散らしながら飛んでいく。それとボルトラロールがともに宙を舞う様子はまるでスローモーションのように見え、リンドとテルペヴィラは始め視界に映ったことを理解できなかった。だが、AWの残骸が路肩に転がり、ボルトラロールが家の壁に空いた穴に吸い込まれていったのを見て大変なことが起きたのだと理解し、一目散に彼の元へと向かうべく階段を駆け下りた。しかし、彼が消えたのは通りの反対側、通りに飛び出ようとしたところですぐ目前にALが迫っていたためこのまま飛び出せば遮蔽物もないこの状況、対人機銃でハチの巣にされるのがオチだ。

「畜生……」

 二人は歯を食いしばってすぐ目の前にいるはずのボルトラロールの元へと駆け付けられないじれったさにやきもきしていた。居ても立っても居られないが、かといって助けに行くわけにもいかず。どうすればいいかと悩んだ末、リンドは元いた部屋へと駆け上がっていった。

「軍曹殿!どこに!」

 後を追いかけてくるテルペヴィラの方を振り返らずに彼は自分の考えを吐き捨てるように口走った。

「とにかく敵が邪魔なら倒せばいい!元の作戦通りだ!」

「あっ、なるほど」

 二人は部屋に戻ると窓から頭を半分だけ出して見つからぬよう外を観察する。するともう本当に目と鼻の先までALは接近しており、他の潜んでいた仲間やバザモと死闘を繰り広げている最中であった。

「フルー、手榴弾持ったな」

 リンドは震える手で拾ったゼーキ製手榴弾を握りしめながら、同じく全身を震わせながら手榴弾を握るテルペヴィラに尋ねる。二人はこのまま手榴弾で特攻まがいの肉薄攻撃をしかけるつもりらしく、大型ALらしく重装甲で強気に無理矢理戦線を押し上げて迫ってきたALが近づくのを窓を開け枠に片手をかけて待っていた。

 こんなにも体が恐怖で震えるのは久々のことだ。寒さで震えたのは散々経験したしもうあんな寒い場所にはいきたくなどない。

 ALの肩が、すぐ目の前にある建物の柱に衝突して一部を抉り取り、振動で二人はよろめく。リンドは通り過ぎぬうちに立ち上がると、手榴弾のレバーを捻りALの頭部目がけて思い切り放った。回転しながら飛んでいったそれは、頭部側面に当たるとカンカンと音を立てて首元へと落下していった。一瞬のことであったため敵は気づいていない、あるいはこんな対戦車兵器すら持っていない虫など相手にするつもりもないということだろうか。だが、そのほうがありがたいというもの。

「よっしゃ!」

 小声で喜び拳を握ると急いでしゃがみ姿を隠す。それから三秒後、小さな爆発音が起き金属板が破壊されたような音がした。どうかと思い立ち上がった先には、頭部を損傷したALが見えたが、大した損傷は見られず機能はほぼ健在と見えALに手榴弾程度の武器が効かないことを思い知らされたリンドであった。それどころか、ALは彼の存在に気づき今の攻撃の主であることを理解すると、ライフルを握ったまま腕をリンド目がけて建物に叩きつけた。

「うわああ!!」

 吹っ飛ばされるテルペヴィラは瓦礫と共に転がりテーブルの足に衝突して止まると、痛みも忘れて立ち上がりリンドの無事を確かめる。だが、リンドが立っていた場所には大穴が開いており、そこにその姿は無かった。

「あ、ああ……」

 目の前で先輩パイロットが酷い殺され方をしたのを目撃してしまった彼は、その場にへたりこみ這いつくばるように物陰へと逃げ込んだ。もう、自分は一人になってしまったのだ、頭を抱えて震えるテルペヴィラはただただALが自分に気づかず通り過ぎていくのを願うばかりであった。

 そこに、聞き覚えのある声が大きく叫ぶのを耳にし、思わず顔をだして窓のほうを見やると一瞬だがチラリとALの腕と何かが映ったのを見た。まさか、そう思い彼は窓のところまで這って進み頭を出すと、そこにはALの腕にしがみついているリンドの姿があった。

「軍曹!?」

 なんとリンドは奇跡的にあの一撃で潰されていなかったのだ。ALのパイロットはリンドを潰すつもりで正確に腕を振るった。だが、頭部が損傷させられていたことにより認識装置等が破損、実際には少しばかり下を殴っていたのだ。そのため、床が粉砕されたリンドは崩落した足場と共に重力に引かれ落下した直後、建物に突き刺さっていたALの右腕に落着、脱出するつもりがすぐにALが腕を引き抜いたため反射的に装甲の端を掴んでしがみついたのだった。

「死ぬかよお!」

 土まみれのリンドは顔を拭う隙さえ与えられず振り回された。離してしまいそうなほど遠心力に揺さぶられたが、ここで話せば飛んで二十m程下に激突してしまう。死んでたまるかという執念が彼に普段以上の力を出させていた。が、それでもやはり限界は来る。右手が滑って離れ、あわやというところでALの胸部にバザモの放った徹甲榴弾が直撃、コックピットを吹き飛ばされたためそのままコントロールを失い倒れ行く。その衝撃でまたリンドは上へと放り上げられたが、これまた奇跡的に反対側の通りの家へと落下した。

 屋根への激突の直前、倒れたALの左手が屋根と壁を粉砕、出来たばかりの穴に落ちたリンドは建材の瓦礫がクッションとなり体中をぶつけたり小さな傷を負うだけで済んだ。

「いっつぅ……」

 痛みに呻く。やはりクッションになっていようが、数mも落下したのだから落下のダメージはそこそこあった。それでも、立ち上がって穴のふちに駆け寄ると、次のALが抱えていたバズーカ砲を構え、この距離でバザモめがけてぶっ放した。人間用のサイズでも、後方には危険な噴射が起きるため後方にいることは禁じられている。それがAL用の大きさともなればそのバックファイアはその比ではなく、また両脇を高い建物に挟まれた狭い通りであったために煙の逃げ場が背減され、あたり一面噴煙に包まれてしまった。リンドは急いでベッドのしたに潜り込んで事なきを得たが、もしかすると巻き込まれた仲間がいたかもしれない。

 発射された弾頭は長らく奮戦していたバザモを終ぞ爆散させ、その爆発の威力たるや周囲の建物数棟を崩壊させほぼ直撃と近い形となったバザモの変わり果てた車体が五十mほどは空高く舞い上げられ、近くの宗教施設に落着、その建物も全壊させた。

「マズイ……」

 これで奴らに対抗できるものはいなくなった。まだALが少なくとも一機、そして恐らく戦車が残っているとみられる。もはやこれまで、そう諦めかけた彼の目線の先に、転がっている対戦車ロケットランチャーがあった。這いよると爆発で壊れた壁とその反対側の壁に撃ち捨てられたように無残に転がる同じ懲罰部隊の兵士。

(借りるぜ)

 リンドはランチャーを拾い上げると、その重さにふらつきつつも構え、壁に空いた穴から通り過ぎていったALの背中を狙う。緑色のスコープの画面には、しっかりと腰のバックパックの下にある装甲の薄いと思わしき部位が映っていた。

「背中がお留守だぜーっ!」

 勝ち誇ったように叫び、引き金を引く。その瞬間肩を持っていかれるような急な衝撃を受け筒からは弾頭が超高速で飛翔、ランチャーの知識がなかったのもあったがボロボロのリンドは碌に踏ん張ることも敵わず、反動に負け先ほど落着した瓦礫に再び背中から飛び込む羽目になった。だが、その一方で外では彼の撃った一発がしっかりとALの背中に命中し、重要部を破壊されたALはほぼ原形をとどめていたとはいえ重要区画に著しい障害を受けその機能を停止した。

「やったみたいだな……あとは……」

 戦車をやらねばなるまい。瓦礫から起き上がったリンドは激痛の走り動かない右肩をおして外の様子を窺うとやはりまだ戦車が残っていた。それも二両も。この体ではもうランチャーは扱えないし、そもそも弾もないだろう。再び捕虜になるかそれとも懲罰部隊として特攻でもかけさせられるかと覚悟していたのだが、なんと彼の見ている前で戦車が後退していくではないか。

「あ?」

 どうやら、頼みのAL達が皆撃破されたことで戦意を喪失したらしく二両の戦車は足早に後退していった。

「助かった……」

 脱力したリンドはその場にへたりこむと、深いため息をついた。安堵してわかったのだがこのやけに痛む肩はもしかすると脱臼をしているのではないだろうか。知ってはいる怪我だが、まさか自分がこうしてなるとは思わなかったリンドはその痛みにただ力なく笑うしかなかった。

 だが、体を休めている暇がないことにすぐに気づいたのは、階段を上ってくる足音のためだった。どうやら複数人いるらしくリンドは急いで拳銃を抜こうと腰に左手をやったがない。どうやらALに振り舞わsれ他時に落としたようだ。死んだ仲間なら持っているかもしれないとよろめきながら立ち上がった彼を支えたのは、テルペヴィラとボルトラロールであった。

「たっ、隊長!?」

 彼は自分の服の背中を掴んでいる人物を見て動揺を隠せなかった。テルペヴィラに肩を貸されながら立っているボルトラロールは服もボロボロであちこちに血を滲ませているが、確かにあのボルトラロールである。

「死んだと思ったか?俺も思ったさ」

 彼曰く、空中に放り出されたときは死んだと思っていたそうだが、よくわからないが生きていたらしい。ただあちこちをぶつけているため全身が痛むらしいが。

「お前たち……よく生き残ってくれたな……」

 ボルトラロールは涙ぐみながら二人の若き部下たちとの無事の再開を喜び、抱き合った。

「よかったです」

「あぅ、ちょ、肩が痛いんです……」

 


 翌朝、住宅街に進軍した本隊に回収された第四小隊は、総司令部より原隊復帰の辞令が出され、後方の病院で治療を受けたのち、空挺AL部隊の任に復帰した。

 あまりに過酷な任務に、皆が傷つき、そして捨て駒として扱われた同じ境遇の仲間たちの殆どを失った。この忌むべき記憶は彼らに何をもたらしたのだろうか……

 答えが出る日など来ない……

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